王太子殿下、女の私が騎士団長でいいんですか!?

川原サキ

6話 男同士(脚本)

王太子殿下、女の私が騎士団長でいいんですか!?

川原サキ

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〇厩舎
セージ「どうした、腰が引けたか? ならばワシからいくぞ!」
セージ「やあああああ!!」
  怒声と共に、セージが鋭い突きを繰り出した。
富士丸葵「メェーン!!」
  身を交わして打ち込んだ棒の先は、セージの鼻先すれすれで、ピタリと止まった。
チャイブ「な、なんだ、今の鋭い剣さばき・・・」
タラゴン「よく分かんねえが、スゲぇ!」
セージ「く、クソ、素面ならこの程度の相手・・・」
富士丸葵「そう。だから昼間から飲んでちゃダメなんだよ」
  棒をセージに投げ返して、団員たちの前にゆっくりと歩み出る。
富士丸葵「一応、私にも多少は剣術の経験がある。フェンシングに弓道、合気道も・・・」
富士丸葵「って言っても分からないだろうけど、異国の武道だよ」
  みんながゴクリと息を呑むのが聞こえた。
富士丸葵「さて、掃除を続けようか!」

〇厩舎
富士丸葵「ふふふ! やればできるじゃん」
  ピカピカの厩舎、つやつやの毛並みで飼い葉を食む馬たち。
  ちょっとした諍いはあったが、みんなは最後まで馬房掃除をやり抜き、いまは兵舎で眠りこけている。
マルク「見事な手際の良さだな」
  マルクは目を丸くして、見違えるほど綺麗になった厩舎を見渡している。
富士丸葵「馬は自分の家族みたいなものですから。普段からしっかりコミュニケーションを取って、信頼関係を作ることが大事なんです」
マルク「馬が家族、か」
  首をかしげながら、マルクは愛馬のジェイドの鼻先を撫でた。
ジェイド「ブルルルゥ!」
  ジェイドは触るなと言いたげに首を振ったが、その目はどこか嬉しそうだ。
富士丸葵(マルクとジェイドは信頼関係があるみたい。さすがは騎兵隊長、なのかな)
マルク「しかし、今日はお前を見直したぞ。あの曲者揃いの騎士団員を、見事に御してみせた」
富士丸葵「きっと、これからが大変なんでしょうけど。頑張ります」
マルク「よし! ならば今日はこれからお前の歓迎会をしてやろう」
  マルクが珍しく明るい声を上げた。
富士丸葵「歓迎会というと、何かおいしいものでも?」
  そんな期待に胸を膨らませた私だったが──
マルク「いいや、サウナだ。男同士、裸で語り明かそうではないか!」
富士丸葵「さ、サウナぁ!?」

〇サウナの脱衣所
  有無を言わせぬマルクに引きずられるようにして、やってきたのは城下町の大きな公衆浴場だった。
  脱衣所まで人が溢れかえって、みんなあれこれとお喋りを楽しんでいる。
富士丸葵(すごい賑わいだ。街の人たちの社交場になってるみたい)
  たくさん体を動かしたし、馬の世話で泥だらけだ。
  汗を流してスッキリしたいのはやまやまなのだが──
富士丸葵(どう考えても、ここは男湯・・・)
  周囲の人はみんな男性。
  脱衣所は薄暗くて湯気で曇っているから、なんとか耐えられるけれど。
富士丸葵(自分が脱ぐのは絶対にムリ!)
マルク「どうした、何をグズグズしているのだ」
  全裸に腰布を巻いただけのマルクが、仁王立ちで私に呼びかける。
マルク「まさか恥ずかしがっているのか? 男のくせに、思い切りのない」
  マルクは呆れ顔をして、私の上着に手を伸ばす。
富士丸葵「きゃッ!?」
  思わず高い声をあげてしまい、後ずさりしながら慌てて取り繕う。
富士丸葵「大丈夫です! 自分でできますから!」
マルク「お、女みたいな声を出すな。気色の悪い奴だな」
富士丸葵「は、はは、こういう所は慣れてなくて、すみません」
  のろのろと上着のボタンを外しながら、頭をフル回転させて考える。
富士丸葵「あの、マルクは先に入っててください。後から行きますから」
マルク「遠慮はいらん。サウナにはいろいろとマナーがあるからな。 俺が一から十まで教えてやろう」
  腕組みをし、したり顔で笑みを浮かべるマルク。
富士丸葵(ダメだ、逃げられない・・・)
  絶望しながら、最後のボタンに指をかける。そのとき──
富士丸葵(そうだ!)
  私は上着に縫い付けられた、綺麗な金ボタンをむしり取った。
富士丸葵「あれっ!?」
マルク「今度は何事だ」
富士丸葵「一番下の金ボタンがないんです。厩舎を出るときは確かについていたはずなんですけど」
マルク「む、確かに。来る道で落としてきたのか」
富士丸葵「王太子殿下から賜った、大事な騎士団長の制服です。ボタンひとつでも無くすわけにはいきません」
マルク「うむ、もっともだ」
  忠誠心の厚いマルクは、深くうなずく。
富士丸葵「高価なボタンです。誰かに拾われて売り飛ばされたりしたら大変だ。 私、すぐに探しに行きます!」
マルク「ならば俺も──」
  言いかけたマルクを遮って首を振り、笑顔を作る。
富士丸葵「今日はいろいろとお世話をかけてしまいました」

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