赤とんぼリリウム

九重杏也

7 アルバイト(脚本)

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〇駅前広場
  学校からさほど遠くない位置にある駅を通り抜け、

〇シックなカフェ
  更に歩いたところにある小さな喫茶店。
  名前を、『セレナ―ド』
  そこが私のバイト先だ。
いろみ「それではご確認いたします」
いろみ「季節のパスタをおひとつ、アイスティーをおひとつですね」
いろみ「少々お待ちください」
  レオの散歩中に偶然見つけたバイト募集の張り紙が目について、面接したら採用された。
  以来、それほど頻繁な貢献ではないけど、主にフロアで注文を取っている。
いろみ「店長、季節のパスタで」
店長「ういー」
  およそ私の生活圏は学校、セレナード、自宅を結んだ三角形の中に集約されている。
  徒歩で行ける距離なので知り合いに出くわすことも念頭に置いているのだが、今のところは一度もなかった。
  線路をまたぐと学区も変わるので地元の旧友にすら会ったことはない。
  良くも悪くもちっさくて目立たないからね、ここ。
いろみ「こちらアイスティーになります。ごゆっくりどうぞ」
  店内は落ち着いたピアノのBGMを流し、モダンな内装。
  まったりとした時間を堪能するにはもってこい。
  テーブルの席、カウンターの席がそれぞれ片手で数えられる程度しか存在していない。
  かつ、見慣れた常連が席を埋めている。
  正直店長ひとりでも回せるのではと思う。
いろみ「むしろよくバイトを雇う予算があるな」
  だがそこはものぐさ店長。
店長「だりぃから人手が欲しかったんだよ。 つーことでよろー」
  とのこと。
  きっと私以外にもバイトがいて、あの手この手で仕事を押し付けているのだろう。出会った試しが皆無なのだが。
???「すいませーん」
いろみ「はーいただいま参りまーす」
  私は考えずにテキパキ動く便利屋でいいのだ。バイトだしそんなものだ。
いろみ「ご注文承ります」
???「グラタンひとつ追加。以上で」
いろみ「かしこまりました。グラタンひとつですね。少々お待ちください」
  店長は料理と事務のために店の奥からほとんど顔を出さない。
  ずっとフロアにいる私は注文が無いとそれなりに時間を持て余してしまう。
  常に視線を彷徨わせているのも目障りになるので、こういう時は料理している店長を見るようにしている。

〇広い厨房
  狭いキッチンで店長はあれやこれやとせわしなく行動している。
  人には向き不向きがあるというのはこういう事なのかな。
  この時ばかりはいつもダルそうにしている店長がと驚かされる。
  すると突然目が合った。
  店長の表情は生き生きとしていた。
店長「ほらいろみ、季節のパスタだ」
いろみ「はいっ、次グラタンひとつはいってます」
  即座、あからさまに嫌な顔をされた。
店長「ああっ? 次はグラタンかよ」
店長「ったくしゃーねーなー」
  やっぱり店長はめんどくさがりだな、うん。
  きっと面倒見よさそう。
  私は受け取った出来立てのパスタをお客さんへと持っていくのだった。

〇シックなカフェ
いろみ「ありがとうございましたー」
  店内にいた最後のお客さんが去って、私はドアにかかった札が外からCLOSEと見えるようひっくり返した。
店長「うい今日もおつかれー」
いろみ「お疲れさまです」
店長「今日も助かったよ。いろみちゃん様様だね」
いろみ「大げさですって」
店長「いやいや、そんな事はない」
店長「おかげで楽・・・・・・忙しさが軽減されてるから」
店長「これから後片付けして、会計確認したり、明日の準備したり」
店長「うわ、改めて言葉にして確認するとめんどくさ」
店長「いろみちゃんやってってよ」
いろみ「許容範囲を超えてるんで無理ですね」
店長「そりゃそうだ。あーあー何もしたくない」
  ぐでーっとテーブルに突っ伏す店長を横目に、私は一応存在するスタッフルーム(かなり狭い)に入り制服に着替え、鞄を掴む。

〇シックなカフェ
  フロアに戻って来ると店長がスマホをいじりながら飲み物をあおっていた。
  さっきまでまとめていた髪を下ろして完全に脱力していて、っぷはーとか言ってる。
  何を飲んでいるのかは言及しないでいよう。
店長「時にいろみちゃん、今2年生だったっけ」
店長「どうよ学校は?」
いろみ「普通です」
店長「普通ねえ。何よりなんじゃない?」
いろみ「そうですか?」
店長「ツラくないならいいの」
店長「学生であることそのものが特別なんだもの」
店長「だから、特別な普通を楽しみなさいな」
いろみ「店長は学生時代がツラかったんですか?」
店長「んーどうだろ・・・・・・・・・・・・」
店長「色々あったけど、総合的には良かったかな」
店長「目立ったトピックもトレンドもない、普通の子どもだったね」
いろみ「普通ですか」
店長「そうさね。遊んで、勉強を瀬戸際でやりくりし、部活を楽しむようなね」
いろみ「勉強はギリギリじゃないのと、部活にも所属してないので、店長とはかなり感覚が違う気がします」
店長「青春が逃げてくぞ、このこのー」
  肘でつついてこようとしていたので一歩下がって間を取って避けた。
  この人、もう酔ってたりするの?
店長「それだけが青春てわけじゃないからね」
店長「他には色恋にうつつを抜かすとかどうよ」
店長「いないの? 好きな子」
いろみ「それはその・・・・・・よく分かりません」
  間違ってはいないと思う。
  付き合ってる女の子ならいるけど、そんなの到底説明できない説明したくない。
店長「ふ~ん。そなの。へえ~」
  やけにニマニマして私の顔を見る店長。
  なんだか非常に居心地の悪さが増した。
いろみ「私帰ります!」
店長「あいー。次は土曜だったっけ。悪いねよろしく」
いろみ「はいお疲れさまです」
店長「おつかれ~」

〇駅前広場
  挨拶もほどほどに店を出る。
  外は陽が落ちて暗いが、空調が効いていた店内より暑かった。
いろみ「はぁー・・・・・・コンビニ寄って帰ろ」
  即座に寄り道を決意し、私は歩き出した。

次のエピソード:8 再び

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