君と桜の樹の下で

ちぇのあ

深い底への連行と消えぬ激情を抱いて(脚本)

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〇荒廃した街
優樹「・・・?あぁ・・・」
  暗い視界と身動きの狭い現状
  何が起きたのかが少しずつしかし鮮明に思い出す
  フラリと起き上がり灰燼と化した樹屑を払う
優樹「これからどうしよう・・・」
  弱気な自分に腹が立つ、成すべき事はもうわかっている
  今は悪戯程度に降る優しい叢雨が煙や火から守ってくれていたと知る
優樹「まずは桜花の保護だ」
  彼女の住む街の方角を向くと、その正面に見覚えのある一団がやって来る
  身体が震え警戒する中、馬を降りる少女が彼に歩みを寄せる
守姫「・・・なんだ?この惨状は」
  驚きを隠せないといった表情を見せる
誠「どうしたのですか、優樹様!? これはひどい・・・」
優樹「おまえがやったんだろうが!!」
守姫「・・・!?」
誠「衣服の汚れや濡れ具合から察するに先程起きられるご様子 まだ気が動転なされているのですな」
優樹「てめぇぇ!!」
  剣姫と周りの兵士が制止に入る
守姫「誠・・・昨日はどこに居たの?」
誠「新しく承った任務で優樹様をお守りする方法を部下共と模索しておりました・・・」
  誠が部下の護衛達に目を向けると次々に頷く嘘吐き共
  怒髪天の如く怒りが込み上げる
守姫「そうか・・・わかった」
  剣姫は真偽を推し量る表情で聞いていたが、厳しい面持ちに戻り俺の前に立つ
守姫「君から購入した魔導具で王家の人間に能力値低下の異常が確認された 簡易の測定器で測った所、負の付与が数値としても出てきた」
守姫「よって王家への不敬罪として君を連行しなければならない」
優樹「いや! あれは能力値には職業毎の適正で不要な能力値を下げる代わりに、重要な能力値の上昇率を上げていて!」
守姫「負の能力値が課される時点で何を言っても厳しいと思う」
優樹「そんな・・・!」
  にやにやと笑う誠とその護衛達
  こいつらが策略を練ったのだろうか・・・
  いや今はこの罪状をなんとかしなければならない
守姫「話を設ける場は与えるが、王家を納得させなければ君は祖父と同じ道を辿るだろう」
  剣姫にやりきれない表情が浮かぶ
  やりすぎだと思ってるのだろう
  怒りの感情が少し和らぐが事態は切迫している。
  なんとかしなければならない
  ・・・あの魔導具で勝負するしかない
優樹「幸運値が爆発的に上昇する一品がある、これを献上するか」
守姫「恐らく王家に献上しても即効性が無い、効果が出る前に処刑されてしまう」
  悩み果てる僕に見かねたのか助言をしてくれる
守姫「今の王家は武力によって建立され、ボクもこの腕一本で身を立ててきた」
守姫「罪が免責されるかはまだわからないが、何か武芸で秀でている事を証明するのが良いと思う」
  となると・・・
優樹「俺が剣姫と勝負して勝てば認められる・・・という事か」
  その場に居る全員の表情が強張る。
  俺に近寄る護衛を制止する剣姫。
守姫「ボクは外様の出身だからまた新しく君を不敬罪には問わない」
守姫「しかし剣士としての誇りがある わざと勝たせるような事はしない それで良い?」
優樹「機会があるだけありがたい こちらも全力で行かせてもらう」
守姫「君の本職は魔導具師だ、道具を使うのもこちらは構わない 傲りや油断で言ってるわけでは無い 話は王家に通しておく」
優樹「わかった 宜しく頼む」

〇荒廃した街
  目印の穴を掘り、箱から開けた魔導具を回収する
  リスクヘッジは大事で祖父に教わった商売人としての智慧が生きた
  道具の回収を確認し終えると、護衛がざわつくのも介さず守姫は馬に乗る
  その後ろを護衛に囲まれて徒歩で付いていく

