17歳、夏、片思いを叶える。

卵かけごはん

#4:初日から5本勝負!(脚本)

17歳、夏、片思いを叶える。

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〇ケーキ屋
西野 咲也(にしの さくや)「掃除終わった?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「はい!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「俺がやらせたんだから完璧だぜ!」
西野 咲也(にしの さくや)「突然ですが、今日は2人に【5本勝負】をしてもらうね!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ええっ!?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「こいつと勝負だと?何を?」
西野 咲也(にしの さくや)「課題は、店のルーティンワーク。 3本先取で勝ちね」
浅井 貢(あさい みつぐ)「僕、今日が初日なんですが!?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「そうだよ兄貴!俺が5戦5勝だろ!」
西野 咲也(にしの さくや)「柊也、自分で言った事覚えといてね? 浅井君も安心して。難しくないから」
浅井 貢(あさい みつぐ)「でも・・・」
西野 咲也(にしの さくや)「大丈夫、負けたから怒るとか、 取って食べるとかはないよ!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「ま、俺が負けるはずねえけどな!」
浅井 貢(あさい みつぐ)(咲兄に怒られるのはいいけど、 柊也に負けるのは・・・)

〇小さい倉庫
浅井 貢(あさい みつぐ)「ここは・・・」
西野 咲也(にしの さくや)「材料倉庫。 ラウンド1は「小麦粉運び」だよ!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「よっしゃ!」
西野 咲也(にしの さくや)「ここに、25㎏の薄力粉の袋が10袋ある。 一人5袋、向こうの壁に寄せて積み重ねて」
西野 咲也(にしの さくや)「早く、綺麗に積めたら勝ち」
浅井 貢(あさい みつぐ)「2・・・25キロ?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「おい子犬、床にぶちまけたらどうなるか 分かるな?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「分かるって!」
西野 咲也(にしの さくや)「浅井君、持つときはこうやって 腰からかがんで、袋を全身で抱えて。 端を引っ張ると、破けて危ない」
浅井 貢(あさい みつぐ)「はっ、はい!」
西野 咲也(にしの さくや)「ちなみに柊也は先週、 真っ白けっけになったから!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「言うなって!」
西野 咲也(にしの さくや)「それでは―  用意・・・ドン!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「へっ、楽勝!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ふぐっ、重っ!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「よっしゃ、あと1袋!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「うっそ、僕あと3つもあるのに!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「はい、俺様の勝ち~!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ハァ、ハァ・・・終わりました」
西野 咲也(にしの さくや)「そうだね~、浅井君は、 袋を揃えて積むとさらにいいよ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「あっ―」
西野 咲也(にしの さくや)「そうすれば、真ん中の袋がずり落ちなくなる。 よいしょっ、こんな感じ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「お菓子屋さんって、 肉体労働もあるんですね」
西野 咲也(にしの さくや)「そう。どの仕事もだけど、 人の目に触れない仕事の方が多いよ」
西野 咲也(にしの さくや)「地味な事の積み重ねが、美味しいお菓子になり、お客さんの笑顔につながる。 覚えておいてね」
浅井 貢(あさい みつぐ)「はっ・・・はいっ!」
  咲兄は、それを一番伝えたかったんだろう。
  だから最初がこの課題だったんだ。
浅井 貢(あさい みつぐ)「よし、次こそ頑張る!」

〇ケーキ屋
西野 柊也(にしの しゅうや)「兄貴、次は?」
浅井 貢(あさい みつぐ)(ったく、勝ったからって。この単細胞め)
西野 咲也(にしの さくや)「9時55分か。あと5分で開店だ。 じゃあ、先にラウンド4の予告を。 テストは夕方だけどね」
西野 柊也(にしの しゅうや)「お題は?」
西野 咲也(にしの さくや)「―「商品名の暗記」!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ええっ?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「うげっ―!」
西野 咲也(にしの さくや)「ここには、大体40種類の品物がある。 私がランダムに商品の名前を尋ねるから、何も見ず、答えられた方が勝ちね」
浅井 貢(あさい みつぐ)「あの、それまでメモしてもいいですか?」
西野 咲也(にしの さくや)「勿論。開店からテストまでの間で、手に取って見るなり何でもOKだよ。 商品を壊さなければね!」
お客・斉藤さん「こんにちは~」
西野 咲也(にしの さくや)「斎藤様!いらっしゃいませ!」
お客・斉藤さん「咲ちゃん、 夏らしいお菓子の詰め合わせってある? お中元のお返しにね」
西野 咲也(にしの さくや)「はい、焼菓子でしたら、 レモンピール入りのパウンドケーキやマドレーヌがさっぱりしているかと」
西野 咲也(にしの さくや)「他にも、季節限定の果物のジュレがございまして、桃やぶどうが人気ですね」
浅井 貢(あさい みつぐ)(そうか・・・接客するには当然、商品名を知らないとね。 種類や素材、味も必要だ!)
浅井 貢(あさい みつぐ)(できるだけ沢山覚えよう! メモメモ・・・)

