王太子殿下、女の私が騎士団長でいいんですか!?

川原サキ

2話 馬術競技会(脚本)

王太子殿下、女の私が騎士団長でいいんですか!?

川原サキ

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〇闘技場
富士丸葵「すごい、本物の鎧みたいな服着てるよ!」
  競技場の入場口に集まった人と馬は、みんなきらびやかな装飾のついた衣装や馬具に身を包んでいる
  かたや私は乗馬クラブのロゴ入りTシャツにジーンズ、使い古した簡素な鞍だ
富士丸葵「やっぱり、映画の撮影? なにか特別な競技会かも」
富士丸葵「こんな格好で出たらマズいんじゃ・・・」
  不安になってシラカバに話しかけると、彼女は私を励ますように蹄を鳴らした。
富士丸葵「だ、だよね。ここまで来ちゃったんだから、やるしかない」
  少し落ち着きを取り戻し、あたりを見回す。
富士丸葵「参加者は全部で50組くらいかな。男の人ばっかりだし、体格が良くてプロレスラーみたい」
  馬術競技はどんな大会でも、男女の区別無く競い合う。
  だから、男性を相手に競技するのは慣れているのだが
富士丸葵(私が参加して、良かったのかなぁ・・・)

〇古い競技場
  馬場に入場すると、観客席の最前列にしつらえられた玉座に、さっき助けてくれた少年が座っているのが見えた。
  目が合うとかすかに手を振り、大丈夫だというようにうなずいてくれる。
  一方、それに付き添うマルクとかいう背の高い男性は──
富士丸葵(うう~、こっちをにらんでるよ。苦虫を噛みつぶしたような顔で・・・)
  競技会は5組に分かれて予選を戦い、各組上位2チームが決勝に出られるらしい。
富士丸葵「コースの長さは1周500Mくらいかな。障害物無しのダートのコースを3周か」
  他の出場者の馬はサラブレッドではないらしい。
  大きい馬も小さい馬も、農耕馬のようにずんぐりしている。
富士丸葵「シラカバ、どう?」
シラカバ「ブフゥ~」
  敵ではないと言いたげに、余裕の表情で鼻息をつく。
富士丸葵「だよね」
富士丸葵(シラカバは完全にやる気だ。こんな立派な競技場で、思いっきり走れることなんてめったにない)
富士丸葵(私だって、どうせ出るなら・・・)
  私の中の闘争心が湧き上がってきた。

〇闘技場
  私とシラカバは予選を2位で勝ち抜き、決勝に駒を進めていた。
シラカバ「ブフゥー」
  不満げなシラカバをなだめるように、背中を撫でる。
富士丸葵「ゴメンね、シラカバ。でもさっきのは予選だから」

〇古い競技場
  パァン!
  競技場に決勝戦の開始を告げる号砲が鳴り響いた。
  10組の馬と人とが、一斉にスタートを切る。
シラカバ「ブルルゥ・・・」
  前に行きたがるシラカバを制して、私は馬群の後方につけた。
富士丸葵(重い馬具や騎手のせいで、他の馬は後半スタミナが切れるはず)
富士丸葵(私とシラカバなら、十分追い上げられる!)
  そのとき、後ろからドンと馬をぶつけられた。
  振り返ると、大型馬にまたがった屈強な男が、私をギロリとにらみつけている。
屈強な男「軟弱野郎が、邪魔だ!」
  男は馬に激しく鞭を入れる。
  わざと土煙をシラカバに向かって巻き上げて、ドカドカと馬群の前方に躍り出た。
シラカバ「ブフッ!!」
  シラカバがグッと首を前に伸ばした。
富士丸葵「ちょ、ちょっと! まだ早いよ!」
  シラカバは牝馬にしてはかなり気性が荒い。
  挑発されて火が付いたのか、私の制止も聞かずにぐんぐんスピードを上げていく。
富士丸葵「ああもう、分かった! 行けるところまで全速で行こう!」
  本気のシラカバに並の馬が敵うわけがない。
  後方からごぼう抜きしていく白馬の疾走に、満員の観客席から歓声が沸き起こる。
富士丸葵(あとはあの鹿毛の大型馬を抜けば──!)
屈強な男「好きにさせるか!!」
富士丸葵「ッ・・・!?」
  男が大きな鞭を目の前に振り上げて、シラカバの進路を妨害した。
屈強な男「騎士団長の座は渡さんぞ!」
  男は振り返り勝ち誇ったように叫ぶ。
富士丸葵「き、騎士団長? なにそれ、私そんなの・・・うわっ!!」
  シラカバが鼻息を荒げさらにスピードを上げた。
富士丸葵(もう止められない! とにかく振り落とされないようにしなきゃ)
  手綱を握りしめシラカバの背中にしがみつく。
屈強な男「ば、馬鹿な! なんだあの末脚は!」
  そんな声を背中で聞いた気がする。
  気付けば号砲が鳴り響き──
レイルズ「アオイ、おめでとう! 見事な走りだったよ!!」
  レイルズが金色の髪を揺らして駆け寄ってきた。
  頬がバラ色に上気し、目は宝石のように輝いている。
富士丸葵「あ、ありがとうございます。どうにか最後まで走り切れました」
  あまりにキラキラした笑顔を直視できず、うつむいたまま鞍から降りる。
マルク「まさか、お前が優勝するとはな・・・」
  苦々しい表情で大きくため息をつくと、マルクはこちらに大きな布袋を投げてよこした。
富士丸葵「これは?」
マルク「着替えだ。そのみっともない格好のままで、式典に出すわけにはいかん」
富士丸葵「式典って・・・」
マルク「お前の任命式に決まっている! 着替えは騎兵隊の兵舎を使え」
富士丸葵「は? え? あの?」
マルク「騎兵隊も分からんのか!? 仕方ない、ついてこい!」
  矢継ぎ早に言われ、慌ててマルクの後を追おうとしたとき。
レイルズ「待って、マルク! アオイには、僕から話がある」
  グイとレイルズに腕を引かれた。
  思いがけない強い力に、胸がドキリと跳ね上がる。
マルク「王太子殿下自らお話することはありません。式典については私から」
レイルズ「いいんだ、僕が話したいんだから」
  レイルズはそう言うと私に向き直った。
レイルズ「僕の部屋に来て。そこなら安心して着替えられるから」

