〇古いアパートの居間
空聖「九魔羅・・・ あんまり、告白してばっかだと・・・ 効果が薄れるぞ？」
九魔羅「何!? それは・・・困る!! では、少し控えよう・・・」
白栴「あはは・・・」
九魔羅「・・・だが・・・ この先、我はそなたを傷付ける気はない。 我は、戦いに負け・・・ 邪気を失ったからな・・・」
白栴（聖の気が入って、改心したのかな？）
蓬戒「じゃあ、白栴ちゃん！ めいいっぱい、九魔羅をこき使ってやろうよ!!」
天玉「そうだな！ 改心した証を見せてもらわないとな！」
簾浄「白栴さん 何か九魔羅にして欲しい事があれば・・・ この機会に!!」
空聖「そーだな！ 仲間になりたかったら誠意を見せねーとな!!」
九魔羅「ぐっ・・・!!」
白栴「皆・・・ あ、あんまり九魔羅さんを いじめないであげよう？」
九魔羅「白栴・・・!!」
白栴の爺様「ふぉっ。ふぉっ。 白栴、明後日の甘露の祭りの手伝いでもさせてみたらどうじゃ？」
蓬戒「そう言えば・・・村の人達も言ってたよね？ 良ければ、祭りに顔を出してくれって」
天玉「ああ。 今年の祭りでは、功徳様が甘露水を配るのだろう？」
簾浄「ならば、顔を出すついでに皆で白栴さんを 手伝おうではないか！」
空聖「あ──・・・ その肝心の甘露水なんだが・・・」
空聖「悪りぃ!! さっき、皆で飲んだので・・・ 最後だ！」
白栴「えっ!? あんなにあったのに・・・ もう、ないの!?」
天玉「功徳様、心配ない。 明日また皆で汲みに行こう！」

〇睡蓮の花園
　　次の日、皆で甘露水を汲みに出かけ帰る頃──
白栴（・・・）
空聖「おーい。白栴！ 何、瞑想してんだ？ 帰んぞ！」
白栴「はっ！ 空聖さん・・・」
空聖「他の皆は、一足先に帰っちまったぜ？ 何か、悩み事か？」
白栴「・・・悩み事・・・というか お願い事を考えてたんです」
空聖「お願い事？」
白栴「明日のお祭り・・・ 実は夜にもう一つ皆が楽しみにしている事があるんです！」
空聖「んん？ なんだ？なんだ⁇」
白栴「夜に甘露水を器に入れて・・・それに蓮の花びらを浮かべるんです。 そして、その花びらに甘露水をまた注いで・・・」
白栴「その花びらが器の底に沈まなくて・・・ずっと朝まで甘露水の上に残っていたら── 恋が実る！って言うものなんですけど・・・」
空聖「おっ？ なんだ？なんだぁ？ 白栴もそう言うのが気になるお年頃か？」
白栴「いや、全然」
空聖「って、全然なのかよっ!?」
白栴「いや、今まで・・・ この痣、妖魔とか寄って来るし・・・ 村の皆は気味悪がってたんです・・・」
白栴「だから、村の皆とは距離を置いてたし・・・ 同じ年頃の友達もいなかった・・・ だから、その・・・恋とかも疎遠で・・・」
白栴「お祭り自体も遠目から見てただけだったんで・・・ 今回がきちんと参加するのが初めてで・・・」
白栴「皆の心待ちにする甘露水を配る役目・・・ 爺様の代わりにちゃんと果たせますように・・・ってお願い事をこの泉にしてたんです！」
空聖「んな事、お願いするまでもねーよ！ 昨日の村人の反応、オマエも見ただろ？ 今まで疎遠にしてた奴らが謝ってたじゃねーか」
空聖「村の脅威を救ったオレ様達から配られる ありがたい甘露水。 心待ちにしているはずだぜ？」
空聖「堂々と配ってやろうぜ！」
白栴「う・・・うん!!」
空聖「そんな願い事じゃなくて、白栴も年頃なんだし！ 他の皆と同じように恋のお願い事を考えよーぜ？」
白栴「う・・・うん・・・」
白栴（空聖さんは・・・いつも私を励まして・・・ 縮こまった私だけの世界から 外の世界へ連れて行ってくれる・・・）
白栴（この前向きさに・・・ 私は・・・）
空聖「よっしゃ!! じゃ、帰ろーぜ!!」

