エピソード3(脚本)
〇荒廃した国会議事堂の広間
音楽堂には既に「誰か」がいた
この状態で入室しようとする者には
死の罠が襲いかかる
天上美月「逃げられない! 絶体絶命!!」
天上美月「もう気絶しそう・・」
天上美月「それだ!!」
美月は仰向けに倒れた
菊梁善意「え、え!?」
天上美月「中に誰か、いる だから罠が発動したのよ」
美月が告げると同時に中から
若い娘が現れた
堀川早苗「どうかなさいましたか?」
堀川早苗「ご病気か何かでお倒れに?」
美月は土を払って立ち上がった
堀川早苗「良かった 大丈夫なんですね」
天上美月「あなた、この家の?」
堀川早苗「家政婦見習いの堀川早苗と言います」
田滝上敬司「ここで何を?」
天上美月「こちら、刑事の田滝上さんと菊梁さん 私は探偵の天上美月」
堀川早苗「あ、若旦那様の事件の?」
田滝上敬司「現場検証は終わっているが」
田滝上敬司「むやみに立ち入らないよう お願いさせていただいているはずだが」
堀川早苗「すいません」
堀川早苗「真知子奥様から、持国様の忘れものを 探すように頼まれまして」
田滝上敬司「持国さん? ご次男の?」
天上美月「真知子さんて、持国さんの奥さん?」
堀川早苗「はい」
堀川早苗「持国様がペーパーナイフを お忘れになったらしくて」
天上美月「見つかったの?」
堀川早苗「いえ、ありませんでした」
田滝上敬司「だろうな」
田滝上敬司「刃物類があれば 証拠品として押収してるはずだ」
田滝上敬司「押収品の中にあれば あとで知らせる」
堀川早苗「ありがとうございます」
天上美月(嘘はついてない、この娘。 でも・・)
天上美月(問題は「何故このタイミング」で)
天上美月(音楽堂に入ったのか?)
天上美月「罠の発動を仕組んだ誰か、がいる!」
美月はひとり音楽堂に入った
そこは二十名足らずの観客席と
ステージからなる
小ぢんまりとしたコンサートホールだった
ステージ下手《しもて》側に
グランドピアノがあった
ホールの端に折り畳み椅子が重ねられて
客席スペースは空けられていた
田滝上敬司「ということで 詳細は外から電話で説明させてもらう」
田滝上敬司「多聞はピアノの前の椅子にかけた状態で 絶命していた」
天上美月「ピアノに突っ伏していたとか?」
菊梁善意「背中から日本刀で心臓を一突き。 即死でした」
田滝上敬司「妙なのは、座っていた椅子の座面まで 刀が貫通していたことだ」
天上美月「え!? 刺されてから倒れたんじゃないの?」
菊梁善意「そうなんです。突っ伏したあとで 上から突き通されたようなんです」
天上美月「じゃ、殺される前に気を失っていた?」
田滝上敬司「と考えるのが妥当だろうな」
見上げるとドーム型の天井が見えた
天上美月(高さ7~8メートルぐらい?)
周囲からドームをライトアップする方式で
天井部分に照明器具はなかった
天上美月(ひとが乗れそうな梁《はり》もない)
菊梁善意「犯人はきっと眠ってる多聞氏の横に立って」
菊梁善意「真上から刀で突き刺したんでしょうね」
田滝上敬司「だとしても どうやって入ったのか、わからん!」
天上美月「凶器は?」
菊梁善意「戦国時代から伝来する刀で 邸内の蔵に仕舞われていたそうです」
田滝上敬司「無銘だが、かなりの名刀らしい。 県の美術館が譲って欲しいと言ってたとか」
天上美月「蔵には鍵が?」
菊梁善意「鷹王氏と執事が 鍵を管理していたそうですが」
菊梁善意「誰かがこっそり拝借することは 可能だったようです」
田滝上敬司(まあ、無理もないが・・)
天上美月(って何? 田滝上は何を知ってる?)
天上美月(でも、この件は後回し)
天上美月「ところで 広目さんは墜落死だったとか?」
田滝上敬司「ああ。密室での墜落死。 多聞の場合より、頭の痛い死に方だ」
菊梁善意「解剖所見によれば 死亡推定時刻は午前0時~4時の間」
菊梁善意「多聞氏とほぼ同時刻です」
天上美月「客席スペースの真ん中あたりに 落ちたのよね?」
人型の白いアウトラインが
そのあたりに描かれていた
真上にはちょうどドームの中心があった
天上美月「天井が無ければ 空から落ちてきて墜落死できそうね」
田滝上敬司「だが天井はある。 しかも、生きては入れない」
天上美月「死んでから運び込まれた可能性もあるわ」
菊梁善意「墜落によるもの以外に外傷は 無いとのことでした」
菊梁善意「だいたい40メートルぐらいの高さから 落ちた感じだそうです」
田滝上敬司「てことで、あんた 真相はわかりそうかい?」
天上美月「さっぱり! 見当もつかない」
天上美月「いまのところは」
積まれた椅子の下に
どんぐりが転がっていた
美月は拾ったどんぐりを
ポケットに仕舞った
〇風流な庭園
音楽堂から出ると
田滝上の姿はなかった
天上美月「あれ? 田滝上さんは?」
菊梁善意「皆さんが戻られたそうなので 一足先に事情聴取の準備に」
副島隆一「おい、お前ら!」
副島隆一「勝手にお屋敷に上がり込んで 何やってんだ?」
副島隆一(どっかから迷い込んだバカップルだな)
副島隆一(いつもの小遣い稼ぎだ 脅して巻き上げてやろう)
天上美月(なんなの? この薄っぺらい男は)
副島隆一(でも、いい女だな、かなり♪)
天上美月(薄っぺらいけど・・正直者ね!)
菊梁善意「あ、あの我々は決して 怪しい者ではなくて、ですね」
副島隆一「ここがどこのお屋敷だか わかってんのか!?」
天上美月「ここは殺人事件が起きたばかりの 高天神鷹王氏のお屋敷!」
天上美月「こちらは県警捜査一課の菊梁刑事!」
天上美月「私は探偵の天上美月! そういうあなたこそ誰?」
副島隆一「え? あ、いや、その・・う、う」
副島隆一(運転手の副島です。決して怪しい者では)
天上美月「もしかして運転手さん?」
副島隆一(え? なんでわかった)
天上美月(ああ、じれったい! 心が読めるから、って言っちゃいたい)
天上美月「あなたこそ こんな犯行現場の近くで何を?」
副島隆一「いや、その お嬢さんを駅までお迎えに行こうと」
菊梁善意「駅まで歩いて数分じゃないか! 車なんて必要ないだろ?」
天上美月(相変わらず現金なやつだな、菊梁! さっきまでビビってたクセに)
副島隆一「土砂崩れで車は使えないから留守番で 駅までは歩きでお迎えに」
副島隆一「てゆうか俺は怪しくなんかないッス!」
副島隆一「犯人はあいつだよ、きっと!」
副島隆一「あの連続殺人鬼に決まってる!」
天上美月「連続殺人鬼!? 誰のこと? いるの、ここに?」
~ 次回へ ~