姫様は冷徹王子の溺愛をご所望です

朝永ゆうり

第9話 泣き虫王子と強がり姫(脚本)

姫様は冷徹王子の溺愛をご所望です

朝永ゆうり

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〇華やかな広場
  早朝に王宮を出ていくジークを
  追いかけてきたカレン。
  木々の間から、ジークの様子を見ていた。
ジーク王子「あれから4年も経つのか・・・」
ジーク王子「4年間も、俺は・・・」
  ジークは袖口で目元の涙を拭った。
ジーク王子「俺は、また同じ道を歩むのか?」
ジーク王子「俺は、また守れないのか?」

〇空
ジーク王子「俺は、罪のない者たちの命を──」
ジーク王子「奪うことしか、できないのか・・・?」

〇華やかな広場
ジーク王子「守れないなら、王子なんて・・・」
  ガサガサっ!
ジーク王子「誰だ!」
ジーク王子「・・・カレン?」
カレン「お、おはようジーク」
ジーク王子「お前、つけて来たのか!?」
  ジークはカレンに剣先を向けた。
ジーク王子「今の、見てたのか!?」
カレン「うん・・・」
カレン「あ、あのね・・・」
カレン「これ、直したから──」
カレン「ジークに、渡したくて・・・」
  カレンの声が震えた。
ジーク王子「そういうことか・・・」
ジーク王子「フレディ、だな・・・」
  力の抜けたジークは、剣先を下ろした。
  カレンはこくりと頷いた。
カレン「聞いたよ?」
カレン「4年前のあの日、ブルートから皆を助けたのは、ジークだって」
カレン「だから、ジークは──」
カレン「今日もこうして、あの日の慰霊碑にお花をあげに来たんでしょ?」
  カレンは一歩、ジークに歩みを向けた。
ジーク王子「来るなっ!」
カレン(怯んじゃダメだ。 ジークと、話すって決めたから・・・)
  また一歩、ジークに近づく。
カレン「ジークは、本当は──」
  ジークの剣先が、プルプルと震えた。
ジーク王子「来るな・・・!」
  カレンはまた一歩、ジークに近づく。
カレン「誰よりも優しくて、愛に溢れた王子様」
カレン「昔と、ちっとも変わってな──」
ジーク王子「黙れ黙れ黙れ!!」
ジーク王子「お前は何も知らなくていいんだ!」
ジーク王子「王宮で守られていば、それで──」
カレン「黙らないよ!」
カレン「ジークと、ちゃんと話したいから!」
カレン「私、あの日──」
カレン「私をかばってくれたあの日、」
カレン「頭を打ったジークが、全部忘れて性格も変わっちゃったんだと思ってたの!」
カレン「だから、ジークにあの時の約束思い出してもらおうって馬鹿みたいに奮闘して──」
カレン「でも違った!」
カレン「ジークは何も変わってなかった!」
カレン「だから・・・覚えてるでしょ?」
カレン「あの日交わした約束を!」
カレン「愛と幸せにあふれた王国を──」
カレン「二人で一緒に作ろうって!!!」
カレン「結婚して、やっとジークに会えたのに──」
カレン「こんなの、嫌だよ・・・」
カレン「せっかくプリンセスになったのに──」
カレン「ジークのこと、何も知らないなんて・・・」
  はらりと、ジークの手から剣がこぼれ落ちた。
  カレンはジークの元へ駆け寄り──
カレン(ジーク・・・)
  自分より大きなジークを、ぎゅっと抱きしめた。
カレン「私、プリンセスなんだよ・・・?」
カレン「私、あなたの奥さんなんだよ・・・?」
ジーク王子「カレン・・・」
ジーク王子「うう・・・」
  ジークはカレンの肩に頭を乗せた。
  ジークの髪が、クシャッとカレンの耳に触れる。
カレン(ジーク・・・)

〇空
  ────

〇華やかな広場
カレン「これ、ここに置いてもいい?」
  カレンはジークの返事を待たずに、彼の供えた花の横に花冠を置いた。
  そして、何も言わずに目をつむり、手を合わせる。
  ────
ジーク王子「カレン・・・」
ジーク王子「話したいことがある」
ジーク王子「来てくれ」
カレン「うん・・・」

〇洋館の廊下
  その頃、王宮では──
ハンナ「ウェルナーさーん!」
ハンナ「ウェルナーさん、姫様をご存知ないですか!?」
ウェルナー(専属護衛)「プリンセス・・・?」
ハンナ「ええ、朝からお姿が見えなくて・・・」
ハンナ「私、私・・・」
ウェルナー(専属護衛)「ん・・・?」
ウェルナー(専属護衛)「フッ・・・」
  ウェルナーはハンナの頭を優しく撫でた。
ウェルナー(専属護衛)「大丈夫だ」
ハンナ「ウェルナー、さん・・・?」
ウェルナー(専属護衛)「プリンセスなら、──」
  スタスタスタ──
  スタスタスタ──
ウェルナー(専属護衛)「──あそこだ」
(手を、繋いでる・・・?)
ジーク王子「ウェルナー!」
ジーク王子「誰も部屋に入れるな、いいな!」
カレン「ハンナ!」
カレン「部屋で恋愛小説でも読んでて!!」
ウェルナー(専属護衛)「・・・・・・」
ハンナ「ええ〜〜っ!!」

