週末カウンセラー はっちゃん

笑門亭来福

第五話(逃げ恥)(脚本)

週末カウンセラー はっちゃん

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〇歌舞伎町
  お前は今、どうなってる?
頑じぃ「走っている」
頑じぃ「逃げている」
頑じぃ「昂っている、久しぶりに」
頑じぃ「あれだ、あれがいけなかった」
  スキ・・・
  スキ・・・スキ・・・
  スキ・・・スキ・・・スキ・・・
頑じぃ「あぁ、そうだ、スキだ」
頑じぃ「スキだ、スキだ、スキだぁぁぁぁぁぁ」
頑じぃ「もっと早く・・・走れ、覚ませ、忘れるんだ」
頑じぃ「ハグだって!? 止まらんぞ!」
頑じぃ「・・・ハグなんかお返ししてみろ!」
頑じぃ「お前を壊してしまう!」
頑じぃ「あぁ、最近、心が揺れることは、なかった」
頑じぃ「油断していたんだ」
  何故逃げる?
頑じぃ「真っ白だ」
頑じぃ「昂るとダメだ」
頑じぃ「自分がわからなくなる」
頑じぃ「怖い・・・」
頑じぃ「得体の知れないものから逃げている」
頑じぃ「そう、自分が自分をカゴの中に入れている」
頑じぃ「それでいい」
頑じぃ「他ならぬ、自分だ」
頑じぃ「解放して、なくなりました」
頑じぃ「という訳にはいかない」
  どこに逃げる?
頑じぃ「とりあえず、この川を遡るか」
頑じぃ「すっかり暮れてしまった」
頑じぃ「あと何回、星を見上げることがあるだろう?」
頑じぃ「オリオン座の三連星」
頑じぃ「640年前に爆発していたら」
頑じぃ「今日今夜、俺の目の前で砕け散る」
頑じぃ「640年でさえ、逃げ切れないんだ!」
頑じぃ「自分からだって逃げられないさ」
頑じぃ「夜が明ける」
頑じぃ「確かに宇宙の営みは、すごいが」
頑じぃ「俺にとっちゃあ、スキも大問題だ」
頑じぃ「なんとかしろ、俺」
頑じぃ「乗り越えてみせろ、俺!」

〇エレベーターの中
子供は風の子「こんにちは、風の子です」
子供は風の子「誰でも、どんな人でも、自分からは逃げられない」
子供は風の子「もがき、苦しむ、頑じぃ」
子供は風の子「次第に追い詰められる頑じぃ」
子供は風の子「川を遡るうちに」
子供は風の子「帰巣本能から、生まれ故郷に向かいます」
子供は風の子「作麼生(そもさん)、説破(せっぱ)!」
子供は風の子「・・・ からの突破!」

〇屋敷の門
  不思議だ
  気づいたら、ここに向かっていた
  相変わらず行き届いている
  和尚さんは、ご健在だろうか
  あの頃、行くところもなく
  ここで、よく座禅した
  いやで、いやで、いやで
  自分が、周りが、何もかもが
  そんな、ささくれだった心が
  座って、呼吸をしている自分を
  丁寧に観察すると、不思議と落ち着いた
頑じぃ「俺は、ここで育った、育ててもらったんだ」
頑じぃ「あぁ、懐かしい」
頑じぃ「お邪魔します」
  正門をくぐろうとした
頑じぃ「ん?」
  門を掃き清めている小さな人影
結ちゃん「作麼生(そもさん)!」
頑じぃ「おっと、せ、説破(せっぱ)・・・」
結ちゃん「ここにくるのは、初めて?」
頑じぃ「否(いな)」
結ちゃん「どうぞ、お入りください」
頑じぃ「然(しかり)だったら、どうなってたの?」
結ちゃん「どうぞ、お入りください・・・」
頑じぃ「おんなじだ」
頑じぃ「じゃあ、なんで聞いたの?」
結ちゃん「何でだと思う?」
頑じぃ「なんでかなぁ?」
結ちゃん「眉間に、皺があったからね」
頑じぃ「はは、気づかなかったな」
結ちゃん「こちらへどうぞ」
頑じぃ「ん? ここは・・・」
結ちゃん「和尚さんがね、怖い顔をした人には」
結ちゃん「まず、あいさつをして、相手の声を聞き」
結ちゃん「次に、鐘を撞かせなさいって」
頑じぃ「そうか、人にも行き届いてるんだね」
結ちゃん「おひとつ、どうぞ」
頑じぃ「ははは、おひとつどうぞは、よかったな」
頑じぃ「ありがとう、それでは」
頑じぃ「ちょっと洋風だね」
頑じぃ「楽しくって三つも、いただきました」
結ちゃん「細かいことは気にしないの」
結ちゃん「ほら、眉間の皺がなくなったでしょ」
頑じぃ「ほんとだ・・・皺にきくんだね」
頑じぃ「ありがとう」

