こだま

九龍

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〇森の中の沼
  ある年のほんの数日の間だけだったのに
  声も、透き通った瞳も、匂いすらも鮮明に思い出せる
  どの友人も今となっては遥か遠く感じるのに
  その子は一番遠いはずが、今でも傍に感じられるよう

〇黒背景
  昭和62年 8月

〇平屋の一戸建て
原木 あさぎ「荷物全部2階運んだよ!」
原木 あさぎ「後は~?」
母親「車から出す分はもうあれで全部よ」
母親「ごくろうさま!」
原木 あさぎ「お父さんはいつ来るって?」
母親「どうなるかな~? 分からないって」
母親「納品のトラブルで、少なくともお盆ちょっとすぎくらいまでは無理だって話だから」
祖母「さあ、もうこっちはいいでしょ? 後は私がお手伝い代わるよ~」
母親「すみませんお義母さま」
祖母「いえいえ」
祖母「ほら、もう神社のお祭りが始まってるだろうから行ってらっしゃいよ」
祖母「桐谷さんのとこの坊ちゃんも、今日あさぎちゃん来るって聞いて凄いはしゃいでたんだから」
原木 あさぎ「え~ホントぉ?」
相坂 渓「あさちゃ~ん!」
祖母「おや、おでましだねぇ」
相坂 渓「もういっぱい屋台並んでるよ~」
桐谷 亮介「行こうよ!」
原木 あさぎ「うん!!」
母親「あ~ ちょ、ちょっと待って日焼け止めに虫よけ!」
原木 あさぎ「い~よそんなの!」
母親「ダメェ!! 去年もそれでお風呂でヒィヒィになってたじゃないの!」
原木 あさぎ「は~い分かりましたぁ」
原木 あさぎ「ごめ~ん、すぐ追っかけるから先に行ってて」
相坂 渓「あははっ 早くね~~!」

〇神社の出店
原木 あさぎ「じゃーんけん」
桐谷 亮介「ポン!」
相坂 渓「あさちゃん鬼ね~!」
原木 あさぎ「はい い~ち!に~い!さ~ん!!」
真中 秀幸「だ~!! 早いって!!」
相坂 渓「きゃは~!!」
桐谷 亮介「屋台にかくれるのナシね~!!」

〇神社の石段
原木 あさぎ「亮介み~~けっ!!」
桐谷 亮介「あ~あ」
原木 あさぎ「あとはヒデ君だけね」
相坂 渓「うちらも探すよ!」
桐谷 亮介「じゃ、おれあっち見てくるわ!」
原木 あさぎ「うん!おねが~い♪」
原木 あさぎ「まったく~~・・・」
原木 あさぎ「どこ行ったのアイツ・・・・・・」
原木 あさぎ「ん!?」
原木 あさぎ「向こうの林で足音が・・・」
原木 あさぎ「ずるいな~そっちまで行ったら分かんないじゃん」
原木 あさぎ「でもそうはいかないもんね~~」

〇林道
原木 あさぎ「おっかしいな~確かにこっち行ったと思ったんだけどなあ」
原木 あさぎ「あっ・・・!」
原木 あさぎ「あっちで足音! よ~し」
原木 あさぎ「逃げ回るなんてせこい真似しても無駄なんだから!」

〇森の中の沼
原木 あさぎ「あれ!?」
原木 あさぎ「おっかしいなあ~・・・ こんな所に沼あったっけ?」
原木 あさぎ「毎年みんなで散策してて大分見て回ったと思うんだけどなあ・・・・・・」
原木 あさぎ「!・・・ あ・・・・・・」
めぎ「・・・・・・・・・」
原木 あさぎ(気付かなかった・・・・・・)
原木 あさぎ(でも見たことない子だな・・・・・・ どこの家の子だろう?)
原木 あさぎ(それにあんなカッコ・・・・・・ 神社の余興にでも出るのかな?)
原木 あさぎ「あ、あの~・・・ ねえちょっと」
めぎ「・・・・・・!」
原木 あさぎ「ああ、ご ごめん! おどかしちゃった?」
原木 あさぎ「あのさ、男の子来なかった?」
めぎ「・・・・・・・・・」
めぎ「う・・・・・・・・・ う~・・・」
原木 あさぎ「み・・・見て・・・・・・ないかな?」
めぎ「・・・・・・・・・」
原木 あさぎ「な・・・・・・何・・・?」
めぎ「う・・・・・・・・・~・・・・・・」
原木 あさぎ「や・・・・・・そんな見られても・・・」
めぎ「・・・・・・ う・・・」
原木 あさぎ「あ、あはは・・・ 来て・・・・・・ないみたいだね」
めぎ「う・・・」
原木 あさぎ「あっ・・・・・・そう そんじゃ・・・・・・お邪魔しましたぁ」
原木 あさぎ(な~んなのあれ! 変な子!・・・・・・)
「マ・・・ッテ」
原木 あさぎ「は!?」
めぎ「・・・」
原木 あさぎ「あっ・・・へへへ ちょっとお友達待ってるから」
めぎ「・・・!」
原木 あさぎ「さいなら~~~!」
原木 あさぎ(な~んだよ! しゃべれるじゃん!!)

