17歳、夏、片思いを叶える。

卵かけごはん

#3:バイト、幕開け。(脚本)

17歳、夏、片思いを叶える。

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〇ケーキ屋
西野 柊也(にしの しゅうや)「今日から俺がお前の指導係だぜ!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「お前は俺の犬。 上司たる俺のことはな、 「柊也様」と呼べ!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「嘘、咲兄が教えてくれるんじゃなくて?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「うわぁ最悪~!」
  僕の不純な動機に天罰が・・・
  人生初のバイトが幕を開けた。
西野 柊也(にしの しゅうや)「いいか子犬。まずは掃除からだ」
西野 柊也(にしの しゅうや)「掃除は基本だからな、き・ほ・ん!」
浅井 貢(あさい みつぐ)(ああうざ・・・ 子犬っていうか、柊也の方が背低いけど?)
浅井 貢(あさい みつぐ)(僕175だから、君165くらいじゃない?)
西野 柊也(にしの しゅうや)「ま、お前みたいなボンボンは 掃除すらしたことねえだろうけど?」
浅井 貢(あさい みつぐ)(何なのそのニヤニヤ。すっごいイラっとする)
浅井 貢(あさい みつぐ)(咲兄が調理場にいなければ 大声で言い返すのに!)
西野 柊也(にしの しゅうや)「ま、柊也様が優しく教えてやる。 まずこっち来い」
西野 柊也(にしの しゅうや)「10時の開店には間に合わせんぞ~!」

〇職人の作業場
西野 柊也(にしの しゅうや)「ここに掃除道具が一式ある」
西野 柊也(にしの しゅうや)「持ってったら、必ず戻せよ。 使った雑巾は洗ってから干せよな」
浅井 貢(あさい みつぐ)「さすがにそれは分かるって・・・」
西野 柊也(にしの しゅうや)「最初はカウンター周りの掃除だ」
西野 柊也(にしの しゅうや)「ほら、ほうきとちり取りとモップとバケツ。 戻るぞ!」
  柊也はタオルとクリーナーのスプレーを手に、きびきびと先を行く。
浅井 貢(あさい みつぐ)(学校ではグダグダなくせに・・・)
西野 柊也(にしの しゅうや)「おい子犬、さっさとついて来い!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「だから子犬じゃ!」
西野 咲也(にしの さくや)「ふふふっ、仲いいじゃない」
浅井 貢(あさい みつぐ)(み、見ないで咲兄・・・)

〇ケーキ屋
西野 柊也(にしの しゅうや)「説明すんぞ。1回で覚えろ。 二度と教えねえからな!」
浅井 貢(あさい みつぐ)(よく言うねえ・・・ 普段の授業じゃ居眠りかうわの空で、 テストほぼ赤点のクセに)
浅井 貢(あさい みつぐ)「うふふっ、「らしからぬ」セリフ!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「あ?何か言ったか?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「いいえ何でも~!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「まずは床。ほうきがけしてモップ。 モップ、使い方分かるか?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「バケツの水につけて・・・」
西野 柊也(にしの しゅうや)「違えよ、ここのねじを回して水絞んだよ! そしたら、床の隅までかけとけ」
西野 柊也(にしの しゅうや)「次は、濡れ雑巾で窓と棚を全部拭く」
西野 柊也(にしの しゅうや)「客が見る手前と、入口のガラスは汚れやすいからな」
浅井 貢(あさい みつぐ)「う、うん」
西野 柊也(にしの しゅうや)「最後にショーケースのガラス。 タオルにクリーナーつけて、指紋消しとけ」
西野 柊也(にしの しゅうや)「これは、朝だけじゃなく昼過ぎにもだ。 意外と汚れてる」
浅井 貢(あさい みつぐ)「あっ、ホントだ。ここも!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「な?さすが柊也様だろ?」
浅井 貢(あさい みつぐ)(うざいのはいつもと同じか・・・)
西野 柊也(にしの しゅうや)「ざっとこんな感じだ。分かんねえことは?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「・・・大丈夫」
西野 柊也(にしの しゅうや)「じゃあ15分で終わらせろ。 俺は奥の準備して、9:35に来るからな?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「分かったらワンと言え!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「だから!犬じゃない・・って」
  言い終わる頃には柊也の姿は消えていた。
浅井 貢(あさい みつぐ)(あいつ、こんなまめな奴? 道具寄越して「やっとけ」だと思ってたな)
浅井 貢(あさい みつぐ)(これも、咲兄の指導の賜物? それとも、凸凹兄弟の数少ない共通点?)
浅井 貢(あさい みつぐ)「一体、どれだけ咲兄に薫陶受けたの?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「やだ! あいつが手取り足取り咲兄に教わるシーンが浮かぶ~!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「あんな奴に嫉妬なんて・・・ うぅ~!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「僕だって掃除くらいできる。 ボンボンだからってナメないでよね」
  ゴシゴシ、キュッキュッ、ゴシゴシ―
浅井 貢(あさい みつぐ)「わあ~、色んなクッキーがある!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「棚もきれいに拭かないとね!」
浅井 貢(あさい みつぐ)「────!?」
  ふと目に入ったのは、一件何の変哲もない小袋。
  ポップで可愛らしいビニール袋に、赤いリボン。
  中には、動物の形をしたクッキーが沢山入っていた。
浅井 貢(あさい みつぐ)「こ・・・これ・・・」
浅井 貢(あさい みつぐ)「あの時のと同じ・・・同じだ―」

