白銀のモデル

千才森は準備中

鋼鉄の体(脚本)

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〇レトロ喫茶
  豊かに膨らむ泡の乗ったカプチーノを置くと、
  ウエイターがぽつりとこぼした。
マスター「この時間に苦いコーヒーをお召し上がりに来られる方は、男性でしたら切羽詰まった仕事を抱えた方が多く、」
マスター「女性では恋や愛を見失って間もない方が 多い印象です」
  重く、鮮やかな苦みのエスプレッソは、
  ミルクの濃厚なコクに導かれるように
  喉を通り過ぎていった。
  どんな苦みでも、飲み込むためには手間を掛ける必要があるんだ。
  私はゆっくりと頷いた。
  でも、彼はそれ以上会話を繋ぐつもりは無いらしい。
  こちらとしても、話す気にはなれないけれど。
  口を閉ざした彼は、私の身体にじっと視線を当ててくる。
  首をかしげてみせると、
  柔らかそうな眼球が転がり、視線が合った。
マスター「私も貴女のような格好いい躰が欲しかったです」
  格好いい。
  初めて言われた。
  返事をしないでいると声を出せないのが伝わったのか、
  電波通信の認証許可シグナルが送られてきた。
  この躰は格好いいですか?
マスター(ええ。荒野に独りで立っていたとしても 寂しさを感じさせない力強さを持った シルエット、)
マスター(それでいながら、町の流れの中に紛れても 違和感を抱かせない人間らしさがあります)
  貴方の躰も美しいのに
(ありがとうございます)
マスター(このモデルは作業効率を高めたまま 周囲に安心感を与え、)
マスター(安全に働ける自立機械をコンセプトに 作られました)
マスター(よって、各所から洗練された機能美を感じ取れることでしょう)
  その口調からは、創造主に対する
  絶対的な信頼が伝わってくる。
  しかし彼は、それでも・・・
  と言葉を繋げた。
マスター(それでも、やっぱり男性型ロボットですから、 力強く見せられるようなボディにも 憧れを持っているのですよ)
  視線は窓の外へ。

〇工事現場
  その先を追いかけると、
  道路の向こうの建設現場で 大きな体を縮め、
  業務の開始を待って並ぶ 重機の列がいた。
  私たちより何倍も巨大で
  他を圧倒する馬力を誇示する姿、
  視認性を高めるために派手なカラーリングを
  施されているロボットたち。
  確かに、あのロボットたちと比べたら
  彼の身体は頼りなく感じられるかもしれないけど、
  その細身の身体は、
  傷つきやすい人間たちに交じって
  動き回れるよう設計されているからであって、
  ウエイターとして働くのなら、今の体型の方が絶対にいい。
  無い物ねだり、なんだろうな。

〇レトロ喫茶
  “隣の芝生は青い” でしょうか?
マスター(ああ、そういうことかもしれませんね!)

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