〇広い厨房
西野 咲也(にしの さくや)「それじゃあ、ラウンド2」
浅井 貢(あさい みつぐ)「課題は・・・」
西野 柊也(にしの しゅうや)「「袋詰め」かよ!」
西野 咲也(にしの さくや)「そう。ここにパウンドケーキが15切ある。 多く詰めた方が勝ち。 ただし―」
西野 柊也(にしの しゅうや)「崩すな、ってんだろ?」
西野 咲也(にしの さくや)「そう。 パウンドケーキを優しく持ったら、袋の口をしっかり広げて入れる」
西野 咲也(にしの さくや)「袋の端に引っ掛けると、削れるし、力を入れて持ったり落としたりすると ―どうなるかは分かるよね」
浅井 貢(あさい みつぐ)「はい!」
浅井 貢(あさい みつぐ)(咲兄が作ったお菓子、絶対に壊せない!)
西野 咲也(にしの さくや)「じゃあ、 ──Ready・・・go!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「手が震える!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「俺これ嫌い! 袋のサイズギリギリだし! ―うわっ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「よし5個目!慣れてきた!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「んぐぐ、何ィ?」
西野 咲也(にしの さくや)「ようし、そこまで!」
西野 咲也(にしの さくや)「柊也が、2つ崩して5つ。 浅井君がノーミスで8つで、 浅井君の勝ち!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「~緊張したぁ!」
西野 咲也(にしの さくや)「そう、それを感じてほしくて。 お菓子は繊細だし、お客様に目でも楽しんでもらうものだからね」
西野 柊也(にしの しゅうや)「くっそー! まだお互い1勝1敗だかんな!」

〇ケーキ屋
西野 咲也(にしの さくや)「あれ、お昼食べた?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「はい! ラウンド4に備えて、品物覚えなきゃと思いまして!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「40種類もあるから──」
西野 咲也(にしの さくや)(やっぱり、浅井君は柊也とは違う)
浅井 貢(あさい みつぐ)「ええと、「バウムクーヘン」は、 卵とココアと抹茶―」
浅井 貢(あさい みつぐ)「これは「フィナンシェ」。 フィナンシェ、フィナンシェ、フィナンシェ―」
西野 咲也(にしの さくや)(フフッ うちの柊也は大丈夫かな?)
西野 柊也(にしの しゅうや)「待ちくたびれたぜ兄貴! ラウンド3、始めようじゃねえか」
西野 柊也(にしの しゅうや)「次は絶対俺が勝つ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ええと、箱とお菓子があるってことは―」
西野 咲也(にしの さくや)「そう、「箱詰め」対決!」
西野 咲也(にしの さくや)「2人には、同じ10個のお菓子を用意した。 綺麗に入れると、全部収まる」
西野 咲也(にしの さくや)「今日はこの見本を見ていいから、 見栄えよく入れた方が勝ち」
西野 咲也(にしの さくや)「それでは― Ready―go!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「あ、これさっきのフィナンシェ! 見本を見ると・・・ 袋の端を折り曲げて入れてる!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「ん、おかしいぞ? 何で同じ数なのに、俺のは汚ねえんだ?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「そっくり真似したら ―おお、いい感じ!」
西野 咲也(にしの さくや)「はい、そこまで。浅井君は気付いたね。 袋の端をクイって後ろに折ると、 隣り合わせても重ならず、素敵に見える!」
西野 咲也(にしの さくや)「浅井君の観察力の勝利! これで、柊也1勝、浅井君2勝だね?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ありがとうございます!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「うっせえ!次こそ~!」

