ガラスの目玉の涙

ウミウサギ。

エピソード2 広がる綻び(脚本)

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〇大学の広場
  とある私立大学。
  圭太は、気だるげにスマホを取り出してはポケットに戻す作業を繰り返していた。
仙道 圭太「くそっ、また図書館かよあいつ・・・・・・」
仙道 圭太(スマホ持ってる意味あんのか・・・・・・?)
  小さくため息をつき、図書館に向かう。
学生A「おい聞いたか、『図書館の女神』のウワサ!」
学生B「聞いたぜ、すっげー美人なんだってな!」
  圭太の近くで、二人の学生が噂話をしている。
学生A「いつ図書館に現れるか分からねぇから、神出鬼没なんだってよ」
学生B「え?俺が聞いたのは、ずっと図書館にいるって話だけど」
学生A「マジかよ、色んなパターンがあるんだな」
学生B「今頃行けば会えるんじゃね?」
学生A「おっ、会いに行っちゃう?」
学生B「行っちゃいますか!」
「ウェ〜〜〜〜〜〜イ!!!!!」
仙道 圭太「『図書館の女神』、ねぇ・・・・・・」
仙道 圭太(そんな大層なもんじゃねぇよ、綾は)

〇図書館
  大学内の施設として存在し、学生や教員のみ利用出来る図書館。
  綾は、本棚の近くの椅子に腰かけて、本を読んでいた。
  窓からさしこむ夕陽で、黒い髪がキラキラと輝いている。
仙道 圭太「・・・・・・綾」
  その声が耳に入った時、綾は慌てることなくおもむろに顔を上げ、丁寧に本を閉じる。
  その所作の美しさが、彼女が『女神』と呼ばれる所以なのかもしれない。
尾道 綾「・・・・・・圭太さん」
仙道 圭太「『講義終わったから帰るぞ』『どこにいる』って、メッセージ送ったんだけど」
尾道 綾「ああ、ごめんなさい・・・・・・」
仙道 圭太「・・・・・・また電源切ってたろ」
  綾は申し訳なさそうに、無言で頷いた。
尾道 綾「読書の間は、電源を切っていないと落ち着かないものですから・・・・・・」
仙道 圭太「・・・・・・そういやそうだったな」
仙道 圭太「これからは直接図書館に行って、お前がいるか確認したほうが早いかもな」
尾道 綾「その方がいいのかもしれません」
仙道 圭太「ま、なんでもいいや 一緒に帰るぞ、綾」
尾道 綾「はい」

〇街中の道路
仙道 圭太「なぁ、綾」
尾道 綾「はい?」
仙道 圭太「お前、最近体調よさそうだな」
尾道 綾「ええ、講義の時以外は図書館にいるようにしてから、だいぶ楽です」
尾道 綾「本当は、私もバイトをしなくてはいけないんでしょうけれど・・・・・・」
仙道 圭太「おばさんがダメってまだ言ってんのか」
尾道 綾「・・・・・・そうなんです」
尾道 綾「でも、私のためを思って言ってくれてることですから」
尾道 綾「私自身、こんな弱い体で社会に貢献できるとはとても思えませんし」
仙道 圭太「・・・・・・・・・・・・」
仙道 圭太「・・・・・・なぁ、綾」
仙道 圭太「その話し方ウザイからやめてくんね?」
尾道 綾「・・・・・・え」
仙道 圭太「え、あ、いや、」
仙道 圭太「言い方悪かったな、ええっと・・・・・・」
仙道 圭太「・・・・・・俺達、付き合ってるんだよな?」
尾道 綾「・・・・・・ええ 私は圭太さんのことが好きです」
仙道 圭太(ストレートに言われるとやりづれぇな・・・・・・)
仙道 圭太「そ、それはよく知ってるよ」
仙道 圭太「で、俺達一応恋人同士なんだろ」
仙道 圭太「恋人相手に普通敬語使うことねぇじゃんか」
尾道 綾「そういうものでしょうか」
仙道 圭太「そういうものだ」
仙道 圭太「だから、俺相手には敬語で話さなくてもいいんじゃねぇかってこと」
尾道 綾「そう・・・・・・ですか」
仙道 圭太「まぁ今すぐやめろとは言わねぇけどさ」
仙道 圭太「いつまでも敬語で話されるとやりづれぇんだよ」
  その時、綾のスマホが鳴った。
仙道 圭太「なんか来てるぞ」
尾道 綾「は、はい 確認します」
尾道 綾「・・・・・・・・・・・・」
尾道 綾「母がまた残業だそうです」
尾道 綾「結構遅くなってしまうらしくて、夕飯は一人で用意して食べて、という連絡でした」
仙道 圭太「ふーん、看護師って大変なんだな」
  綾の母親の職業は看護師だ。
  父親はあまり家に帰ってこないので、綾が夜遅くまで留守番をするということはしょっちゅうある。
仙道 圭太(おばさんが綾にバイトすんなっつってんのは、その辺の事情もあるのかもな)
仙道 圭太「綾」
尾道 綾「はい?」
仙道 圭太「ウチで夕飯食べてくか」
尾道 綾「・・・・・・え、いいんですか?」
仙道 圭太「俺は別に構わねぇし、母さんも夕飯一人分増えることくらいどうってことねぇだろ」
尾道 綾「そ、そういうものなのでしょうか・・・・・・」
仙道 圭太「そういうもんだろ、多分」
仙道 圭太「ま、一応メッセージ送っとかねぇとな」
尾道 綾「・・・・・・あの、圭太さん」
仙道 圭太「ん?」
尾道 綾「ありがとう、ございます」
仙道 圭太「・・・・・・だから、別にいいって」

