孤独が仰ぐ、空は青

NekoiRina

【第4話】女教皇・アベンチュリ(3)(脚本)

孤独が仰ぐ、空は青

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〇明るいリビング
アベンチュリ「ハーキマーを助ける方法。 それは・・・」
アベンチュリ「トオルさんの中に宿るハーキマーの魔力を育てること、です」
トオル「僕の中に宿る魔力? 僕に魔力なんて無いぞ」
アベンチュリ「桜の花を咲かせる手伝いをしたでしょう?」
トオル「したけど・・・ 石を探して埋めただけだ」
アベンチュリ「ハーキマーの魔力を宿した石に、 トオルさんが触れる」
アベンチュリ「そうすることでハーキマーは、 自身の魔力を」
アベンチュリ「桜とトオルさん。その両方に分け与えていたんだそうです」
トオル「そうだったのか。でも・・・ どうしてそんなことを?」
アベンチュリ「魔力が無い体に記憶を戻すのは 危険だからです」
アベンチュリ「ですが・・・ ハーキマーはもしかして」
アベンチュリ「自身が封印されることを 見越していたのかも・・・」
トオル「そっか・・・」
アベンチュリ「ハーキマーの封印を打ち解けるぐらい、トオルさんの魔力を育てましょう!」
アベンチュリ「今はそれしか方法がありません」
トオル「そうだな。しかし・・・ 魔力を育てるってどうやって?」
アベンチュリ「とにかく、使ってみるしか!」
トオル「なんでそんなに嬉しそうなんだよ」
  その時、玄関のチャイムが鳴った。

〇明るいリビング
天音鈴子「あら?誰かしら」
トオル「宅急便かな?僕、出てみるよ」

〇シックな玄関
  玄関チャイムのモニターには、
  見知らぬ女性が映っていた。
  僕は、インターホン越しに問いかけた。
トオル「どちら様ですか?」
「ここに未来を教えてくれる占い師がいるって聞いて来たの。開けて下さる?」
トオル「は?占い師?」
アベンチュリ「良いタイミングで依頼者が来ましたね」
トオル「依頼者?」
アベンチュリ「私のお客様です。が・・・ 私は犬なので対応出来ません」
アベンチュリ「トオルさん、出て頂けますか?」
トオル「え・・・でも・・・」
アベンチュリ「魔力を育てるチャンスです」
  アベンチュリに促され、僕は
  わけもわからぬままにドアを開けた。
女性「お邪魔するわよ」
トオル「あ!ちょっと!」
  女性はドアを開けるとすぐに、
  ズカズカと家の中に上がり込んだ。

〇明るいリビング
  遠慮なく見下すように、
  ジロジロと家の中を見回している。
女性「占い師の家・・・ というわりには、普通の家ね」
トオル「・・・」
女性「貴方が噂の占い師なの?」
天音鈴子「え?いえ、私は・・・」
女性「ふんっ。なんだかパッとしない女ね」
トオル「おい、あんた!いい加減に・・・」
  無遠慮な女性への怒りが
  ピークに達した、その時。
  未来を視るのは私です
  どこからか、
  アベンチュリが声を発した。
  部屋の中を見渡してみると
  テレビ卓に並べたぬいぐるみの横で、
  自身もぬいぐるみのフリをしていた。
トオル(ちょっと無理があるぞ・・・ バレなきゃいいけど・・・)

〇明るいリビング
女性「何?どこでしゃべっているの?」
「姿はお見せ出来ませんので、 声だけで失礼致します」
「どうぞ、そちらのソファへ」
  アベンチュリが促すと女性は、
  戸惑いながらもソファへ腰掛けた。
天音鈴子「どうぞ」
  女性は鈴子が出した紅茶に
  見向きもせずしゃべりだした。

〇黒
女性「私ね、子どもがいるの。 今年、小学5年生になる男の子」
女性「とっても優秀でねぇ。 学校でもトップの成績なのよ?」
女性「私はね、あの子を医者にするの」
女性「私の子ですもの。なるに違いないわ」
女性「でもね・・・」
女性「もし、あの子の夢を邪魔するような何かがあれば、私が排除しないといけない」
女性「親ですもの」
女性「あの子の為なら、何でもするわ」
女性「だから、私はあの子の未来が知りたいの」
女性「未来を知っていれば、 どんなことにも対処出来るでしょう?」
  女性は、まくしたてるよう
  一気にしゃべった。

