7話 王妃のお茶会(脚本)
〇貴族の応接間
レイルズ「母上が、アオイに会いたいとおっしゃっているんだ」
その朝、突然レイルズに言われて、私は目を丸くした。
富士丸葵「王太子殿下のお母様、ということは、王妃様が?」
レイルズは病気の国王の代役を務めているが、立場はあくまでも王太子。
身分の低い人や外国からの使者とも直接会うし、お城でも自由に過ごしている。
富士丸葵(でも、国王陛下や王妃様となると・・・)
お城の中でも一番奥の「王の間」や「王妃の間」からめったに出てこず、私は顔を見たこともない。
富士丸葵「私なんかがお会いしてもいいんでしょうか」
レイルズ「そう堅くならないで。母上はとても──」
レイルズはそこで一旦言葉を切り、目を泳がせた。
レイルズ「気さくな人、だから。きっと葵のことを気に入ると思うよ」
富士丸葵(妙な間が気になるけど・・・)
富士丸葵「分かりました。では、お茶の時間にお伺いします!」
〇王妃謁見の間
案内されたのは、王太子の間よりもさらにきらびやかで繊細な広間だった。
富士丸葵(ここが王妃の間か)
南向きの窓の外には美しい中庭が広がっており、季節の花が咲き乱れている。
ずらりと並ぶ召使いは全員若い女性。
同じ女官の制服だけれど、髪型やリボンの結び方にそれぞれ工夫を凝らしお洒落している。
富士丸葵(この空気、女子校を思い出すな)
富士丸葵「いつも通り、この格好で良かったでしょうか?」
レイルズ「大丈夫、よく似合ってる」
私を落ち着かせるようにレイルズが微笑んだとき、優美なベルの音が広間に鳴り響いた。
女官「王妃様のおなりです」
厳かに告げる女官の声に、慌てて深々と頭を下げる。
奥の扉が音も無く開き、衣擦れの音とともに鈴を鳴らすような可愛らしい声が聞こえてきた。
ローザ「ごきげんよう。わたくしがユルベール国王妃、ロザリア・アルマンダイン・ドラモントです」
富士丸葵「は、初めてお目にかかります。王太子親衛騎士団長の、アオイ・フジマルです」
最敬礼の姿勢のまま名前を名乗る。
ローザ「アオイ、貴方の噂はかねがね聞いていたわ。もっと早く会いたかったのに」
ローザ「レイルズが『アオイは忙しいから』と言って、なかなか会わせてくれなくて。ひどいでしょ?」
富士丸葵「え? は、はぁ」
言葉を挟む間もなく、王妃は喋り続ける。
ローザ「だからわたくし、アオイを連れてこないと、来月のお茶会に毎日参加させるわよって――」
ローザ「あら、どうして顔を上げないの、アオイ。わたくし、貴方の評判の美貌を楽しみにしているのに」
レイルズ「母上が許可しなければ、臣下は顔を上げられません。 何度も申し上げているではないですか」
ローザ「あら、そうだった?」
ため息混じりのレイルズの言葉に、王妃はあっけらかんと言うと、私に歩み寄った。
ローザ「ごめんなさいね、アオイ。さあ、顔を上げて」
恐る恐る顔を上げると、そこにはレイルズと瓜ふたつの顔をした、バラ色のドレスの美少女がニッコリと微笑んでいた。
富士丸葵「あ、あれ? 王妃様は・・・」
ローザ「わたくしが王妃のローザよ。本当に噂通り、いいえ、噂以上の美貌の騎士ね!」
ローザ「ああ、どうしてこんなに地味な衣装を着せているの?」
ローザ「もっとレースをたっぷりとあしらった、ゴブラン織りの衣装を──」
富士丸葵「あ、あの・・・」
レイルズ「母上、葵は騎士ですから。派手すぎる衣装は仕事の邪魔になります」
ローザ「あらぁ、これだから男の子って嫌だわ。美しいものを愛でる心が足りないのよね」
ローザ「アオイ、貴方はどう? もっとお洒落をしたくない?」
富士丸葵「あの、それよりも! ひとつよろしいですか?」
なんとか口を挟むと、ようやく王妃の機関銃のようなお喋りが止まった 。
富士丸葵「王妃様、なんですよね。王太子殿下の、お母上の」
ローザ「ええ、そうよ。19歳のときにレイルズを産んで、今年でもう35歳」
富士丸葵(35歳!? 私と同年代、ヘタしたら年下に見えるんですけど!!)
ローザ「ねえレイルズ。着飾った貴方とアオイが並んで立っていたら、それはそれは絵になってよ?」
ローザ「女官たちも喜ぶし、仲良くしている姫君方にも見せてあげたいわ」
レイルズ「では画家に絵でも描かせましょうか」
ため息交じりのレイルズに、ローザは品良く首を振って返す。
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