王太子殿下、女の私が騎士団長でいいんですか!?

川原サキ

9話 わがまま姫(脚本)

王太子殿下、女の私が騎士団長でいいんですか!?

川原サキ

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〇厩舎
チャイブ「騎士団長! 大変だ!」
  青い顔で駆け込んできたのは、騎士団員のチャイブだ。
富士丸葵「落ち着いて、どうしたの!?」
チャイブ「さっき、知らせが届いたんだ。舞踏会に招待されてる客の馬車が、国境近くの東の森で脱輪したってよ!」
富士丸葵「招待客の馬車が?」
富士丸葵「すぐに助けに行かなきゃ!」
  私は急いでシラカバを馬房から引き出す。
チャイブ「待て、団長。東の森は狼が出る、装備を調えねえと!」
富士丸葵「なら、チャイブはみんなに知らせて装備を固めてから来て。私は先に現場に向かう!」

〇けもの道
  東に向かってシラカバを走らせ、森についたころには時刻は真夜中過ぎになっていた。
  道を外れ横倒しになった馬車はすぐに見つかったが、周囲に人の気配はない。
富士丸葵「積んでいた食べ物が荒らされた跡がある。チャイブが言ってた、狼かな」
シラカバ「ブルルン!」
  シラカバが同意するように鼻息を荒げた。
富士丸葵「馬車に乗っていた招待客は、狼から逃げるためにこの場を離れたんだ」
富士丸葵「そう遠くへは行っていないはずだけど・・・」
  薄暗い森を用心深く進む。狼らしき遠吠えが聞こえるたびに、シラカバが警戒を露わにする。
富士丸葵「おーい! 誰かいませんかー?」
  声を上げながら進むと、遠くでゆらゆらと灯りが揺れるのが見えた。
富士丸葵「あそこだ! 行こう、シラカバ!」

〇けもの道
狼「ガルルルルル・・・」
従者「あ、あっちへ行けぇ!」
???「どうなっておるのじゃ! 助けはまだか!」
従者「わ、分かりません~!」
???「だから舞踏会なぞ出たくなかった! 姫はもう国に帰──」
狼「ガウウゥッ!」
???「きゃーーーーっ!!」
葵「危ない、伏せて!」
  少女に飛びかかろうと身構えた狼に向かって、シラカバに乗ったまま突っ込むとグッと手綱を引き──
富士丸葵「シラカバ、クールベット!」
シラカバ「ヒヒィーーン!」
  私のかけ声に合わせて、シラカバが前足を揃えて高く上げた。
  馬術大会では必ず披露した、シラカバの得意技だ。
狼「キャウンッ!!」
  狼は飛び上がって驚くと、尻尾を巻いてその場を駆け去った──。

〇けもの道
富士丸葵「おケガはありませんか?」
  シラカバから降りた私は、木陰にうずくまる、卵色のドレスの少女の元へ駆け寄った。
???「貴方様は・・・」
  目を丸くしてこちらを見上げた少女は、まだ13、4歳だろうか。
  太い眉の下で、意志の強そうな鳶色の瞳がキラキラと輝いている。
???「もしや・・・レイルズ王太子殿・・・?」
富士丸葵「え? いや、私は──」
???「お隠し召さるな、姫には分かる。その優しき物腰、真摯な眼差し。 主こそ紛れもなく、レイルズ殿!」
  少女は芝居がかった口調で言うと、ギュッと私の手を握った。
???「姫はメリナ・フォン・エルフェンバイン。バザルト公国の第二公女で──」
  そこで1度言葉を切り、じっと私を見つめると。
メリナ「レイルズ殿の、フィアンセじゃ!」
富士丸葵「ふぃ、フィアンセーーーー!?」

〇貴族の応接間
富士丸葵「というわけで、こちらがバザルト公国のメリナ姫です」
  一夜明けたイーリス城では、レイルズがにこやかにメリナ姫を出迎えた。
レイルズ「ようこそ、メリナ姫。馬車が脱輪するなんて災難だったけど、お怪我がなくて何よりです」
メリナ「・・・・・・」
  メリナはレイルズに応えようともせず、むっすりと口を閉じ黙り込んでいる
富士丸葵「メリナ姫。こちらが『本物の』レイルズ王太子殿下です」
メリナ「知らぬっ! 我が殿はお主ひとりじゃ!」
  メリナはがっしりと私の腕を掴み、離そうとしない。
メリナ「荒れ狂う猛獣の群れの中、ひるむことなく命がけの戦いを挑み、震える姫を力強い腕で抱き上げてくれた勇敢なる騎士」
メリナ「これが運命でなくてなんであろう!」
富士丸葵「いや、狼は一頭でしたし、とりあえずシラカバに乗ったまま脅かしてみただけで、命がけってほどでは・・・」
レイルズ「ぷっ」
  おかしくてたまらない、といった様子でレイルズが吹き出した。
メリナ「レディを笑うとは、何事じゃ!」
レイルズ「これは、失礼しました。ですが、我が国の騎士団長をそれほどに困らせるとは、姫もなかなかの豪傑ですね」
  含み笑いをしたままそう言うと、レイルズは私に視線を送って告げる。
レイルズ「アオイ、今日から舞踏会までの1週間、姫のお相手は任せたよ」
  メリナ姫は、ひまわりの花のような力強い笑顔を浮かべると、優雅に一礼する。
メリナ「アオイ殿。1週間と言わず、末永く、よしなに頼むぞ!」

〇王妃謁見の間
  メリナの世話係に任命された翌日。
  お茶会の招待を受け、私はメリナと王妃の間に出向いた。
富士丸葵「では、王太子殿下とフィアンセというのは、正式なものではなく・・・」
メリナ「そういう話が出たことがある、というだけじゃ。 アオイ殿が王太子に遠慮することはない」
  ツンと澄まして言うと、メリナは紅茶を口に運んだ。
ローザ「財務大臣がずいぶん積極的に話を進めていたのよね」
ローザ「だけど国王陛下が体を悪くしている間に立ち消えになってしまってねえ」

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