〇明るいリビング
アベンチュリ「・・・」
アベンチュリ「お子様も・・・ 医者になりたいと言っているのですか?」
女性「当然よ。うちはね、代々医者の家系なの」
女性「旦那。お父様。お祖父様」
女性「あの家に生まれたからには、医者になるという選択肢以外、許されない」
女性(万が一、失敗なんてしたら・・・)
女性(お義母様にまた嫌味を言われる!)
女性「さあ、いいから早く未来を見せなさい!」
女性「お金なら、 いくらでも払って差し上げるわよ?」
アベンチュリ「・・・」
アベンチュリ「お金は必要ありませんが」
アベンチュリ「頂くものが、ひとつだけあります」
女性「お金は要らない?タダなの? 頂くものって何よ」
アベンチュリ「それは・・・」
アベンチュリ「「誰かとの思い出」です」
女性「・・・は?」
アベンチュリ「未来をひとつ知る代わりに」
アベンチュリ「貴方は誰かのことを忘れる」
女性「誰かのことを・・・忘れる・・・」
アベンチュリ「その「誰か」は選べません」
アベンチュリ「友人、初恋の人、お世話になった先生。あるいはお子さんのことかもしれない」
女性「はあ?あの子のことを忘れるなんて! 冗談じゃないわよ!」
アベンチュリ「通りすがり程度の、 どうでもいい人間のことかもしれない」
女性「・・・」
女性「お金ならいくらでも払うわ」
女性「だから特別に、誰を忘れるのか、 私に選ばせてちょうだい!」
アベンチュリ「それは出来ません」
アベンチュリ「私にも、決定権は無いのです」
女性「・・・」
アベンチュリ「賭けるか、賭けないか」
アベンチュリ「あなた次第です」

〇黒
  女性は、苦虫を噛み潰したような
  顔で、目を泳がせた。
トオル(未来を知る代わりに、 誰かのことを忘れる・・・か)
  誰か、との記憶が消えてしまうなんて。
  もしそれが、大切な人だったら?
トオル(・・・怖い)
トオル(僕なら絶対に、未来なんて 見ない選択をするけど・・・あの人は?)

〇黒
女性「誰かの記憶が消える・・・?」
女性「あの子のことを、もし忘れたら・・・」
女性「・・・」
女性「いいえ」
女性「私は、選ばれた特別な人間よ?」
女性「誰よりも裕福で、美人で、チヤホヤされながら恵まれた人生を送ってきた」
女性「私・・・私なら、きっと上手くいく」
女性「私は、選ばれた人間なのだから」

〇明るいリビング
  女性は、しばらくの間
  ブツブツと独り言を呟いていたが
  意を決したように、顔を上げた。
女性「いいわ。私の記憶なんて、 くれてやるわよ!」
女性「さあ、早く息子の未来を見せなさい!」
トオル「え・・・本当にいいんですか?」
トオル「お子さんのことを、 もし忘れちゃったら・・・」
女性「うるさいわね!貧乏臭い庶民が!」
トオル「しょ!庶民て!いや、庶民だけども!」
女性「さあ!早くしてちょうだい!」
アベンチュリ「・・・分かりました」
  アベンチュリは小さく溜め息をつくと、
  何やらブツブツと唱え出した。

〇黒
  アベンチュリは、
  女教皇を司る精霊。
  アベンチュリの首輪には、
  羽根と本の飾りがついていて
  羽根には前世の記憶。
  そして本には、この世界全ての人間の
  過去や未来が刻まれている・・・らしい。

〇時計
トオル「うわ!なんだ?」
  急に、周りの景色が変わって
  アベンチュリの首輪についていた本の飾りが、浮かび上がって大きくなった。
女性「何よこれ!な・・・に・・・」
女性「・・・」
  女性は、あっという間に
  深い眠りへと落ちていった。

次のエピソード:【第5話】女教皇・アベンチュリ(4)

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