ガラスの目玉の涙

ウミウサギ。

エピソード5 遺骨の代わりに(脚本)

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〇葬儀場
  数日後。
  俺は、綾の葬式に参列した。
  身内だけの、小さな葬式。
  と言っても、綾の遺骨はない。
  あの人形師はご丁寧にも、綾を火葬どころか人形供養すらできない身体にしやがった。
  シリコン、ゴム、ガラス。
  どれも、燃やすことができない素材だ。
  だから、綾があの後どうなったのか────
  語りたくない。
  語らないほうが、いいのかもしれない。
綾の母「・・・・・・圭太くん」
仙道 圭太「おばさん・・・・・・」
仙道 圭太「・・・・・・この度は、お悔やみ申し上げ・・・・・・」
綾の母「いいのよ 辛いのは圭太くんも一緒でしょう」
綾の母「無理は、しないで」
仙道 圭太「・・・・・・ウス あざっす」
綾の母「・・・・・・それでね 圭太くんに渡したいものがあるの」
  綾の母は、圭太に小さな箱を手渡した。
  開けると、ビー玉のような物が1つ入っていた。
  ガラス製だが、人間の眼球のように見える。
  焦げ茶色の瞳。
仙道 圭太「・・・・・・これは・・・・・・ 綾の・・・・・・」
仙道 圭太「俺がもらって、いいんですか・・・・・・?」
綾の母「貴方だからこそ、貴方に受け取ってほしいのよ」
綾の母「貴方は、綾の支えになってくれたから・・・・・・」
綾の母「綾の心の拠り所になってくれたから・・・・・・」
仙道 圭太「・・・・・・俺、大したことは・・・・・・」
綾の母「貴方がいるだけで、綾は心の欠けた部分が埋まっていたようなの」
綾の母「綾にとっては、それで充分だったみたい」
綾の母「・・・・・・私も、圭太くんには感謝しているわ」
綾の母「ありがとう、娘と一緒にいてくれて」
仙道 圭太「・・・・・・・・・・・・」
仙道 圭太「あの、この目、ガラス玉って・・・・・・」
綾の母「『業者さん』が私にくれたのよ」
綾の母「遺骨の代わりにどうかって・・・・・・」
綾の母「だからもう一つは私が持ってるの」
綾の母「・・・・・・おばさんとお揃いは、さすがに嫌かしらね」
仙道 圭太「そ、そんなこと思わねぇっす!! 俺でよければ・・・・・・ありがたく・・・・・・」
仙道 圭太(・・・・・・そういえば)
仙道 圭太(人形になったあと、綾の五感は何時間残っていただろうか)
仙道 圭太(痛覚も、存在していたのだろうか)
仙道 圭太(・・・・・・『砕かれた』時、痛くなければいいな)
  そう願うことしか出来ない。
  今、綾と話せる手段はもう何も残っていないのだから。
  『あの時痛かったかどうか』なんて、聞けるはずもない。
  圭太は、再び箱を開ける。
仙道 圭太「・・・・・・綾、俺のこと見えてるか」
仙道 圭太「綾・・・・・・・・・・・・」

〇公園のベンチ
綾の母「・・・・・・さて、何日かしたら仕事に戻らなくちゃね」
仙道 圭太「おばさん・・・・・・」
綾の母「患者さんたちは待ってはくれないもの」
綾の母「旦那は帰ってこない、娘は遠くに行ってしまった・・・・・・」
綾の母「私に残っているのは、仕事しかないわ」
仙道 圭太「・・・・・・・・・・・・」
綾の母「圭太くん、これからどうするの」
仙道 圭太「どうするの・・・・・・って・・・・・・」
綾の母「もし行くあてがなかったら、私の職場で働いてもらおうかしらね」
綾の母「看護師でも男手は重宝されるわよ」
仙道 圭太「いやいや、冗談きついっすよ・・・・・・ 俺、通ってる大学は文系っすよ? 無理無理」
綾の母「ふふ、言ってみただけよ」
綾の母「今は無理でも、いつかは前を見て動き出さないといけない」
綾の母「私も、貴方もね」
綾の母「だから、困った時は遠慮なく相談してちょうだい」
綾の母「貴方にお礼をしたいという気持ちもあるけれど・・・・・・」
綾の母「私は圭太くんのこと、息子のように思ってるんだから」
仙道 圭太「・・・・・・ぷっ、くく・・・・・・」
綾の母「圭太くん?」
仙道 圭太「ああいや、すんません」
仙道 圭太「ウチの母親も、似たようなこと言ってたもんで」
仙道 圭太「綾のことを自分の娘のように可愛がってて、何かとお節介焼いてたもんですから」
綾の母「まぁ・・・・・・」
仙道 圭太「母親になると、自分の子供の幼なじみまで可愛く思えてくるもんなんすかねぇ」
綾の母「そうかもしれないわね」
綾の母「貴方と、貴方のお母さんには、本当によくしてもらったわ」
仙道 圭太「これからもよくさせてくださいよ」
仙道 圭太「近所づきあいっていうのもあるけれど、俺達は『大切な人を失った同士』じゃないっすか」
綾の母「・・・・・・そうね」
仙道 圭太「これからも、よろしくお願いするっす ・・・・・・尾道さん」
綾の母「おばさんでいいわ」
  ふと、綾の母の口元が緩んでいることに気づいた。
  必要以上に気を張ることはない。
  彼女自身が自分でそう気づけたからこそ、口元が緩んだのだ。
仙道 圭太(・・・・・・ああ、 おばさんならきっと大丈夫だ)
仙道 圭太(・・・・・・俺も、強くならねぇと)
仙道 圭太(後悔しない、真っ直ぐな生き方ができるように)
仙道 圭太(・・・・・・綾)
仙道 圭太(・・・・・・俺達、頑張るからな)
  圭太は小箱を握りしめた。
  ガラス玉が箱の中で揺れて、カタンと音を立てた。

次のエピソード:エピソード6 残されたもの

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