#14 存在(脚本)
〇荒廃した教会
踊り子 フォクシー「私は・・・」
アクエリア「フォクシーは・・・何者にもなる必要ない」
アクエリア「神獣のまま。九尾の狐のままでいるべきだ」
村娘 アリス「・・・復活早いね。まあ、分かっていたけれど」
踊り子 フォクシー「・・・そう。私は九尾の狐」
踊り子 フォクシー「天界で暮らす、神獣様・・・」
村娘 アリス「九尾の狐は、その姿を自由に変化させられると聞く」
村娘 アリス「見方を変えれば、それはなりたい自分になれるということ」
村娘 アリス「君が人間の姿をしてるのは、つまりそういうことじゃない?」
踊り子 フォクシー「・・・ここに来てから、私の身体はだんだんと人間に近付いていって」
踊り子 フォクシー「不便だと分かっていても、自分では・・・」
村娘 アリス「自分を定義するのは自分だよ」
村娘 アリス「私は自分をヴァンパイアだと知ってる。だから私はヴァンパイア」
村娘 アリス「君は?」
踊り子 フォクシー「私は・・・」
村娘 アリス「君はきっと人間に憧れていて、今でもその憧れを捨てきれずにいるんだね」
村娘 アリス「そのせいで、どんなに追い込まれても、人間の姿をとどめずにはいられない」
踊り子 フォクシー「・・・」
村娘 アリス「でもさ、人間なんて醜くて、脆弱で、欲深き生き物だよ」
村娘 アリス「そんな人間より、優雅で高潔なヴァンパイアに・・・」
アクエリア「フォクシーは吸血鬼なんぞにはならん!」
アクエリア「神獣だ! 天界で人間を見守る神獣なんだ!」
踊り子 フォクシー「・・・」
〇雲の上
そうだよ。こんな何も起こらない天界で一生を終えてたまるか
私は恋もしたいし遊びたい。地上の人間たちのように自由に生きたい
神獣としてではなく、一人の人間として人生を謳歌したい
〇荒廃した教会
踊り子 フォクシー「・・・そうだ。私は、人間になりたいんだ」
踊り子 フォクシー「人間になって、楽しいことがいっぱいしたいんだ」
アクエリア「フォクシー・・・」
踊り子 フォクシー「アクエリア、ここって人間界じゃないんでしょ」
踊り子 フォクシー「私はね、人狼も吸血鬼もいない、人間だけの世界・・・人間界に行きたいの」
アクエリア「いや・・・ここは人間界・・・」
村娘 アリス「さっき魔界って言ったじゃん」
アクエリア「・・・」
村娘 アリス「まあ、ここは魔界でも天界も人間界でもないんだけどね」
踊り子 フォクシー「じゃあ、どこなの?」
踊り子 フォクシー「!」
人狼 マーベリック「ガウゥ・・・」
アクエリア「人狼か。本来なら彼らを使って、人間の醜さ、狡猾さをフォクシーに見せるはずだったのだけどな」
アクエリア「人狼を探す議論の中で・・・真に恐ろしいのは人間だと・・・そう教えるつもりだった」
アクエリア「人間界は過酷だと・・・理解してもらうために」
村娘 アリス「でも蓋を開けたら妖怪大戦争で、人間の出る幕なんてなかったね」
アクエリア「誰のせいだと思っている」
踊り子 フォクシー「・・・」
アクエリア「・・・だが、不条理には変わらないか」
アクエリア「フォクシー、人間とは不条理と隣り合わせの存在だ」
アクエリア「天界のようにぬくぬくとは生きられない。やりたいことだって、できるとは限らない」
アクエリア「それでも・・・人間になりたいのなら、まずはこの試練を越えてみろ」
アクエリア「吸血鬼も人狼も、貴様が倒せ」
踊り子 フォクシー「・・・はぁ!?」
踊り子 フォクシー「そんなの、無理に決まってるじゃん。人間は無力なんだから・・・」
村娘 アリス「その無力な人間になりたいのは君でしょ?」
踊り子 フォクシー「・・・」
アクエリア「大丈夫だ。人間にしかできないことだってある」
アクエリア「吸血鬼も人狼も、本当の意味で私たち神獣を殺すことはできない」
アクエリア「同様に私たち神獣も、吸血鬼や人狼を殺すことはできない」
アクエリア「・・・だが、人間にはそれができる」
踊り子 フォクシー「・・・どういうこと?」
村娘 アリス「・・・」
村娘 アリス「こりゃ、逆手に取られたね」
アクエリア「人間は神を殺せる。そして、同じように吸血鬼や人狼も殺せるんだ」
踊り子 フォクシー「・・・え?」
人狼 マーベリック「ガルルゥ・・・」
アクエリア「ここは魔界だと言ったが、あれは嘘だ」
アクエリア「そして、そこの吸血鬼も私と同様に、一つ嘘をついている」
踊り子 フォクシー「嘘・・・?」
村娘 アリス「さーて、何だろうね」
アクエリア「フォクシー、人間になりたければ、全てを化かせ」
アクエリア「私が介入できないほど、自分の意思を貫け」
人狼 マーベリック「ガゥゥ」
アクエリア「私は上で見守っている。諦めて天界に帰りたくなったら、いつでも呼ぶがいい」