〇銀閣寺
和尚さん「なんと、珍しい」
和尚さん「生きとったんか」
頑じぃ「お久しぶりです」
和尚さん「650年ぶりかのぉ」
頑じぃ「・・・」
和尚さん「テレビか?」
頑じぃ「・・・」
和尚さん「テレビなんじゃろ?」
頑じぃ「・・・」
和尚さん「いいから、いいから」
頑じぃ「あぁ、これ、テレビ衣装じゃないですよ」
和尚さん「違うんか」
頑じぃ「はい」
和尚さん「・・・」
頑じぃ「突然にすみません・・・しかも、テレビじゃなくて」
和尚さん「いや・・・いいんじゃ」
頑じぃ「自然と足がここに向いて・・・」
頑じぃ「気づいたら、門の前に、来ていました」
和尚さん「そうか、そうか、まぁ何はともあれ」
和尚さん「駆けつけ一禅じゃ!」
頑じぃ「有難うございます、お邪魔します」
  ・・・と、頑じぃは、和尚さんに連れられ、座禅堂へ

〇屋敷の牢屋
  頑じぃは、座禅を組み、背筋を伸ばし
  呼吸を整え、瞑想に入る
  徐々に・・・徐々に・・・
  深く・・・深く・・・
  ・・・ん?
  何だろう?
  遠くから、だんだんと
  何かが近づいてくる気配
  まるで、♪ ボレロ ♫ のように
  ヒタヒタと、着実に大きく・・・

〇動物
  ・・・の・・・ポー・・・
  ズ・・・ネコイ?・・・
  ヌ・ノ・・・ポー・・・ズ
  あぁ、みんな!
  警策を持ってヨガをしている・・・何?
ネコ「背を丸めた後、伸びをするネコの・・・」
はっちゃん「ポーズ!・・・ウニャニャ・・・からの 「喝!」」
イヌ「しょぼくれて、下を向いたイヌの・・・」
はっちゃん「ポーズ!・・・あオヌゥゥゥん・・・からの「喝!」」
トリ「モヒカン怒髪が天に引っ張られる鳥の・・・」
はっちゃん「ポーズ!・・・クォっかゲオ・・・からの 「喝」」
頑じぃ「あぁぁぁ・・・伸びをするネコのポーズ!」
頑じぃ「怒りのモヒカンニワトリのポーズ!」
和尚さん「どうした? 岩ちゃん」
「クマ・・・らいおん・・・ふらみんご」
頑じぃ「あぁぁぁぁぁぁ、はっちゃん!」
  さまざまな生き物のポーズで、警策を振り下ろしてくる
  動物? いや、はっちゃん?
  はっちゃん、また、はっちゃん・・・
  そして、はっちゃん
和尚さん「こりゃっ! しっかりせんか!」
頑じぃ「あぁ、もう一度!」
頑じぃ「はっちゃん! もう一度!」
「もう一度っ!」
和尚さん「喝!!」
  頑じぃは、気を失います
和尚さん「結ちゃん、水、持ってきてくれ」
結ちゃん「水を取りに行くか迷う、ネコのポーズ!!」
和尚さん「結ちゃん、早いとこ頼む」
結ちゃん「はーい」
結ちゃん「命令一目散のイヌのポーズ!」
和尚さん「どうなっとるんだ・・・と、悩むゴリラの ポーズ!」

