NO.2『愛している』 (脚本)
〇黒
君のことを愛している。
〇暖炉のある小屋
大雨の中、使い魔の鷲が掴んで持って帰ってきたバスケットの籠の中で、毛布に包まれてスヤスヤと眠る君を見たときから。
決別したあの日から、中国の山奥の仙人の村の外れに居候させて貰い、知識を蓄え魔法を鍛えてきた。
使い魔の鷲に目線を向ければ、バスケットの持ち手に留まる彼女が
『なんか文句でもあんのか』
と言う目線でこちらを見ている。
此処から直近の村でもうん十キロ離れている。
しかもこの大雨の中だ。
君に手を伸ばすと、パチッと目を開けた君がニコっと笑って僕の指をギュと握った。
雨に濡れた気配もなく、温かい体温が肌を伝って伝染する。
使い魔に教え込んだ魔法に、バリアや気温調節系の魔法があったか頭の中で参照する。
該当魔法が数個ヒットしたのでなるほどな・・・と項垂れる。
アイン「いや、お前がやったことは正しいことだ」
私を見下ろす使い魔の目線が冷たいので、君のほっぺを撫でながら弁解する。
アイン「・・・この子を育てよう」
ピィッ!?と使い魔が鳴く。
『お前に人間の子供が育てられるのか!?』
という声が聞こえたが聞かないふりをした。
アイン「この子を・・・神代の血を持たないこの子が魔法使いになれば・・・できれば・・・私は・・・」
アイン「私の理論が正しかったとあいつに証明してやるんだ」
〇黒
君のことを愛している。
例えその最初が、打算的な愛であったとしても。
〇暖炉のある小屋
エトン「アぃン!」
アイン「はいはい、師匠兼おとーちゃんのアインだよ〜」
大きくなっていく君は僕の大切な子供だったし。
エトン「火が出た火が出た火が出た火が出た」
アイン「いやぁ〜こうも弟子が優秀とは・・・流石私ってばてーーーんさい」
エトン「自惚れてないで、なんとかしろやアイン!!」
君が、魔法を始めて使えた時はホッとしたと同時に本当に嬉しかったんだ。
だから
〇暖炉のある小屋
エトン「どうして、イギリスに行ってはいけないのよ!?」
アーサー王伝説を手に持って、少し大きくなった君が嘆く。
それもそうだ。
ここは、仙人の領域であり根付く奇跡は魔法では無く仙術である。
私が西洋魔法の使い手なので、君もまた使う魔法は西洋魔法である。
いつかは、いつかは送らなければいけない。
追求の末に人から神の末端に入った近所の仙人達にも最近良く聞かれるようになってしまった。
「あの子をイギリスに送らないのか」と
そのつもりで育てた。
私を否定したいつかのブリテン魔法界を・・・彼に私は正しいのだと、間違っているのはお前等の方だと。
思考から浮き上がれば、君は・・・エトンは行きたいと駄々を捏ねている。
年相応の我儘をどう宥めようと口を開ける。
アイン「駄目だと何回も言っているだろ」
アイン「私は君の為になることは極力話すし、やらせるようにしている。 その私が、駄目だと何回も言っているんだ」
アイン「言う事を聞きなさい」
耳から聞こえた声は、自分でも恐ろしく冷たく、何かが地面と激突する音で我に返った。
しまったと弁解しようにも、その冷酷さを向けられたまだ幼い少女は
エトン「うわぁぁぁぁぁん!!!! アインなんか嫌いだぁぁぁ!!!!」
アイン「エトン!!」
地面に落とした本を抱えると、泣きながらバタバタと自室に駆け込んでしまった。
使い魔「ピィーー?」
たまたま帰ってきていた、番を作り家を出ていった元使い魔目線が非常に痛い。
〇暖炉のある小屋
好物を作りまくり、何とか機嫌を直してもらったがそれ以降彼女がイギリスに行きたいと言う事はなくなってしまった。
〇時計
彼女が一流と呼べるほどの魔法を使えれるようになってから何度も言おうと思っていた。
「イギリスに行ってきなさい」と
ただ、どうしてもその言葉が出せずにまた来年、また来月、また明日と18を目前になってしまった。
それでも、決心が付かずに「また」を繰り返していた。
お前に見せるために。
お前に自慢して、お前の子供よりエトンの方が優秀だと証明してやろうと思っていたんだ。
〇黒
だから
〇暖炉のある小屋
アイン「はっ?」
だから
アイン「あいつが死んだ?」
〇黒
お前が死んだら元も子もないんだよ。