アクエリア「・・・眷属にだけはなるなよ。吸血鬼はうんこの匂いがキツいからな」
人狼 マーベリック「ガルルゥ・・・!」
踊り子 フォクシー「嘘って、何だろう。本当は雨に弱いとか?」
村娘 アリス「あははっ。じゃあ試しに外出てみる?」
人狼 マーベリック「ガルルゥ!」
村娘 アリス「この血の匂い・・・君、バロンを倒したんだ」
人狼 マーベリック「きゃうん!」
村娘 アリス「邪魔だから大人しくしてて」
踊り子 フォクシー「・・・」
〇田舎の教会
村娘 アリス「龍神様ってさー、どうしてこう、雨を降らせたまま帰っちゃうんだろうねー」
踊り子 フォクシー「・・・そういう神様だから」
村娘 アリス「そう。そういう神様だから」
村娘 アリス「じゃあ、人間が弱いのはどうして?」
踊り子 フォクシー「・・・」
村娘 アリス「そういうものだからだよ」
村娘 アリス「あいつは人間だけ特別かのように語っていたけれど、人間だって同じ。私たちと同様に、理を生きるもの」
踊り子 フォクシー「痛ッ!」
村娘 アリス「痛いよね。人間はこの痛みに逆らえない」
村娘 アリス「それが人間の「理」」
村娘 アリス「私たちは理の中で生きている。神には神の、吸血鬼には吸血鬼の、人間には人間の理があるんだよ」
踊り子 フォクシー「・・・」
踊り子 フォクシー「・・・違う。吸血鬼は理に背いてる」
村娘 アリス「・・・」
踊り子 フォクシー「永遠の命だとか、死なない身体だとか、そんなの・・・本来はありえない」
村娘 アリス「本来って何? 誰が決めたの?」
村娘 アリス「神様が決めたの? 聖書にはそう書いてあるの?」
踊り子 フォクシー「・・・人間が決めた」
村娘 アリス「・・・」
踊り子 フォクシー「神様も、吸血鬼も、自分で自分を定義できない」
踊り子 フォクシー「全て、人間の伝承の上で成り立ってる」
踊り子 フォクシー(・・・って、神父さんなら言うだろうか)
村娘 アリス「・・・ふーん。でもそれって、人間が吸血鬼の存在を認めてることの裏返しだよね」
村娘 アリス「だって、吸血鬼が「ありえない」なら、そもそも吸血鬼なんて言葉が存在しない」
村娘 アリス「ありえるから言葉として存在する。語り継がれる」
踊り子 フォクシー「・・・」
村娘 アリス「あれ? もう論破されちゃったの。あっけな」
踊り子 フォクシー「・・・空想」
村娘 アリス「え?」
〇古い洋館
踊り子 フォクシー「・・・もし人間が神を創ったのなら、きっと人間って悲しい生き物なんだろうね」
踊り子 フォクシー「空想に縋るしかないほど、寂しくて」
神父 ランド「・・・きっと、誰もが今より広い世界を望んでいるんだよ」
神父 ランド「神のいない世界より、いる世界の方が──」
〇田舎の教会
踊り子 フォクシー「空想だよ。吸血鬼も、人狼も」
人狼 マーベリック「くぅ〜ん」
踊り子 フォクシー「言い伝えは必ずしも真実とは限らない」
踊り子 フォクシー「人間はその想像力を持って、お話を脚色するものだから」
村娘 アリス「・・・仮にそうだとして、何故人間はそんなことをするの?」
村娘 アリス「必要のない行為に道理は通らない」
村娘 アリス「必要性、並びに必然性を証明できない以上、「吸血鬼は人間の空想」という君の言葉だって、君の空想に過ぎないよ」
踊り子 フォクシー「何故、人間が空想を綴るかって、そんなのアリスちゃんが一番分かってるんじゃない?」
村娘 アリス「・・・は?」
踊り子 フォクシー「暇潰しだよ。神獣も吸血鬼も・・・人間も、退屈には耐えられない」
踊り子 フォクシー「退屈なお話じゃ暇は潰せない。だから人間は空想を綴る」
村娘 アリス「・・・」
踊り子 フォクシー「君たち人外はね、空想上の生き物なんだ」
村娘 アリス「・・・私はヴァンパイア。他でもない私が自分をそう定義している」
村娘 アリス「私は、人間が吸血鬼に抱くイメージに縛られない」
村娘 アリス「十字架をアクセサリーにしたり、日光浴しながらにんにくをおやつに食べたりする」
村娘 アリス「だって私はお前らの語る吸血鬼とは違うから。オリジナルのヴァンパイアだから」
踊り子 フォクシー「・・・君がついた嘘はそれ」
村娘 アリス「・・・」
踊り子 フォクシー「君はその嘘で、自分自身を騙している。無理矢理、自分の存在を定義している」
踊り子 フォクシー「・・・そして私も、自分を騙すことにするよ」
人狼 マーベリック「ばうっ!」
村娘 アリス「はぁ・・・」
村娘 アリス「・・・もういいや。なんか飽きた」
村娘 アリス「これ以上、退屈な話は聞きたくない」
村娘 アリス「死んで」
うをををっ!?
何か良い。うまく言えないけど、何か良いです!
神父さんとのやり取りが気づきを与えたのか。いい感じに過去の話が収束してきましたね…!
アクエリアのママァ……