〇貴族の応接間
富士丸葵「王太子殿下、これで大丈夫でしょうか?」
  マルクに渡されたのは、ブルーと白を基調に金モールで飾られた中世風の衣装。
  四苦八苦しながらひとりで着替えて衣装室から出てきた私を見て、レイルズは嬉しそうにうなずいた。
レイルズ「うん、よく似合っている!」
  シラカバを競技場に付属する厩舎に預け、案内されたのはお城の2階にある豪奢な一角。
  「王太子の間」というその一角には、ちょっとしたパーティが開けそうな広間に、
  寝室、衣装室、バスルーム、客用の寝室までついている。
富士丸葵(バカな私だって、さすがに分かる。これって、どう考えても映画の撮影やドッキリじゃない)
  おとぎ話の絵本でしか見たことのないような衛兵や召使い、飾られた絵画や家具はすべて「ホンモノ」だ。
富士丸葵(こんなお城や競技場、日本のどこにもない。私の知ってる世界とは全く違う世界なんだ・・・)
  どうしてそんなところに自分がいるのか、さっぱり分からない。
レイルズ「それで、これからの話なのだけど」
富士丸葵「は、はいっ!」
レイルズ「アオイ、君はここがどこだか分かる?」
富士丸葵「・・・・・・」
レイルズ「では、自分がどこから来たかは?」
富士丸葵「日本の、神奈川県・・・っていう場所です」
レイルズ「ニホン、カナガワケン・・・聞いたことのない地名だな」
  レイルズは深刻な表情で首を振った。
レイルズ「ここはユルベール王国の王都、イーリスだ。僕はユルベールの王太子、レイルズ」
レイルズ「病に伏せっている父王、バイオンⅡ世に代わり、代王を務めている」
  苦手な地理の授業を必死に思い出してみるが、ユルベール王国なんて国は聞いたことがない。
レイルズ「君が優勝したさっきの馬術競技会。あれは王太子親衛騎士団、つまり僕の護衛任務につく騎士団の選抜試験だったんだ」
  レイルズはそこで一度言葉を切ると、私の目をじっと見つめて言う。
レイルズ「優勝者に与えられる褒美は、国1番の騎士という名誉と、王太子親衛騎士団長の地位だ」
富士丸葵「王太子、シンエイ、騎士団長・・・」
レイルズ「僕の側近として常に付き従い護衛する、騎士団のトップということだよ」
富士丸葵「優勝者っていうことは、私が!?」
レイルズ「アオイ、僕の騎士団長になってくれないか」
  透き通る瞳に見据えられて、私は──
富士丸葵「む、むむむムリです! 私、騎士とか護衛とか、そんなことできません!」
富士丸葵(それに、それに、そもそも──)
富士丸葵「私、女です!!!!」
  おんなです、です、です・・・という魂の叫びが、広間にこだました。

次のエピソード:3話 王太子親衛騎士団

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