〇神社の出店
原木 あさぎ「まったくも~・・・」
相坂 渓「あ~!いたいた!! あさちゃーん!!!!」
原木 あさぎ「渓ちゃん・・・」
桐谷 亮介「一体どこまで探しに行ってたんだよ・・・?」
原木 あさぎ「あ・・・あは ちょっと神社裏の山道周りまで・・・ね」
相坂 渓「ヒデ君ったら結局ズルして屋台に隠れてたんだよ もう~~!」
原木 あさぎ「へ!?」
原木 あさぎ(あの時林を走ってったのって・・・)
桐谷 亮介「でもいくら何でも探しすぎだよ 3時間以上も探さなくていいじゃんか」
桐谷 亮介「大人の人にも手伝ってもらって そろそろ駐在さんに応援頼んでもらおうかって事になりかけてたんだから」
原木 あさぎ「えぇえ!?」
真中 秀幸「わりい~・・・ まさかこんな事になるなんて思わなくて」
原木 あさぎ「うそだ~! ほんの10分くらいだと思うけど」
桐谷 亮介「何言ってんだよ もうこんなに暗くなってるのにさ」
原木 あさぎ「あ・・・そういえば・・・・・・」
村長「おう! あさぎちゃんいたのか!!」
村長「お~~い!! 原木さ~~~~ん!!!!」
村長「見つかりました~~~~!!」
母親「どこまで行ってたの!!?」
母親「お父さんも至急こっち来てもらおうかって話になってたんだから!!」
原木 あさぎ「あぁ・・・うう」
原木 あさぎ「ごめん・・・・・・なさい」
村長「ま、まあまあ 原木さん とにかく無事だったんですから」
母親「とんでもございません! 本当に皆様にご迷惑おかけいたしまして」
村長「いやな~にぃ~!!」
母親「ほらあんたも!」
原木 あさぎ「すみませんでしたぁ~~~・・・」

〇村の眺望
原木 あさぎ「まったくぅ~~ 昨日はほんと災難だよ~」
真中 秀幸「だからごめんて!」
桐谷 亮介「でも実際さ、 いくら山道探し回っても、あんな時間かかる?」
桐谷 亮介「あの山一番高い所まで登っても20分かからずに着いちゃうのにさ」
原木 あさぎ「こっちが聞きたいよ ただ沼のトコまで行って、すぐに走って戻ってきたよ?」
真中 秀幸「え・・・? 何言ってんの?沼?」
原木 あさぎ「ほら、山道左にそれて20メートルくらいの場所にある沼だよ」
桐谷 亮介「何かの見間違いじゃないの?」
真中 秀幸「あの山水場なんて無いぞ? カラッカラだよ・・・?」
原木 あさぎ「え~だって普通にあったもん なんか変な男の子も来て遊んでたよ」
桐谷 亮介「男の子って? どんな・・・?」
原木 あさぎ「う~ん、あたし初めて会ったから何とも言えないけど」
原木 あさぎ「取り敢えず渓ちゃんとおんなじ年くらいの男の子だったな~」
相坂 渓「そのくらいの子だったら、この村であさちゃんが会った事のない子いないと思うけど」
原木 あさぎ「・・・・・・」
原木 あさぎ「じゃっじゃあ、あたしと同じようにお盆の帰省で来てる子なのかなあ~~~」
相坂 渓「今年はまだ、あさちゃんしか来てないよ?」
原木 あさぎ「・・・」
桐谷 亮介「・・・・・・」
相坂 渓「・・・」
真中 秀幸「・・・・・・」
真中 秀幸「・・・なあ、行ってみっか?」