〇広い和室
和尚さん「落ち着いたか?」
  頑じぃは、うっすらと意識を取り戻す
頑じぃ「はっちゃん・・・もう一度」
和尚さん「・・・」
頑じぃ「あの日も・・・そうでした」
和尚さん「・・・ん?」
頑じぃ「はっちゃんとは、講師と聴講生の間柄」
頑じぃ「会いたい、声が聞きたい、そんな感情の爆発」
頑じぃ「煩悩の魔王が静まらないので」
頑じぃ「戒めてくれるようにと、警策を渡しました」
頑じぃ「はっちゃんが、警策を振り下ろす度に」
頑じぃ「もう一度!」
頑じぃ「何度も頼み、やがて、服は破れ皮も裂け」
頑じぃ「肩や背中は血だらけとなり」
頑じぃ「流血がとまらず、意識を無くしました」
和尚さん「・・・」
頑じぃ「気づくと、目の前に、はっちゃん」
頑じぃ「必死になって、血を止めようとして」
頑じぃ「最後には、舐め取ろうとしたのでしょう」
頑じぃ「口の周りが真っ赤になってて、その」
頑じぃ「ルージュの放射線を、口で拭いてやりました」
頑じぃ「後は、相撲のぶつかり稽古のような・・・」
頑じぃ「脳髄が吸われたように、真っ白になり」
頑じぃ「警策の幻聴が、響いていました」
頑じぃ「あの日から、座禅を組んでも、瞑想しても」
頑じぃ「全身の血液が、はっちゃんになりました」
頑じぃ「私は、得体の知れない、暴走特急となり」
頑じぃ「そんな自分が怖くなり、逃げ出しました」
頑じぃ「長年続けた修行が、一瞬で吹き飛ぶ」
頑じぃ「煩悩とは、欲望とは、何でしょう」
頑じぃ「その正体を見極めようと、抑制が効かなくなる」
頑じぃ「はっちゃんを避け、他の人で実験のようなことをしましたが」
頑じぃ「だめでした」
頑じぃ「さざなみは起きても、すぐに去り、簡単に調整できます」
頑じぃ「自分が分からず、自分を持て余し」
頑じぃ「苦しくて、助けを求め、がむしゃらに走り」
頑じぃ「気づいたら、ここに来ていました」
和尚さん「そうか・・・しんどかったなぁ」
結ちゃん「はい、おひとつ、どうぞ」
和尚さん「おぉ、ちょうど良かった、水じゃ」
結ちゃん「水を運ぶコウノトリのポーズ」
和尚さん「待ちわびた雨に喜ぶカエルのポーズ」
頑じぃ「樹液に満たされたセミのポーズ」
「座布団一枚! 破顔一笑!」

〇エレベーターの中
子供は風の子「こんにちは、風の子です」
子供は風の子「ちょっと和んできた、お寺組のメンバー」
子供は風の子「頑じぃは少し気が楽になったかな?」
子供は風の子「さーて、来週のはっちゃんは・・・」
子供は風の子「『 ちょっと待って、お寺組 』」
子供は風の子「『 よっ!待ってました美井(びい)さん 』」
子供は風の子「『 オンラインの姫、はっちゃん 』」
子供は風の子「の3本です」
子供は風の子「見てねー、きっとだよー」

次のエピソード:第六話(接点)

コメント

  • 重い甲羅を脱ぎ捨て、全速力でうさぎを追い越す亀のポーズ!

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