〇明るいリビング
  圭太の自宅
仙道 圭太「ただいま」
圭太の母「おかえり カレーできてるわよ」
仙道 圭太「おっ、美味そうな匂い」
圭太の母「こらこら、帰ったらまず先に手を洗いなさいな」
圭太の母「あら綾ちゃん、久しぶりねぇ~!」
尾道 綾「ご無沙汰しております」
圭太の母「綾ちゃんが来るって聞いて、おばちゃん張り切っちゃったんだよ」
圭太の母「カレーいっぱい作ったから、沢山お食べ」
仙道 圭太「母さん、綾は少食」
圭太の母「あらぁ、そうだったかい」
尾道 綾「いえ、気にしないでください ありがたくいただきます」
  しばらくして、三人はテーブルを囲んだ。
  カレーの香りがリビング全体に芳しく香っている。
仙道 圭太「父さんは?」
圭太の母「あの人なら仕事行ったんじゃないかい」
仙道 圭太「はぁ?早くね?夜勤だろ?」
圭太の母「最近は夕勤もやってるんだよ」
仙道 圭太「ふーん・・・・・・稼ぐねぇ」
圭太の母「アンタの学費がバカになんないからねぇ」
圭太の母「バイトばっかしてるんだったらアンタもちょっとは家に金入れな」
仙道 圭太「綾の前でやめろよ・・・・・・」
尾道 綾「あの、おじさまのお仕事って・・・・・・」
仙道 圭太「宅配だよ」
圭太の母「最近はコンビニでバイトもやり始めたんだよ」
仙道 圭太「ああ、それで夕勤・・・・・・」
仙道 圭太(俺も家に金入れなきゃいけねぇのかな バイト増やすか・・・・・・)
尾道 綾「・・・・・・色々と、大変なんですね」
圭太の母「大変なのは綾ちゃんとこも同じだろう」
尾道 綾「そうですね 父が滅多に帰ってこないので、実質女手一つのようなものです」
圭太の母「苦労してきたんだねぇ、グスッ・・・・・・」
仙道 圭太(泣くなよ・・・・・・)
  さらに、話は盛り上がり。
圭太の母「いやぁ、それにしても綾ちゃん本当にべっぴんさんになったねぇ」
圭太の母「こんなべっぴんさんがお嫁さんに来てくれるならうちは大歓迎だよ!!」
尾道 綾「お、お嫁さん・・・・・・」
仙道 圭太「・・・・・・母さん」
圭太の母「だってアンタたち付き合ってるんだろ? ゆくゆくはそうなるじゃないか」
仙道 圭太「・・・・・・さぁ、どうだか」
尾道 綾「お嫁さん・・・・・・」
仙道 圭太(綾はすっかりその気になっちゃってるみたいだけど)
仙道 圭太(付き合ってるのだって、綾から告白されたからだし)
仙道 圭太(断る理由もねぇしまぁいいかなって、何となくで付き合ってるだけで)
仙道 圭太(・・・・・・それに、俺は綾を無下にできねぇし)
仙道 圭太(・・・・・・『あんなこと』をしちまったせいで)
尾道 綾「ごちそうさまでした」
圭太の母「おや、おかわりはいいのかい?」
尾道 綾「ごめんなさい、もうお腹いっぱいで・・・・・・」
圭太の母「もういいのかい おばちゃんとしてはちょっと心配になっちゃうけどねぇ」
尾道 綾「ごめんなさい・・・・・・」
圭太の母「いいのいいの! いっぱいお食べっていうお節介なんだから」
圭太の母「綾ちゃんがお腹いっぱい食べたんなら充分」
尾道 綾「・・・・・・ありがとうございます」
尾道 綾「カレー、とても美味しかったです」
圭太の母「そうだ、たくさんあるからタッパーに入れて持ち帰るかい?」
尾道 綾「いいんですか?」
圭太の母「いいのよぉ、持ち帰ってくれた方がおばちゃん助かっちゃうから」
圭太の母「この子も数日間ずっとカレーは嫌だろうし」
仙道 圭太「すみませんねぇ、めんどくさい息子で」
尾道 綾「では、お言葉に甘えて」
圭太の母「じゃんじゃん持って帰りな! あとでお母さんと一緒に食べられるようにね」
尾道 綾「はい、母もきっと喜びます」
  1時間後
