3. 仕込まれた毒(後編)(脚本)
〇兵舎
王城食堂 歓迎会中
従者「ビッグマム♪」
従者「ビッグマ、ビッグマッ♪」
ビッグマム!
従者「歓迎するぜ期待の新人、フゥ──」
ヴィクトル(思っていたのとだいぶ違う歌だった)
メイド「新大陸で流行してるんですって」
従者「兄貴ぃ!最高だぜぇ!」
従者「おう、新大陸の奴らにも負けねえよ!」
従者「かんぱーい!」
ヴィクトル(均一なガラス製コップ・・・・・・ 新大陸の輸入品か)
従者「ぷはあ」
従者「オラオラ姫と北の王子が結婚すりゃ、 南北の大国の一丁あがり」
従者「おう、統合国になりゃ世界一 新大陸にだって絶対負けねえ」
執事「・・・・・・・・・・・・」
従者「あん、なんだよ」
執事「仕事を思いださせてくれましたね」
執事「オーラ姫が男なのに、 結婚できるわけないじゃないですか」
執事「国王陛下はそれはもう焦りまくってて」
執事「なにせ、婚約式は半年後」
執事「なのに呪いは一向に解けない」
執事「このままじゃ破談ですよ」
執事「ああ、もう、どうなるんだ、統合国の話は」
メイド「お疲れ様です、先輩」
ヴィクトル(本当に、なんとかしないとな)
ヴィクトル(早く飲み会を切り上げよう──)
従者「あれ、新人、それ水じゃねえか?」
従者「あ、本当だ」
これは自分で用意した水だ
空間の魔女との長い交渉の末、
もぎとった契約──異空間収納
そこに収めた安全な飲食物以外、
口にしないようにしていた
ヴィクトル(人の注いだ酒か・・・)
ヴィクトル(しかし、ここで信用を失うわけには・・・)
ヴィクトル(・・・・・・)
〇西洋の城
ここは太陽の国スパイクレット
〇月夜
死ぬほど苦しんだあの時みたいに、
毒なんて入ってるはずがない
〇兵舎
ヴィクトル(くっ)
従者「お、いい飲みっぷり!」
従者「飲めるじゃねえか!ははは!」
ヴィクトル(飲めた・・・・・・飲めた!)
メイド「一気に飲んじゃいましたね!」
ヴィクトル「はは・・・」
〇貴族の部屋
オラオラ姫「はあっ・・・はあっ・・・」
アンドレ「頑張るねえ」
アンドレ「君の部屋、めちゃくちゃだよ」
オラオラ姫「なんなんだ、お前は!」
アンドレ「誰にも聞こえないよ?」
アンドレ(部屋の周りに風を張り巡らせてるからね)
アンドレ「植物が絡みついて荊姫って感じだね。あはは」
オラオラ姫「誰か、誰か来てくれ! いないのか!?」
〇兵舎
従者「ひゃっはは、新人! お前が持ってきた酒、強いな!」
ヴィクトル「マレフィセントのヴァターニュ産です」
従者「ほう、北の!どうりで美味いわけだ」
ヴィクトル(意外と楽しいな)
ヴィクトル(見張りを任せてる使い魔からは連絡ないし)
ヴィクトル(こんなに緩めるのは久しぶりだな)
メイド「新人君!一緒に歌おうよ!」
〇城の回廊
ハハハハッ
「ちょっ、笑ったら可哀想ですよ。ハハハッ」
〇兵舎
メイド「でね、新人君、親が結婚しろってうるさくって」
メイド「ぐー」
執事「飲み過ぎですよ」
ヴィクトル「俺、部屋に送ってきます」
従者「手ぇ出すなよ。ちゃんと戻ってこいよ」
ヴィクトル「出しませんよ!」
ヴィクトル(ん、俺もちょっと酔ったかな)
従者「戻ってくるか賭けね?」
従者「いや、あいつは帰ってくる そういう男だ」
ヴィクトル「ただいまー」
従者「な」
従者「偉いぞ」
ヴィクトル「ぐー」
従者「なんだよ、お前も酔ったのか?」
〇大広間
〇貴族の部屋
アンドレ「君に聞きたいことがあるんだ」
アンドレ「マレフィセント城に、 君の肖像画を送ったのは一体誰?」
アンドレ(病み兄さんの計画じゃ、婚約式で暴露するって話だったし)
オラオラ姫「・・・・・・」
アンドレ「誰が送ったの?」
オラオラ姫「それは──」
オラオラ姫「ぐ・・・ああっ」
アンドレ「当ててみせようか?」
アンドレ「君だろ」
〇西洋の城
「────!!」
「悪い子だねえ」
〇貴族の部屋
オラオラ姫(いつまで続くんだ、これは)
オラオラ姫「いい加減、離せ・・・」
アンドレ(あらかた聞いたけど)
アンドレ(もう少し遊べそうだな)
アンドレ「僕ね、老若男女博愛主義なんだ」
オラオラ姫「は?」
アンドレ「あはは」
アンドレ「男でもいけるってこと」
オラオラ姫「ちょっ・・・」
アンドレ「あの執事は今頃楽しく皆と飲んでるよ」
アンドレ「君も楽しめばいい」
オラオラ姫「や、やめろぉ!」
〇黒背景
どうでもいいか
私なんかどうなっても
オーロラさえ無事でいれば
〇貴族の部屋
アンドレ「お、大人しくなった」
アンドレ「いい子だね」
???「おい」
アンドレ「ん?」
アンドレ「!?!?!?」
ヴィクトル「お前、何をしている」
アンドレ「あれ」
アンドレ「君こそなんでいるの?」
アンドレ「小鳥ちゃん、鉄の巣箱に閉じ込めといたのに」
使い魔「・・・・・・──〜〜〜!!!!」