〇屋敷の書斎
  ジークは椅子にドスッと腰を下ろすと、そのまま黙ってしまった。
  カレンは立ったまま、部屋を埋め尽くす本棚を見上げた。
カレン「すごい量・・・」
カレン(帝王学の本、戦術についての本・・・)
カレン「これ・・・」
  フレデリック=リーベン 著
カレン(フレディの本・・・)
ジーク王子「フッ・・・」
ジーク王子「笑えるだろ?」
カレン「え?」
ジーク王子「一国の王子が恋愛小説なんて」
カレン「・・・」
ジーク王子「滑稽(こっけい)で声も出ない、か」
カレン「違うっ!」
カレン「私は、ただ──」
カレン「ジークは、ジークだなって思って・・・」
ジーク王子「・・・」
カレン「ジークは、ロマンチストだったよね」
カレン「あのお話の王子様みたいに、──」
カレン「誰より優しくて、愛に溢れてた」
カレン「ジークはやっぱりジークだったんだね」
ジーク王子「・・・はぁ」
ジーク王子「もう、隠せないな」
ジーク王子「カレン・・・」
ジーク王子「笑わないで聞いてくれ」
カレン「うん・・・」
ジーク王子「俺が恋愛小説を読むのは──」
ジーク王子「そこにある感情の変化に触れて涙を流すことで、」
ジーク王子「少しでも自分の弱さを隠すためだ」
カレン「え・・・?」
ジーク王子「恋愛小説を読んで泣くことで、気持ちを落ち着かせ──」
ジーク王子「自分の感情を押し殺すことでしか、俺は強くいられない」
カレン「どういうこと・・・?」
ジーク王子「戦場ではたくさんの命が犠牲になるだろう?」
ジーク王子「彼らは王都の平和を守るため、必死に戦っている」
ジーク王子「誰かが戦地で傷付き、命を失うのは──」
ジーク王子「軍を統帥(とうすい)する、俺の責任だ」
ジーク王子「俺が、たくさんの命を奪っているんだ・・・」
カレン「ジーク・・・」
ジーク王子「カレンなら知ってるだろう?」
ジーク王子「俺は・・・虫も殺せない、弱い男だ」
ジーク王子「兵士一人の死に感情を揺さぶられて、メソメソ泣いているなんて──」
ジーク王子「こんなに弱い男が、軍の統帥者だなんて──」
ジーク王子「国民の不安を煽るだけだ」
カレン「違うっ!」
カレン「だって、お話の王子様とお姫様は、愛と幸せに満ちた王国を──」
ジーク王子「そんなのただの理想だろ!」
カレン「え・・・」
ジーク王子「どこかの誰かが描いた、ユートピアだ」
ジーク王子「城でぬくぬく守られてる分にはそれでいい。だが──」
ジーク王子「現実はそんなに甘くはない」
ジーク王子「くそ・・・」
ジーク王子「俺だって、本当は・・・」
カレン「・・・」
カレン「ジーク、ごめんなさい・・・」
カレン「私、自分の理想ばかりで──」
カレン「ジークの気持ち、考えてなかった・・・」
ジーク王子「カレンは悪くない」
ジーク王子「俺がそうしていたんだ」
ジーク王子「お前は、何も考えなくて良いんだ」
ジーク王子「俺が、独りで受け止めさえすれば・・・」
カレン「それは違うよ!」
カレン「それじゃあ、ジークは幸せになれないじゃん・・・」
カレン「私は、傍にいることくらいしか出来ないけど──」
カレン「私にも、背負わせてよ・・・」
ジーク王子「・・・」
カレン「辛いことも涙も、全部私に吐き出して?」
カレン「私、一緒に受け止めるから」
カレン「それで、少しでもジークの力になるなら・・・」
ジーク王子「カレン・・・」
カレン「それに、私──」
カレン「恋愛小説に負けるの、嫌だよ」
カレン「ジークの心を受け止めるのは──」
カレン「私じゃ、ダメかな・・・?」

次のエピソード:閑話 ウソから出たマコト?

コメント

  • ジークとカレン、話し合えて本当に良かった。
    えっ、次回ウェルナーとハンナ!?
    見逃せません!
    あの一枚でウェルナーの方が意識しちゃうなんて、このこのぉ〜😆

  • ついに、正面から、本音で、話すことができましたね。弱い(やさしい)人物が、犠牲が出て当然の軍のトップを務めるのは相当大変なはず。ジークの苦悩は相当のものだったでしょうね。

  • 行けー!もっと行けー!とカレンを応援してしまいました。ジークとちゃんと話ができて良かった!
    でもウェルナーのときめき顔に全て持っていかれました😂クールな男のウブ反応、かわいすぎるやろ!

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