〇森の中
桐谷 亮介「ねぇ・・・どこだって?」
原木 あさぎ「・・・・・・」
原木 あさぎ「ウソ・・・」
桐谷 亮介「・・・」
相坂 渓「・・・」
真中 秀幸「・・・・・・」
真中 秀幸「・・・わ゛っ!!!!」
相坂 渓「きゃーー!!」
桐谷 亮介「ひゃっ!」
原木 あさぎ「うひぃ〜〜〜!」
真中 秀幸「へっへへ〜」
桐谷 亮介「ヒデ〜〜〜ッ!!」
原木 あさぎ「こんにゃろお〜〜! 待て〜〜〜〜!!!」

〇神社の石段
桐谷 亮介「あれえ? 今日もあさぎ遅れてんの?」
真中 秀幸「ラジオ体操には1番にいたのにさぁ」
相坂 渓「なんかその後で神社の方行ってるみたいだよ」
桐谷 亮介「やっぱり、こないだ言ってた沼まだ探してるって事?」
真中 秀幸「まだ諦めてねえの?」
真中 秀幸「てかその調子じゃあ、その沼の何かに憑かれちまってたりすんのか?」
相坂 渓「止めてよ! 怖いこと言わないで!」
桐谷 亮介「・・・」
桐谷 亮介(でも、もしかして・・・本当に)

〇森の中
原木 あさぎ「・・・・・・」
原木 あさぎ(・・・いるの?)

〇古い畳部屋
原木 あさぎ「・・・・・・」
母親「あさぎ!」
原木 あさぎ「え・・・?」
原木 あさぎ「なあに? 宿題もう全部済ませたよ」
母親「そうじゃなくて!」
母親「いっつもお友達も見てない所で何してるの!?」
母親「お祭りの日の事まだ気にしてるの?」
母親「夢でも見てたに決まってるでしょ!?」
原木 あさぎ「・・・」
母親「あんたがあんまり変な様子だから、おばあちゃんもお祓いでも頼もうかって悩んでるんだから!」
原木 あさぎ「・・・・・・・・・」
母親「もしずっとそんなだったら、本当にやってもらう様にお願いするかもしれないわ」
原木 あさぎ「う・・・」
母親「そのつもりでいてちょうだい」
原木 あさぎ「・・・・・・」
原木 あさぎ(でも・・・絶対に・・・・・・)

〇神社の石段
原木 あさぎ「この時間なら・・・起きてる人まだ少なくて人も滅多に通らない」

〇古びた神社
原木 あさぎ「・・・・・・」

〇林道
原木 あさぎ(もう、そろそろ居てもいいんじゃない?)
原木 あさぎ「・・・・・・」
原木 あさぎ「!」

〇森の中の沼
原木 あさぎ(出・・・・・・出た! あったあ・・・・・・・・・!・・・)
原木 あさぎ「ん!?」
めぎ「・・・・・・」
原木 あさぎ「・・・」
原木 あさぎ「やっと会えた・・・」
めぎ「・・・・・・」
原木 あさぎ「・・・」
原木 あさぎ「あんた・・・」
原木 あさぎ「ふっざけんじゃないわよ!!!」
めぎ「!」
原木 あさぎ「何してくれたのよ一体!?」
原木 あさぎ「なんであんたのトコで10分くらい屯しただけであんだけ時間取られんのよ!?」
原木 あさぎ「おかげでみんなに探されて、お巡りさんも出て来てたんだから!!!」
原木 あさぎ「お母さんにもおばあちゃんにも大目玉食らっちゃったわよ!!」
めぎ「・・・・・・う・・・」

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コメント

  • 幼い頃は、多くの人が不思議な場所に居たり、不思議な存在と出会ったりすると聞きます。それを大人の言う通りに気のせいと切り捨てずに、自ら追い求めることで、このような幻想的で綺麗な物語になるのでしょうね。

  • 幼い頃の不思議な体験って、誰しもあるんじゃないかなあと思います。わたしも1度だけ一人で見た大きな木のある神社がいまだに忘れられず、でも地元なのにいまだにどこにあるのかわかりません。子どもって、なにか不思議な力を持っている気がします。

  • 田舎の雰囲気と、独特の不思議な感じが良く合ってると思います。
    結局めぎさんは、あの場所からは出られなかったんですね。
    思い出にしては印象深いものになったのではないでしょうか。

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