エピソード11(脚本)
〇ディベート会場
真田紅音「いや、なんだこれ」
藤原一茶「こいつらみんな、学生映画のスペシャリストたちや。たぶん四人で一緒に選考受けに来とったんやろ」
藤原一茶「女優の長谷川まりあ。 数々の学生映画でヒロインを務め、そのどれもが映画祭で賞を受賞しとる」
藤原一茶「最近やと『君の罠。』で新境地を開拓しとったな」
若山柿之介「べっぴんさんだべ」
真田紅音「いや、新境地とか言われても」
藤原一茶「カメラも照明も超一流や。 特にあのハンチング帽かぶった男、東映人」
藤原一茶「あいつは、あの東京映画祭で二年前にグランプリを取っとる」
藤原一茶「全編タイでのロケで制作された『タイパニック』、あれはホンマ衝撃やった」
真田紅音「・・・・・・」
ドン引きした目で一茶を眺める紅音。
藤原一茶「なんやねん、そら四年も就労しとったら、学生映画の情報ぐらい入ってくるっちゅーねん」
真田紅音「関係ないだろ、ぜったい」
中園瑚白「彼らが有名だろうが有名じゃなかろうが、どっちでもいいけど・・・たしかに少しまずいかもね」
そう言ってモニターを指差す瑚白。
中園瑚白「視聴率はあがった。でも・・・」
瑚白がスマホを見せる。
紅音たちが映っている動画に、沢山のコメントが寄せられている。
『なんだこれ』
『この動画だけ演出凝ってる』
『女の人キレイ』
『犬のぬいぐるみどっから出てきた、ウケる笑』
『てかこの画は東映人だろ、すげー』
中園瑚白「一茶の言う通り、このままだと相手の独壇場になってしまう」
真田紅音「じゃあ、とりあえず向こうと話し合って、どうディベートを進めるかを決めて——」
藤原一茶「そんなことをしたら視聴率さがるわ、誰がルール決めしてるやつら見たいねん」
藤原一茶「先に動き出したあいつらの勝ちや。 もう俺らは、あいつらの土俵で戦うしかないねん」
紅音はスマホを取り出して、他のグループの映っている動画を見る。
真田紅音「視聴率を上げて、かつ印象に残る・・・」
藤原一茶「いま俺らはどっちも持ってかれとる。 なるべく向こうが作り出した雰囲気を壊さず、こっちもカメラの前で主張せなあかん」
藤原一茶「主張の内容がどうとかやない、あんだけ犬犬言われてたら、そら印象に残ってまう」
中園瑚白「・・・とりあえず反撃しておきましょう」
藤原一茶「反撃て、なんや」
〇ディベート会場
長谷川まりあ「犬は走った、どこまでもどこまでも。 自分自身が犬であることを証明するように」
長谷川まりあ「この躍動する肉体は、たしかに犬には違いないと、自身に言い聞かせるように」
中園瑚白「私は猫だ。名前は知らない」
中園瑚白「だが、私は名前を必要としない。 誰かが叫ぶための名前など、どうして必要だろう」
中園瑚白「私は私、それ以上でも以下でもない。 誰に媚びるでもない。私は猫だ」
〇ディベート会場
藤原一茶「めっちゃノリノリやん、なんやあいつ」
若山柿之介「なんだか色っぽいべ」
真田紅音「・・・・・・」
紅音は再び、スマホで自分たちのグループが映る動画を眺める。
『猫の反撃きたww』
『しかも誰にも媚びないとか、ちょっと猫っぽさも入れてきてるし』
〇ディベート会場
黙ったままサングラスをずらす東映人。
東映人「まりあ、相手のセリフを味わうように繰り返しながら、ゆっくり近づいて。ステージに上がって」
長谷川まりあ「でも、離れてた方がこっちのカットを多めにできるんじゃ・・・」
東映人「お前とあの子を一つの画に収めたいんだ。 なにか、今までに感じたことのないような、化学変化が起きるような、そんな気がするんだよ」
長谷川まりあ「もう、こんなときまで、ホントに映画馬鹿なんだから」
〇ディベート会場
長谷川まりあ「名前を必要としない、私は私。 それ以上でも以下でもない、か・・・」
長谷川まりあ「だが、犬には名前が必要だ。 名前を持つことは繋がることだから」
長谷川まりあ「私は名前を持つことで弱くなるのかもしれない。だが、その弱さこそを愛されているのだと、そう感じる」
〇ディベート会場
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