ヴィクトル「気持ちは分かるがここで喋らないでくれよ」
使い魔「不意をつかれて!屈辱」
ヴィクトル「昼間の掃除で、ここの警備はザルだって 分かってたからな」
ヴィクトル「念のため俺も見回りに来たらこれか」
〇兵舎
変異魔法を使った、
メイドの彼女には、
後でお礼をしておかないとな
ヴィクトル「私の未来の旦那様どこー・・・」
〇貴族の部屋
ヴィクトル「さて・・・」
アンドレ(おっと、ヴィクトル相手じゃ分が悪い)
アンドレ(退散退散・・・その前に)
アンドレ「オラオラ姫ちゃん、僕の名前だけどね──」
オラオラ姫「え?」
アンドレ「じゃ、またねー」
アンドレ(僕からも毒のプレゼントだよ)
ヴィクトル「待て!」
オラオラ姫「あ」
ヴィクトル「姫様は誰か人を呼んで安全なところに!」
オラオラ姫「・・・・・・」
〇城門の下
アンドレ「ちょっ」
アンドレ「怒りすぎじゃない? ははは」
「・・・・・・」
ヴィクトル「何が目的だ、アンドレ」
ヴィクトル「継承権争いなんかどうでもいいんだろ?」
アンドレ「もっちろん。くだらないね」
ヴィクトル「だったら面白半分に首突っ込んでくるな!!」
アンドレ「・・・面白半分の何が悪いんだ」
ヴィクトル「あ?」
アンドレ「ヴィクトルこそ、ここで何してるの?」
ヴィクトル「婚約者を守るためだろ」
アンドレ「親が決めた、ね」
ヴィクトル「何が言いたい」
アンドレ「相変わらずくだらないなってこと」
アンドレ「建前でしか動けない」
アンドレ「病み兄さんの手紙、確かに届けたからね」
アンドレ(だからこんな罠を仕掛けられる)
アンドレ「じゃ、またねー」
ヴィクトル「二度と来るな!」
ヴィクトル「・・・・・・」
使い魔「手紙って・・・何ですか?」
ヴィクトル「・・・・・・」
ヴィクトル「ふん」
くだらない
〇貴族の部屋
──僕の名前はね──
──ヴィクトル、っていうんだ──
オラオラ姫(あれがもし本当なら、)
オラオラ姫(私の肖像画を見て、婚約者殿はああいう行動に出たということになる)
ヴィクトル「あの」
オラオラ姫「わ、おう!」
ヴィクトル(あれ、一人?)
ヴィクトル「誰も呼ばなかったのですか?」
オラオラ姫「あ、ああ」
オラオラ姫「それより、その」
オラオラ姫「ありがとう」
ヴィクトル「ああ、いえ」
ヴィクトル(あれ、なんか顔が柔らかい)
ヴィクトル(俺、嫌われてるんじゃないのか?)
オラオラ姫「座ってくれ」
ヴィクトル「・・・失礼します」
ヴィクトル「・・・・・・」
ヴィクトル(そう言えば、ちゃんと話すのは、初めてか)
オラオラ姫「それで、その」
ヴィクトル「は、はい!」
オラオラ姫「さっき、平気な顔で戦っていたが、怖くなかったのか?」
ヴィクトル(心配してくれてるのか)
ヴィクトル「あなたを守るのが俺の仕事ですから」
オラオラ姫「そっ」
オラオラ姫「そういうことをサラッと言うな!」
ヴィクトル「すみません」
オラオラ姫(落ち着け。彼は仕事でやっただけだ 仕事仕事仕事仕事!)
ヴィクトル(はっ、守るのは執事じゃなくて護衛の仕事か)
ヴィクトル(いかん、俺はどうも従者の仕事を一括りにしがちだ)
ヴィクトル(しかし)
少しだけ心臓の音が気になる静かな時間
結婚したら、こんな風に過ごすんだろうか
ヴィクトル(騒がしいのも嫌いじゃないが)
ヴィクトル(公式行事が終わったら、 皆で結婚パーティを開くのも悪くないな)
オラオラ姫「ところで」
オラオラ姫「さっきの人のことは、黙っていてくれないか?」
ヴィクトル「・・・どうして、と聞いてもいいですか?」
オラオラ姫「納得できないか」
オラオラ姫「実はあの人は、私の婚約者なんだ」
ヴィクトル(アンドレの奴、俺の名前を騙ったのか)
使い魔(あの阿呆の次男、なんて嘘を)
オラオラ姫「それで、その、私のやり方がまずくて、多分怒らせてしまった」
ヴィクトル「やり方?」
オラオラ姫「肖像画を送ったんだ」
オラオラ姫「私との婚約を破棄してもらおうと思っててな」
オラオラ姫「彼の婚約者は、オーロラこそがふさわしいと思っている」
ヴィクトル「は・・・・・・?」
ヴィクトル(今の、なんだ)
ヴィクトル(聞き間違いだよな?)
兄二人の毒が効いてきたのは
この話を聞いたもう少し後のことだ
つづく
主人公がかっこよくて応援したくなるし、これはオラオラ姫様もドキドキしちゃいますよね。
あんなに可愛い妹ちゃんがいたら、別にいなくてもいいって気持ちになりますね😭
アンドレやなやつー!と、同時に、こうやってだんだんとすれ違っていくのですね……とても切ないです(泣)
オラオラ姫も人想いですごく優しいし、もう早くみんな幸せになってほしいです……苦しめないでくれ〜〜
次兄アンドレが自由すぎですね、生き方も性的なストライクゾーンも!w その一方で姫の繊細な心情描写がとても細やかですね。今後の物語の展開も楽しみになります。