〇ヨーロッパの街並み
  街の中心街を通り過ぎる折に駆け寄る少女の姿が映る
桜花 「え、どうしたの優樹くん!?」
誠「王命により連行中である、お控えを」
優樹「大丈夫だよ、戻って来るから」
桜花 「え、やだやだ!」
  心配そうに僕を見たり護衛を睨んだり、焦った表情を見せる桜花
  絶対に負けられない
優樹「大丈夫、桜花からもらったお守りもあるから」
桜花 「優樹くん・・・待ってるからね」
  話が終わると剣姫の指示で王宮へ向け歩く

〇西洋の城
  絢爛な宮殿の庭を通ると奥に門兵と重厚な扉が見える
守姫「もう護衛はいい」
  そう言うと点在する駐屯所へ向かう護衛達
誠「ご武運をお祈り致します」
  姫に敬礼するあの護衛
  おれは最善を尽くすだけだ

〇大広間
  剣姫に付いていくと会議室のような広間に通される。
  事の次第と比武による裁定が許可される。

〇道場
  正式に日比が決まり訓練場へ入ると研鑽を積む者達が汗を流している
守姫「しばらく休め、見るのも修行だ」
  辺りに緊迫した空気が伝わる
  鞘から刀を抜き切っ先を僕へ向ける
  俺も固定した腰袋に魔導具を携帯させる
守姫「来い!」
  短刀を握り前傾姿勢になり正面に見据える相手へ正面から突っ込む。
  防御と魔力を捨て腕力と脚力とお爺ちゃんの幸運値に能力を偏らせた。
誠「この広い空間で歴戦の猛者を相手に間合いの狭い小刀で挑むなど・・・具の骨頂」
守姫「・・・早い!」
優樹「くっ!」
  鍔迫り合いになり離れる際に返す刀で斬り返される
  これだけ身体強化をかけても小さな切り傷は避けられない
  じりじりと距離を縮めるがまるで隙が見当たらない
  唐突に窓際から入る爽やかな風と陽射しが刀身を目映かせる

〇道場
優樹「今だ!」
  僅かに目を細めたのを見逃さず眩んだ目の死角から斬り込む
  ・・・何故瞳を閉じている?
優樹「ぐあ・・・」
  まるで臓器が押しつぶされたような衝撃が走りまともに呼吸すらできない
  鈍色の味が口内に広がる
守姫「・・・」
  剣姫の姿勢から察するに打突・・・峰で強く打たれた!?
守姫「まともに立って居られていない 雌雄は決した」
優樹「まだ・・・」
  吐血しそうな苦しさの中立ち上がり今の敵を見据える
  表情を変えずまた切っ先を真っ直ぐに向ける
優樹「うおぉぉぉ!」
守姫「無策か・・・」
  少し悲しそうな顔をしたのちに無表情で僕を見据える
  来い・・・来い!
誠「おい!窓を閉めろ!」
  衛兵が反応するよりも早く、豪風が窓かけに丸い膨らみを作り抑えられぬ突風が室内を轟かせる如く吹き渡る
  静かに瞳を閉じる剣姫
優樹「おじいちゃん、ありがとう 形見なのにごめん・・・」
守姫「・・・二人!?」
  一瞬の動揺を見せるも斬り付けたのは、実体も何も無い虚空
  振り向いたがもうこちらの間合いだ
  加速に合わせて突っ込む
守姫「ぁっ・・・!」
  深々と当たるのは短刀の平地
  重心を乗せて身体の正面を捉えた強い手応えがある
  衝撃が増すようにねじりを加えて打点に力を加える
  純文に効いたようでそのまま膝を突いて蹲る
守姫「くっ・・・うっ」
  起き上がろうとするが蒸せて足元もおぼつかない
  しかし追撃は彼女がしなかったように俺も待ち続ける
守姫「・・・どうやら立てそうに無い、ボクを倒したのは君の実力だ」
  まさか剣姫に一太刀入れる者が現れるとは誰も思っていなかったようだ
  比武が終わり一瞬の静寂の後、歓声が沸く

次のエピソード:交錯する情念と一時の安息を

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