10話 政略結婚(脚本)
〇城の回廊
メリナ「アオイ、今日は庭を案内するのじゃ!」
富士丸葵「はい、メリナ姫」
〇城の廊下
メリナ「次は図書室へ!」
富士丸葵「はい・・・」
〇厩舎
メリナ「今度は馬を見てみたいぞ!」
富士丸葵「・・・・・・」
女の子の気まぐれに付き合うのは、長い女子校生活で慣れっこだ。
富士丸葵(だけど、こう振り回され続けると、さすがに疲れが・・・)
〇城の回廊
げっそりした顔で回廊を歩いていると、向こうから風格漂う壮年の男性が近付いてきた。
富士丸葵(宰相のブランだ!)
ピリリと背中に緊張が走る。様子をうかがいながら頭を下げると、向こうも慇懃に礼をした。
メリナ「宰相のブラン殿じゃな。ご機嫌よう」
ブラン「メリナ姫にはご機嫌麗しゅう」
柔和な笑顔を浮かべるが、その目はちっとも笑っていない。
ブラン「それにしても、噂通り仲睦まじいですな。メリナ姫はお妃候補の筆頭だと伺っていたが」
ブラン「この分では騎士団長殿がバザルトの財宝の受取人だ。いや、めでたいめでたい」
そう言いながら、冷たい横目で私を見る。
富士丸葵「バザルトの財宝?」
ブラン「おや、ご存じなかったか。これは口が過ぎたようですな」
ブランは唇の端をゆがめて笑う。
ブラン「若いおふたりの邪魔はしますまい。お幸せに」
意味ありげにそう言い残して、ブランは去って行った。
富士丸葵「すみません、なんだか変な空気になっちゃいましたね」
険悪な雰囲気を振り払うように、笑顔を作ってメリナを振り返る。
メリナ「構わぬ。言いたい者には好きなように言わせておけばいい」
メリナはそう言って、大人びた表情で肩をすくめた。
メリナ「バザルトの財宝というのは、我が国の特産品であるバザライトという宝石のことじゃ。」
メリナ「たいそう貴重な宝石で、諸国では高値で取引される」
メリナ「ゆえにバザルト公国は小国ながら大国並みの蓄えがある」
富士丸葵「そう言えば、姫のドレスにも綺麗な宝石が・・・」
まばゆく輝く黄色の石がひとつ、胸元に縫い止められている。
メリナ「これひとつで、小さな城が建つ」
富士丸葵「そ、そんなに高価なんですか!?」
メリナ「姫はこのバザライトを、宝箱いっぱい持っておる」
メリナ「姫が他国に嫁入りすれば、それはすべて婚家のもの」
メリナ「ゆえに、バザルトのような小国でも、大国との縁組みを望まれるというわけじゃ」
富士丸葵「そんな・・・財産目当てで結婚なんて」
メリナ「一国の姫の結婚など、大抵はそんなもの。この舞踏会だって、姫は行きたくないと言ったのに」
メリナ「父上がレイルズ殿とお近づきになる絶好の機会だからと──」
メリナはそう言いかけて、はっとしたように咳払いした。
メリナ「とにかく、父上がいかに姫とレイルズ殿との縁組みを望もうが、言いなりになるつもりはない」
メリナ「自分の選んだ殿方と一緒になると、姫は幼い頃より決めているのじゃ」
力強い笑顔を浮かべるメリナに、私は曖昧な笑みを返すことしかできないのだった。
〇兵舎
メリナ姫から解放された私が兵舎で一息入れていると、マルクがやってきてテーブルの向かいに座った
マルク「まさかお前がバザルト公女と縁組みすることになろうとはな・・・」
富士丸葵「だから、違いますって! ただお世話係に任命されただけですから」
マルク「ふん、からかってみただけだ。お前に王太子殿下のお妃候補を奪う根性があれば、大富豪になっていたんだろうが」
富士丸葵「マルクまで・・・ブランと同じようなことを言わないでください」
憤慨してそう言うと、マルクが眉をひそめた。
マルク「ブランがお前に何か言ったのか?」
富士丸葵「バザルトの財宝の受取人だとか、お幸せにとか、意味ありげに」
マルク「ふむ、なるほど」
マルクは眉をしかめて熱い紅茶をすすった。
マルク「実は、国王陛下が病に倒れた隙を突き、敵国がユルベールの領土を狙っていてな」
マルク「侵攻に備えるため軍事費がかさみ、我が国は財政難に陥っている」
マルク「ブランはその責任を王太子殿下に押しつけようとしているのだ」
富士丸葵「財政難ということは小耳に挟んでいましたけど、そんなに大変な問題だったなんて・・・」
マルク「だが、もしもメリナ姫が王太子殿下の妃になればどうなる?」
富士丸葵「えっ・・・」
ドキンと胸が跳ね上がる。けれどつとめて冷静に、私は考えを巡らせた
富士丸葵(メリナと結婚した相手は、莫大な財宝を受け継ぐことになるって言ってたよね。 となると・・・)
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