第二話 JKだけど、新人賞いただいてもいいですか?(脚本)
〇シックな玄関
花木真奈央「ただいま帰りました」
花木知佳「お帰りなさい真奈央さん」
花木知佳「今日の学びは?」
花木真奈央「はい、お母様。放課後、友人との勉強会でシェイクスピアの『真夏の夜の夢』を原文で読みましたの」
花木真奈央「現代アメリカ英語とは違った独特のリズムに、英国の心象風景を見た気がしましたわ」
花木知佳「そう。よき文学は良き心を育てますからね。また一つ、成長したわね」
花木真奈央「一日一つ」
花木知佳「新たな学びを」
花木真奈央「ふふふふふ」
花木知佳「おほほほほほ」
花木真奈央「!!」
真奈央はシューズボックス上に、『月刊青年天国』と書かれた小包を見つけた。
花木真奈央「げ、げ、げ」
花木知佳「ゲゲゲ?」
花木真奈央「月刊青年天国・・・。お母様、この小包は?」
花木知佳「ああ、お昼に届いたのよ。全く覚えがないから、怖くて開けてもないんだけど」
花木真奈央「ぽっ!」
花木知佳「ぽ? 真奈央さん、なんだか変よ。何か知っているの?」
花木真奈央「し、知りませんわ。こんな下品でマーベラスで、アベンジャーなもの!」
花木知佳「下品なものなの。知っているの?」
花木真奈央「とにかく、これは私が処分します!」
〇綺麗な一人部屋
花木真奈央「ふふ、ふふふ」
部屋に入ると同時に、真奈央は小包を勢いよく開いた。
小包みの中には一冊の月刊青年天国が入っていた。
花木真奈央「はあーん、新品の青天(略称)、雨でがびがびになってない青天!」
真奈央がページをめくると、新人賞受賞作として『ぴんきぃ作 性春フレンズ』が載っている。
花木真奈央「私の描いたエロ漫画が、新人賞。雑誌に載ってる・・・」
花木真奈央「青天に載ってる」
花木真奈央「ぽぽぽぽ、ぽっぽーーーー!」
花木知佳「な、なに、サイレン、怪鳥!?」
花木真奈央「な、なんでもありませんわ、お母様」
と、下の階から電話の鳴る音が聞こえてきた。
花木知佳「はい、花木でございます」
花木真奈央「落ち着け自分、ふぅー」
花木知佳「は、月刊青年天国? 小包は届いてましたけど、何かの間違いではないですか?」
花木真奈央「えっ!?」
花木知佳「いい加減にしてください。ぴんきぃなんて者はおりません。そんな漫画も描いてません!」
花木真奈央「や、やめて、いるぅぅ、描いてるぅぅ!」
花木知佳「もう二度と掛けてこないでください!」
花木真奈央「いやぁぁぁ!」
〇おしゃれなリビングダイニング
花木知佳「真奈央さん、もうすぐお夕飯できますからね」
花木真奈央「はい」
真奈央は知佳がキッチンの方へ行くのを確認してから、こそこそと電話を掛ける。
プルルルル・・・
花木真奈央「出て、お願い・・・」
鹿嶋の声「はい、まいどおおきに。月刊青年天国編集部です」
花木真奈央「は、あの、ぴ、ぴんきぃです!」
鹿嶋の声「え、ぴんきぃ先生。あれ、いま掛けた番号、同じ番号、あれ・・・?」
花木真奈央「すみません、ちょっと事情がありまして」
花木知佳「真奈央、電話してるの?」
花木真奈央「や、やばばばばい」
鹿嶋の声「えーと、ぴんきぃ先生・・・?」
花木真奈央「明日の16時に天我駅前のスターボックスカフェで!」
鹿嶋の声「は?」
花木真奈央「失礼します!」
〇雑誌編集部
鹿嶋紳助「くっくっく」
氷谷雪子「鹿嶋さん、笑い声が少々うるさいので、静かにしていただけますか」
鹿嶋紳助「これが笑わずにおれるかい。ぴんきぃと連絡ついたんや。 明日の16時、天我駅前のスタボや」
氷谷雪子「・・・たしかぴんきぃ氏のプロフィールは27歳、男性会社員だったと記憶しております」
氷谷雪子「それが、平日の16時に待ち合わせとは、妙ではありませんか」
鹿嶋紳助「てかな、たぶん女やった」
氷谷雪子「女?」
鹿嶋紳助「完全に女の声やったわ。もしくは、めっちゃ声の高いおっさんか」
鹿嶋紳助「いや、どっちでもええわ!」
氷谷雪子「プロフィールを詐称している可能性があるということでしょうか」
鹿嶋紳助「なんでもええねん。脂ぎったオッサンでも、ヒョウ柄タイツのおばはんでも」
鹿嶋紳助「スケベな漫画描けるんやったらな」
氷谷雪子「あまり会社のリスクになるようなことは避けていただきたく存じます」
鹿嶋紳助「鬼がでるか蛇がでるか、楽しくなってきたで」
〇テーブル席
鹿嶋紳助「・・・・・・」
ウェイトレス「あの、お客様、他のお客様のご迷惑となりますので。 そういった雑誌はお仕舞いいただけますか」
鹿嶋紳助「そういった雑誌ってなんや。エロ雑誌のことか」
鹿嶋紳助「この店は雑誌の種類で客を区別するんか。雑誌差別主義者の店なんか」
鹿嶋紳助「こっちは魂捧げてこの雑誌作っとんねん。本気のエロをここに込めとんねん」
鹿嶋紳助「それに、これ出しとかんかったら、ワイが青天の編集者ってわからへんやろ!」
花木真奈央「うっうっうっ・・・」
鹿嶋紳助「な、なんやお嬢ちゃん。なに泣いとんねん」
花木真奈央「嬉しいんです。あの青天を、こんなに熱い方が作ってるなんて」
鹿嶋紳助「いやいや、お嬢ちゃん高校生やろ」
鹿嶋紳助「しかもその制服。聖ラフェスル高校のやん。絶対読まへんやろ」
花木真奈央「読んでます! お世話になってます!」
鹿嶋紳助「そんなわけ・・・」
鹿嶋紳助「ん、お嬢ちゃん、その紙ナプキンの落書きはなんや?」
花木真奈央「これは、待ってる間の緊張を紛らすため、ずっと乳房の絵を描いてたんです」
鹿嶋紳助「こ、この乳の曲線、新人賞の乳と同じ」
鹿嶋紳助「ちょい待て。ちゅーことはお嬢ちゃんが・・・」
花木真奈央「申し遅れました。聖ラフェスル高校三年。ぴんきぃこと、花木真奈央です!」
鹿嶋紳助「ぴんきぃが、JK!?」