白銀のモデル

千才森は準備中

貴方の夜を見送って(最終話)(脚本)

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〇道玄坂
  カフェを出ると、郵便ドローンが私の頭上で停止した。
  速達 デスヨ
  渡されたのはカード型の通信端末。
  リアルタイムでホログラム映像のやり取りが
  できる物だった。
  送り主は、今から会おうとしている相手。
  遠く、宙に浮かんでいる飛行船を見上げた。
  そっか、上空は安全上の都合で 通信端末の
  使用が一部制限されているんだった。
  出発までは、まだ時間があるはずだけど・・・。
  受け取ったことを返信すると、
  すぐに応答を求める通信が返ってきた。
  通行の邪魔にならないように歩道から逸れて、
  地面に端末を置いたら3歩下がった。
  数十秒で、正面に立体映像が浮かび上がる。

〇VR施設のロビー
「やあ、急な手紙でごめん」
  映像よりも先に届いたのは、元主の声。
  彼は、映像の輪郭がハッキリする前に話し始めていた。
  数秒後。
  映像が鮮明になると、
  私の姿を凝視しながら驚いた声を上げる。
元の主「あれ? 家にいたのかい?」
  その質問に対して、首を横に振った。
  周りの風景から、私が外にいるのだと知ると
  次第に表情が曇っていく。
元の主「服は・・・ 身につけないのかい?」
  今度は 首を縦に振って見せた。
  ここで、私の声が出ていないことに気が付いたみたい。
元の主「声はまだ直してないんだ? 修理費はある? ・・・そう、だよね。えっと・・・」
  色々と聞きたいことがあるけど、
  こちらが話せないのでは らち が明かないと
  思ったみたい。
  何から聞けば良いのか、考えあぐねている。
  それなら私から話を振らなければ。
  左の手首を指で示した。
  腕時計が美術品としての価値しか
  なくなってしまった今では、腕に時計をする
  人も珍しくなってしまったけれど、
  彼は見栄を張るのも仕事だからと、
  宝石をあしらった腕時計をはめていた。
元の主「ああ、そうそう。 どうやら午後の海上の天候が芳しくないみたいでね」
元の主「出航時間が早まったんだ。 それでこうして連絡を、と」
  ありがとうございます、と口を動かした後に
  一礼をしてみせた。
  エコロジカルな移動手段として注目されている飛行船は、天候の変化に極端に弱い。
  こうして通信による見送りになってしまったのは、そういう事情も確かにあるんだろう。
  ほんの少し躊躇した後で、
  彼は行き場を失ったかのような
  曖昧な笑いを添えて言った。
元の主「何だか目のやり場に困るね。 寒くない?」
元の主「側にいればコートを掛けてあげられるのに」
  私は今、“主” という存在に最も見てもらいたい
  姿勢を取っていた。
  真正面に踵を揃えて立ち、重ねた手は下腹部へ。
  背筋に緊張を作って、精一杯に胸を張り
  視線を真っ直ぐに据えて、
  『貴方に仕えていることが何よりの誇りです』
  と全身で――。
  それなのに。
  人間の心を理解するために存在している私は、
  彼の感情が手に取るように分かる・・・。
  いや、わかっていたはず。
  それなのに、自分の心も理解して欲しいと
  願った瞬間から相手の感情が分からなくなった。

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