〇ケーキ屋
西野 咲也(にしの さくや)「ラウンド4は予告通り、 「商品名テスト」だよ」
西野 咲也(にしの さくや)「まず柊也、これは?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「えっと、ラ・・・「ラスク」」
西野 咲也(にしの さくや)「ラスクは2種類あるけど、これは?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「・・・」
西野 咲也(にしの さくや)「「シュガー」。 あっちは「ガーリックバター」でしょ? じゃあ浅井君、これ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「「マカロン」の・・・「ピスタチオ」です」
西野 咲也(にしの さくや)「正解。じゃあ柊也、これ」
西野 柊也(にしの しゅうや)「ガトー・・・ショ、コラ」
西野 咲也(にしの さくや)「全然違う。「フィナンシェ」。 じゃあ浅井君、これ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「「メレンゲクッキー」の「ココナッツ」、でしたっけ?」
西野 咲也(にしの さくや)「正解」
西野 柊也(にしの しゅうや)「テ、テメッ、なんで俺より―!」
西野 咲也(にしの さくや)「それは、自分が一番分かるんじゃない? 柊也?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「うっ―」
西野 咲也(にしの さくや)「今日が初日の浅井君は、昼休みに全部メモしてた。 1週間前に仕事を始めた柊也は・・・ どうだった?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「それは・・・ はい・・・」
  咲兄も怒るんだ―
  いや、怒るっていうより、
  質問して自覚させてる。
  咲兄は、ただ優しいだけじゃない。
  気付かせて、答えを引き出す「先生」
  なのかも―
浅井 貢(あさい みつぐ)(僕、咲兄についていきたい。 ここで、沢山学びたいっ!)
西野 咲也(にしの さくや)「じゃあラウンド5は―」
西野 柊也(にしの しゅうや)「兄貴まだやんのか? 俺の負けだ。正々堂々認めたぜ?」
西野 咲也(にしの さくや)「「おやつタイム」、だけど?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「わあ~!」
西野 咲也(にしの さくや)「柊也が崩したお菓子が、 いっぱいあるからね!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「んぐっ―」
浅井 貢(あさい みつぐ)「やったぁ、お腹ペコペコです!」

〇ケーキ屋
西野 咲也(にしの さくや)「浅井君、今日はお疲れ様。 さすがだったよ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「こちらこそ、教われて嬉しかったです!」
浅井 貢(あさい みつぐ)(だめだ、2人きりだとまだ緊張する―)
西野 柊也(にしの しゅうや)「おいテメエ!忘れモンだ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ん?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「これだよ。朝テメエが言ったろ。 帰りに買うから取って置けって」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ああーっ!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「近所のJSに、「動物さんのクッキー」をプレゼントすんだとよ、兄貴!」
西野 咲也(にしの さくや)「JS―?女子、小学生!?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「いや、それは、ああっ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「えっと、350円だよね? 財布、財布、えっと、 あと100円・・・うわあっ!」
  バラバラッ、チャリーンッ!
浅井 貢(あさい みつぐ)「あった、はい柊也!350円っ!」
西野 咲也(にしの さくや)「大丈夫?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「落ち着け、テメエのロリコン趣味に 誰も興味ねぇよ」
浅井 貢(あさい みつぐ)「あ、明日もお願いしま~す!」
西野 咲也(にしの さくや)「どうしたんだろ・・・」
西野 柊也(にしの しゅうや)「そういやアイツ・・・ 朝、あのクッキーの小袋持って メソメソしてたなあ」
西野 柊也(にしの しゅうや)「掃除の様子見に来たら、 あれ持って目ェこすって、グスンって」
西野 柊也(にしの しゅうや)「JSに片思いでもしてんのか? 気持ち悪り~」
西野 咲也(にしの さくや)「───!?」
西野 咲也(にしの さくや)「浅井君って、下の名前は?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「えっと、貢、じゃなかったか?」
西野 咲也(にしの さくや)「「みつぐ」、くん―?」

次のエピソード:#5:僕が吹っ切れた日。

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