圭太の母「綾ちゃんのお母さん、仕事はまだ終わらなさそうかい?」
尾道 綾「はい・・・・・・連絡がまだ来ません・・・・・・」
圭太の母「それは心配だねぇ・・・・・・」
尾道 綾「いえ、よくあることです」
圭太の母「そうだ綾ちゃん、お風呂入ってくかい?」
尾道 綾「え?」
圭太の母「今ちょうどお風呂沸いたところだからすぐ入れるよ」
圭太の母「おばちゃんのでよければシャンプーとかはじゃんじゃん使っちゃっていいから!」
尾道 綾「え、あ、あの、」
圭太の母「さぁ、一番風呂、堪能してらっしゃい!!」
尾道 綾「で、では、お言葉に甘えて・・・・・・!!」
  綾は圭太の母に連れられてお風呂場へ消えていった。
仙道 圭太(あれって強制連行だよな・・・・・・)
  しばらくして
仙道 圭太「母さん、綾にお節介しすぎ」
仙道 圭太「もう見てられねぇからその辺にしとけよな」
圭太の母「なんだい、見ていられないなら見なきゃいいだろ」
仙道 圭太「そういうことじゃなくて・・・・・・」
圭太の母「綾ちゃんにはねぇ、あれこれお節介焼きたくなっちゃうんだよ」
圭太の母「こんなにちっちゃい頃から見てるんだから」
仙道 圭太「幼稚園の頃からの腐れ縁ってだけだろ」
圭太の母「幼なじみとお言いよ」
圭太の母「・・・・・・綾ちゃん、今は大丈夫そうかい」
仙道 圭太「何が?」
圭太の母「何がって色々あるだろう、体のこととか」
圭太の母「・・・・・・友人関係とか」
仙道 圭太「ああ・・・・・・まぁ」
仙道 圭太「イジメはされてねぇんじゃねぇの あいつ講義以外はずっと大学の図書館にいるみたいだし」
仙道 圭太「それがきっかけで『図書館の女神』って崇め称えられてるみたいだし」
圭太の母「女神ねぇ・・・・・・ 綾ちゃんはもうすっかり美人さんになったからねぇ」
仙道 圭太「・・・・・・あのさ、そんなに気にかけるんなら母さんが綾の母親になればいいんじゃねぇの」
圭太の母「そういうわけにはいかないよ」
圭太の母「アタシたちにはアタシたちの家、 綾ちゃんには綾ちゃんの家があるんだ」
圭太の母「そう簡単な話じゃないさ」
圭太の母「ま、アンタが綾ちゃんをお嫁さんに迎えるって言うんなら話は別だ」
仙道 圭太「またその話かよ」
仙道 圭太「あのな、俺は綾と結婚する気はねぇから」
仙道 圭太「結婚するってことは死ぬまで一緒にいるってことだろ?」
仙道 圭太「やだよそんなの、めんどくせぇ」
仙道 圭太「ヨボヨボのババァになった綾なんか見たくねぇし」
圭太の母「・・・・・・圭太、そんな言い方をすると怒るよ」
仙道 圭太「だってそういうことだろ」
仙道 圭太「俺は今の綾を気に入ってるから付き合ってるだけだ」
仙道 圭太「ババァになった綾なんかお断りだ」
圭太の母「圭太!!」
仙道 圭太「あーもう、うぜぇなぁ!!」
尾道 綾「・・・・・・あ」
仙道 圭太「あ・・・・・・」
尾道 綾「あ、あの、お風呂いただきました」
圭太の母「も、もう上がったのかい」
尾道 綾「はい いいお風呂でした」
圭太の母「そ、そうかい、それはよかったねぇ!」
尾道 綾「あの、ドライヤーをお借りしても・・・・・・?」
圭太の母「構わないよ、洗面所の左下の戸棚に入ってるから、好きに使っておくれ」
尾道 綾「ありがとうございます では、お借りします」
  洗面所にて
尾道 綾「・・・・・・そっか 圭太さん、私とずっと一緒にはいたくないんだ」
尾道 綾「・・・・・・もしかして」
尾道 綾「私が今のままの見た目でいれば、ずっと一緒にいてくれるのかな・・・・・・?」

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