王太子殿下、女の私が騎士団長でいいんですか!?

川原サキ

4話 女子高のプリンス(脚本)

王太子殿下、女の私が騎士団長でいいんですか!?

川原サキ

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〇駅前広場
穂花「ええ~! 次の土曜はみんなでカラオケ行こって言ってたじゃん」
富士丸葵「ゴメン! 厩務員(きゅうむいん)さんが風邪引いちゃって、どうしても手が足りなくて」
  我が家はフジマルホースビレッジという小さな乗馬クラブを経営している。
  一人娘の私も幼い頃から乗馬を仕込まれ、休みの日は家業を手伝っている。
美希「家の手伝いじゃ仕方ないけどさ。3組の佐藤さん、葵も来るって聞いて泣いて喜んでたんだよ」
富士丸葵「佐藤さんが、なんで?」
美希「前から葵のファンだったんだって」
穂花「葵は翠星女学館のプリンスなんだからさ、もうちょっと自覚持って~!」
  中学高校と女子校育ちの私についたあだ名は、プリンス。イケメン。王子様。
  179センチの身長と、自分でも嫌になるほどの男顔。
  体型に合う洋服はメンズしかなく、届く手紙は女子からのラブレターと、スポーツ推薦の勧誘ばかり。
富士丸葵「好きでこんな風に育ったんじゃないんだけどね」
  ため息をつくと、ふたりは抗議の声を上げた。
美希「もったいなーい。アタシが葵だったら、スポーツ選手になってバリバリ稼ぐよ」
穂花「ナントカ歌劇団の男役とか、ダンサーとかモデルとかもいいよね~!」
富士丸葵「絶対ムリ。人前に出るの苦手だもん」
美希「あー、ホントもったいない!」
穂花「宝の持ち腐れ~!」
  笑いながら私の背中をバシバシ叩くふたりを振り返り、拳を握って宣言する。
富士丸葵「いいの、フツーが1番! 大学入ったら髪伸ばしてカレシ作るんだー!」

〇貴族の部屋
  ベッドで目覚めた私は、豪華な装飾のついた天井を見上げた。
富士丸葵(ここに来てから、1週間。今頃、みんなは卒業式だ。パパやママ、友達、心配してるだろうな)
  高校を出たら女子高の王子様役も卒業。フツーの女の子になるんだって、当たり前のように思ってた。
富士丸葵「だけど、今の私は──」

〇貴族の応接間
  身支度を調えて自室を出ると、そこは王太子の間だ。
  本来、騎士団員は兵舎に寝泊まりすることになっているが、私は特別に私室を用意してもらっている。
富士丸葵「おはようございます、王太子殿下」
レイルズ「おはよう、アオイ。昨日はよく眠れた?」
  レイルズの笑顔は窓から差し込む朝日よりまぶしい。
  目がくらみそうになるけれど、私はつとめて冷静に返答する。
富士丸葵「はい、ようやく少し慣れてきたので」
レイルズ「いよいよ今日から、騎士団長としての仕事が本格的に始まるね」
  この1週間は生活に慣れることに必死。
  レイルズにつき従って重臣や召使いたちの顔を覚え、王国についての基礎知識を勉強するだけで終わってしまった。
富士丸葵「あの、いまさらなんですけど、騎士団長って何をしたらいいんでしょうか」
レイルズ「基本的には、僕を護衛し、威厳を示すことだ」
レイルズ「領地の視察や他国へ訪問するとき、騎士団を率いて僕と一緒に移動したりね」
富士丸葵「騎士団を率いて、ですか」
  大仰な言葉に冷や汗が吹き出る。
レイルズ「大丈夫だよ、しばらくその予定はないから」
  私の心を読んだように、レイルズがくすりと笑った。
レイルズ「普段は外国からの使者や城の外の人間と会うとき、同席するくらいかな」
レイルズ「あとの時間は騎士団の訓練や、自分の勉強に自由に充ててくれ」
  そこまで言うと、レイルズは机の上の予定表に目を移した。
レイルズ「僕は今日の午後、大臣たちとの会議だから護衛は不要だ。君はどうする?」
富士丸葵「そうですね・・・厩舎に顔を出そうかな」
レイルズ「ああ、それはいいね。アオイの持っている馬術の知識を、みんなに教えてやってくれ」
富士丸葵「い、いえ! あの、私はただシラカバの世話をしようと思っただけで」
  口ごもる私に、レイルズは少し厳しい表情で歩み寄る。
レイルズ「あのね、アオイ。君は騎士団長で、厩舎や騎士団の管理者なんだ。 部下の指導も、責務のうちだよ」
富士丸葵「でも、馬丁も騎士も私よりずっとベテランです。私みたいなのが教えることなんて」
レイルズ「アオイ!」
  珍しくレイルズの語気が強くなる。
レイルズ「どうしてそんなに自信が無いの? 王国全土から集まった腕自慢の騎士50人が、君とシラカバに完敗したんだ」
レイルズ「君がそんなんじゃ、彼らに対しても失礼だよ」
  心の弱いところを突かれた気がして、私はグッと息を飲み込んだ。
  レイルズは困ったように表情を緩める。
レイルズ「アオイ、僕は君とシラカバの走りに心を打たれたんだ」
レイルズ「きっとあの日、競技場に来ていた誰もがそう感じたと思う」
富士丸葵「私とシラカバの走り・・・」
レイルズ「あの、人と馬とを一体にする馬術を、ユルベールのみんなに教えて欲しい」
富士丸葵(王太子は、本当に私のこと、評価してくれてるんだ)
  穏やかに微笑むレイルズに、私はしっかりとうなずき返した。
富士丸葵「分かりました。王太子殿下のご期待に添えるよう、がんばります!」

〇厩舎
シラカバ「ブルルルゥ!」
  厩舎に行くと馬房のシラカバが、何してたんだと言いたげに鼻を鳴らした。
富士丸葵「あれ、おかしいな」
  広い厩舎に、私以外の人影はない。
富士丸葵「騎士団員のみんなは、どこに行っちゃったの?」
シラカバ「ブルン!」
  シラカバは不機嫌そうに鼻息を荒げて首を振る。

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