第2話「歯車」(脚本)
〇ダブルベッドの部屋
オジマンディアス「余が手ずから料理してやるのだ。その光栄に震えるが良い」
源頼光「口上が多いですね・・・」
源頼光「朝家の守護!」
〇ダブルベッドの部屋
源頼光「この国で、この土地で、私たちを容易く料理できるとは思わないでいただきたい」
オジマンディアス「二重の地の利か・・・」
源頼光「ええ、そうです。この国、そして土地、二重の概念からなる防壁です」
オジマンディアス「ふんっ。余のストラトス・ヴァスィリャスならば崩せようが・・・」
オジマンディアス「この場では、建物が保たぬか・・・」
源頼光「ええ。建物が崩壊すれば、憑坐は死に至る」
オジマンディアス「・・・良かろう。貴様らの国と土に免じて、この場は退いてやる」
〇ダブルベッドの部屋
北畠真弘「ふう・・・退いてくれましたね」
源義経「申し訳ありません。役に立たず・・・」
北畠真弘「いえ。義経が時を稼いでくれたおかげで、霊力を錬ることができました」
源義経「そう言っていただけると・・・」
北畠真弘「事実ですよ」
源義経「はい・・・」
サンムラマート「お二人のおかげで助かりました」
源義経「いえ、俺は・・・」
サンムラマート「あのオジマンディアスと互角に渡り合ったのです。自信を持ってください」
源義経「はい・・・」
源頼光「オジマンディアスが私の結界から出たようです」
源頼光「朝家の守護を解くとしましょう」
サンムラマート「はい」
〇ダブルベッドの部屋
源頼光「ふう・・・」
サンムラマート「かなり霊力を消費するようですね」
源頼光「ご心配には及びません。しかし・・・」
サンムラマート「しかし?」
源頼光「今回はオジマンディアスのプライドの高さに救われました」
サンムラマート「と言うと?」
源頼光「長時間の消耗戦に持ち込まれていたら、どうなっていたか・・・」
源義経「俺がもっと強ければ・・・」
サンムラマート「義経殿は充分に強いですよ。ご自分を責めないでください」
源義経「はい・・・」
源頼光「では、憑坐に躯を返すとしましょう」
サンムラマート「そうですね」
児玉優美「ありがとうございました」
北畠真弘「いえ、なんとかなってよかった」
児玉優美「隼人くん。ありがとね」
高倉隼人「いえ、次は勝ちますよ」
児玉優美「次、か・・・考えたくないな・・・」
北畠真弘「気持ちは分かります・・・しかし、考えなければいけません」
児玉優美「はい。そうですね。逃げないと決めたのは、わたし自身ですし」
北畠真弘「それでこそ我らがカリスです」
児玉優美「真弘さん。ひとつ聞いていいですか?」
北畠真弘「なんでしょう?」
児玉優美「たまに、わたしのことをカリスって呼びますけど、どういう意味ですか?」
北畠真弘「ああ、ギリシア神話の女神ですよ」
児玉優美「女神・・・!」
児玉優美「それは、ちょっと恥ずかしいです・・・」
北畠真弘「私と隼人が勝手に言っているだけです。お気になさらず」
児玉優美「隼人くんも・・・?」
高倉隼人「ぴったりですよ」
児玉優美「むー・・・」
〇レストランの個室
翌日、夕刻。南青山
瀧上正臣「また随分と小洒落た場所だな」
遠野篤志「ここの店主とは馴染みでな、融通を利かせてくれる」
瀧上正臣「おまえの顔の広さには、ほとほと感心するよ」
遠野篤志「早速、乾杯といきたいところだが、その前に仕事の話を済ませよう」
瀧上正臣「宮成大貴の足取りは、俺の班で掴んでる。指示通り泳がせてる」
遠野篤志「今はどこに?」
瀧上正臣「宮下公園のホテルだ。逃亡の素振りは全くない」
瀧上正臣「なあ、遠野。俺は上の方針に納得してない」
遠野篤志「ああ、だろうな」
瀧上正臣「神格霊に精神を乗っ取られた憑坐なんていう危険な存在を」
瀧上正臣「事もあろうに渋谷なんていう人口密集地で泳がせるなんてのは正気の沙汰じゃない」
遠野篤志「ああ、その通りだ」
瀧上正臣「上は、いや、螺旋機関は何を考えてる」
遠野篤志「貴重なサンプル。データ収集の機会・・・」
遠野篤志「螺旋機関は、その前身となる組織から見れば歴史の長い組織だが」
遠野篤志「現状は寄り合い所帯。そこで力を持つのは御多分に洩れず米国だ」
瀧上正臣「日本人の安全よりも好奇心を優先させた、とでも言う気か」
遠野篤志「好奇心という表現は、的を射ていると言えるかもしれん」
瀧上正臣「俺たちは、警察官だぞ・・・!」
遠野篤志「まあ、落ち着け。私もこのまま流される気はない」
遠野篤志「警察官としても、憑坐としてもな」
瀧上正臣「含んだ言い方だな」
遠野篤志「神格霊の力は凄まじい。現世の人間にとっては危険を孕んでいる」
遠野篤志「神格霊が憑依している憑坐も同様に危険な存在。しかし、だ」
遠野篤志「憑坐は霊力を持っているだけの、生身の人間だ」
遠野篤志「憑坐が死に至れば、神格霊は神格の御座、霊界に戻る」
瀧上正臣「いざとなれば、処理できると言いたいのか?」
遠野篤志「そうだ。憑坐とは、どんなに強い神格霊と呼応し憑霊したとしても、生身の人間」
遠野篤志「そして、今回のようなケースを想定して、処理する仕組みを螺旋機関は用意している」
瀧上正臣「・・・暗殺部隊でも用意していると言った口調だな」
遠野篤志「否定はしない」
瀧上正臣「いざとなれば処理できる。だから泳がせている。ということか」
瀧上正臣「国民の安全よりも好奇心を優先させた上に、いざとなれば闇に葬ると?」
瀧上正臣「・・・宮成大貴もまた日本の国民だぞ」
遠野篤志「機関は既に、宮成大貴をロストと認定している」
瀧上正臣「・・・俺に、そこまで話して、なにをさせたい」
遠野篤志「なにも。瀧上には知っておいてもらいたかっただけだ」
遠野篤志「警察官としての責務を全うしようとする瀧上には、事実を知った上で見ていてもらいたい」
瀧上正臣「おまえ、まさか・・・」
遠野篤志「ああ、私は機関の仕組みに組み込まれている。処理係の一人だ」