【第5話】女教皇・アベンチュリ(4)(脚本)
〇時計
トオル「おい、アベンチュリ! この人・・・大丈夫なのか?」
アベンチュリ「眠っているだけです」
アベンチュリ「そして夢の中で未来を見ている」
トオル「未来・・・か。息子さんはあの人の希望通り、医者になっているのかな」
アベンチュリ「トオルさん。貴方にも見せてあげましょう。この人の息子さんの未来を」
トオル「え?いや、僕は別に・・・!」
トオル「・・・」
さすがに、人様の未来を覗くなんて、プライバシーの侵害が過ぎる。
と、言おうとしたが、僕も女性同様に、あっという間に眠りへと落ちていった。
〇大きな木のある校舎
ここは・・・どこだ?
この男の子は・・・誰?
〇教室
なんだか懐かしいな。ここは小学校の教室だろうか?机がとても小さく感じる。
さっきの子だ・・・
すごいな。休み時間なのに勉強してる。
あ・・・この子がもしかして、さっきの女性の息子さん・・・?ここは未来なのか?
その時。
男の子は何を思ったのか、後ろの席の机の上にあった分厚い本を、教室の窓から捨てた。
〇教室の外
「きゃああああああ!」
「誰か!誰か来て!」
「救急車を!早く!」
男の子が窓から投げ捨てた分厚い本は、運悪く、下にいた女の子の頭を直撃した。
〇役所のオフィス
女性「先生。急に呼び出しだなんて。 何の御用かしら」
教師「あ~、えーっとですね、お宅のお子様が窓から放り投げた本がですね、えーっと」
教師「運悪く、下にいた女子児童の頭に当たったようで・・・今、病院で治療中なのです」
女性「はあ?」
女性「うちの子がそんなバカなことするはずありませんわ。ねえ、そうでしょう?」
女性の息子「当然だろう?僕はやっていない」
男の子は、顔色ひとつ変えずに堂々と嘘をついた。とても手慣れた感じがする。
女性「ほら、先生?息子はこう申しております」
教師「し、しかしですなあ・・・息子さんが本を投げる場面を目撃した生徒もおりまして」
女性の息子「誰?誰が見たって言ってるの?」
教師「え?それは・・・」
女性の息子「誰の証言なのかハッキリさせて下さい。じゃないと、信憑性の欠片もないでしょう?」
女性「息子の言う通りですわ、先生」
教師「・・・」
教師「君の後ろに座っている子だよ」
教師「トイレから戻って教室に入ろうとした時、本を投げ捨てる君を見た、と」
女性の息子「ああ、先生」
女性の息子「だまされちゃいけない」
教師「・・・え?」
女性の息子「本を投げたのはね、その子だよ」
教師「え?本当に?」
女性の息子「ああ。僕、見ていたからね」
女性の息子「投げられた本も、あの子の物ですよ。間違いない、さあ早く調べて下さい」
教師「そ、そんな・・・」
女性の息子「何もかもが優秀な僕のことが気に入らないんでしょ?だからそんな嘘をついて、」
女性の息子「僕をおとしめようとしているんだね」
女性「まあ!そんな卑怯なマネをする子が同じクラスにいるなんて!信じられない!」
女性「今すぐその子を退学にして下さい!」
教師「退学?」
教師「いや、それはちょっと・・・」
女性「とにかく!うちの息子は何もやっていません!先生だって分かるでしょう?」
女性「息子は成績優秀。この前だって学年でトップだった。そんな私の息子が」
女性「本を窓から投げ捨てるなんて愚かなことを、するはずがないでしょう?」
教師「ま・・・まぁ確かに・・・」
女性「くれぐれも、その後ろの席の子には適切な処分を下して頂かなければ!」
教師「は・・・はあ・・・」
女性「あら。出来ないの?」
教師「しょ・・・証拠がありませんので・・・」
女性「この学校への多額の寄付。こんなことで打ち切りにしないといけないなんて」
女性「残念ですわね」
教師「ちょ!ちょっと待って下さい!」
教師「分かりました!分かりましたから・・・」
なんて汚い手を使うんだ。
〇黒
結局、息子へのお咎めは無し。
かわりに、後ろの席に座る男の子が、本を投げた犯人とされた。
退学とまではならなかったものの
この事件を境に、この子への教師からの風当たりは強くなった。
〇教室
「人に罪をなすりつけるなんてサイテー」
「本が当たった子、顔に怪我したらしいよ」
「えー、女の子の顔に傷付けるなんて~」
後ろの席の子「僕じゃない!僕じゃない・・・!」
後ろの席の子「どうして誰も信じてくれないんだ・・・」
男の子への風当たりはキツく、それはいつしか、陰湿な嫌がらせへと発展していった。
〇黒
流れていく未来を見て分かった。
この息子は、ロクでもない子だ。
成績は確かに良い。いつでもトップで、先生からの信頼は厚いようだった。
だが、それは表の顔。
裏では、陰湿なイジメを繰り返す、ボス的な存在であることが分かった。
標的にされた後ろの席のあの子への嫌がらせは、中学生になっても続いていた。
〇おしゃれな大学
未来はどんどん進んだ。いつしか息子は、僕と同い年ぐらいに成長していた。
女性の息子「あ、母さん?合格したよ」
女性の息子「まぁ僕なら当然だけどね」
どうやら今日は、大学の合格発表だったらしい。息子は医学部に合格したようだ。
女性の息子「お祝い?そうだなあ・・・大学近くの高層マンションを契約しておいてよ」
女性の息子「え?」
「きゃああああああ!」
「男の人が!刺された!」
「誰か!早く救急車を!」
〇黒
刺された息子の目の前に立っていたのは
後ろの席の、あの子だった。
後ろの席の子「君が僕に罪をなすりつけたせいで、僕の人生はめちゃくちゃになったよ」
後ろの席の子「女の子への治療費や慰謝料」
後ろの席の子「そして周りからの冷たい目」
後ろの席の子「公立の中学へ進学して、ようやく君とは別々の学校になったのに」
後ろの席の子「君は僕をしつこく追い回したね」
後ろの席の子「本を投げて怪我をさせた人間だと、入学式の時点で嘘の噂が広まっていたよ」
後ろの席の子「わざわざ僕を呼び出して、金をまきあげて殴ったり蹴ったりもしたよね」
後ろの席の子「同じ中学のやつに、急に呼び出されて殴られたこともあったよ。そいつは言ってた」
後ろの席の子「「お前を殴れば、私立の金持ち坊ちゃんが金をくれる約束なんだ」って」
後ろの席の子「ボコボコにされて、裸にされて、写真を撮られて、SNSにさらされた」
後ろの席の子「僕は怖くて外に出られなくなった」
後ろの席の子「今日、5年振りに家を出たよ」
後ろの席の子「もっと早くこうしておけば良かった」
後ろの席の子「あははははははははははは!」
〇時計
二人の若い男性の命が尽きたところで、僕はゆっくり目を覚ました。
トオル「酷い未来だ・・・」
女性「きゃああああああ!」
トオル「あ・・・目が覚めましたか・・・ あの・・・」
女性「・・・」
女性「・・・許せない」
トオル「・・・は?」
女性「過ぎたことをいつまでも根に持って、私の息子をあんな風に傷付けるなんて!」
トオル「はあ?」
女性「あいつ・・・許さない!」
女性はそう怒鳴ると、
あっという間に家から出ていった。