〇集落の入口
　　甘露の祭りの当日──
白栴「はい！どーぞ！ 零さないように気をつけてくださいね！」
村人1「ありがとな」
村人2「すまないねぇ」
村人3「あらあら。ありがとね」
村人4「おねーちゃん！ありがとー!!」
　　村人達は、今まで白栴を疎遠にしていた事など嘘だったかのように優しく白栴を迎えてくれた。
白栴（くよくよ悩んでた私がバカみたい・・・）
村人5「お兄さん、私にも甘露水ちょうだい！」
空聖「あいよっ！」
白栴（・・・でも・・・何だろ？ 同じ年頃の女の子達の視線が・・・痛いような？）
白栴（く、空聖さんと一緒にいるからかな？ んー・・・ ちょっと試しに離れてみようかな？）
空聖「って──おいおい・・・ どこ行くんだ？」
　　白栴が、試しに離れてみようとしたら・・・
　　空聖は白栴の腕を掴み、自身に引き寄せた。
　　
　　その親しげな距離感に若い娘は・・・
村人5「・・・。 なぁんだ。残念。 二人は、やっぱり恋仲なのね！」
白栴「へっ!?」
村人5「あら？ 違うの？ 違うなら──」
空聖「違わねー。違わねー。 オレらは恋仲だから、邪魔しないでくれよ？」
白栴「へっ!?」
　　空聖は、驚く白栴の頭をぐりぐりと撫でる。
村人5「み、見せつけないでよ──!!」
白栴「く、空聖さんっ!?」
空聖「ハハハッ!!」
空聖「いや、さっきから女子の視線が熱くてよ・・・？ って言う、オマエも気をつけろよ？ そこらの若造がオマエに声かけたそうだぜ？」
　　そう言われ、白栴はキョロキョロと辺りを見渡すと木陰からこちらを見ている村人を発見する。
白栴（ま、まさかね？）

〇集落の入口
　　そうして──
　　祭りは夜を迎える。
空聖「もう、とっぷり日も暮れちまったなぁ？」
空聖「なぁなぁ？白栴！ 昨日言ってた甘露水の恋のまじないってヤツ・・・ オレらもやってみようぜ？」
白栴「へっ!? い、いいですけど・・・」
　　空聖は、甘露水を器に注ぎ・・・
　　そこへ蓮の花びらを二枚浮かべる。
空聖「赤い花びらがオレ様ので、白い花びらが白栴のな！」
空聖「じゃあ、まずはオレ様からやってみっか！」
　　そう言って、空聖は赤い花びらにそっと甘露水を垂らす。
白栴「・・・じゃあ・・・私も・・・」
　　続けて白栴も白い花びらに甘露水を少し垂らす。
　　赤と白の花びらは、月の光を映し込み・・・そのまま沈まず甘露水の上を揺蕩っている。
空聖「お！ 二枚共、沈んでねーな！ 朝まで保つといーな？」
白栴「う・・・うん！」
白栴（空聖さんは・・・誰との恋の成就を願ったのかな？ うぅ・・・気になる・・・）
空聖「・・・で？ オマエは、誰との恋の成就を願ったんだ？」
白栴「へっ!?」
空聖「天玉か？蓬戒か？簾浄か？ それとも・・・九魔羅か？」
白栴「えっ・・・えーと・・・」
空聖「ま、朝まで楽しみに待っててやんよ！ 帰ろーぜ？」