〇ケーキ屋
  10年前、僕が7歳の時。
  父の仕事で東京に来て、初めての誕生日だった。
店員・佐藤「いらっしゃいませ~」
貢の母「あの、誕生日ケーキを」
店員・佐藤「はい、ろうそくもご用意・・・」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「マーマ!僕、これ! 動物さんの乗ったやつ!」
貢の母「貢、動物さんなんてただの砂糖の塊。 おいしいものじゃないわ」
貢の母「それよりフルーツケーキがいいじゃない」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「嫌だよ~!僕の誕生日じゃん。 何でママが決めるの?」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「美味しいかどうか? 自分で食べないとわかんないよ」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「動物さんのにして! じゃないと僕帰らない!」
貢の母「あんたはホントわがままね?」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「うわあああん!動物さんの買ってよママ!」
貢の母「貢!寝転がらないで!起きなさいっ!」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「僕の誕生日なんだから僕が選ぶ! 僕が決めるの!」
貢の母「ほら立って!馬鹿な子は置いて帰るわよ!」
店員・佐藤「あの、お客様・・・」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「・・・!?」
店員のお兄さん「こんにちは。僕、お誕生日?」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「・・・」
店員のお兄さん「動物さん、好きなんだ?」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「・・・」
店員のお兄さん「これ、見てみて」
  お兄さんは、リボンで口を縛った可愛らしい小袋をよこした。
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「これ・・・クッキー? うさぎ・・・くま・・・ 鳥も、ねこも・・・魚も!」
店員のお兄さん「お兄さんが作ったの。 でも、欠けたり曲がったりして、売り場に出さなかったんだ」
店員のお兄さん「味は売り物と一緒なんだけど、よかったらもらってくれない?」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「・・・」
店員のお兄さん「お母様、ご迷惑じゃなかったら・・・」
貢の母「なら・・・頂戴するわ」
店員のお兄さん「よぉし!じゃあ立とうか、僕! よいしょっと!」
店員のお兄さん「今日で何歳?」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「・・・7歳」
店員のお兄さん「そう!お名前は?」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「あさい・・・みつ・・・ぐ」
店員のお兄さん「「みつぐ」くんね!」
  お兄さんは頷くと、オロオロしていた店員さんに耳打ちした。
店員のお兄さん「せーの、」
店員・佐藤「Happy birthday to you, happy birthday to you!」
店員のお兄さん「happy birthday dear みつぐ~, happy birthday to you!」
店員のお兄さん「7歳おめでとう、みつぐくん!」
  お兄さんはかがむと、
  頭をよしよししてくれた─
  そして、
  綺麗な手で僕の手をにぎにぎして―
店員のお兄さん「自分で決めたいって気持ち、 お兄さんも分かるよ」
店員のお兄さん「クッキー、美味しかったらまたおいで」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「・・・あ・・・」
貢の母「ほら貢!買って帰るわよ!」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「あ・・・あの・・・」

〇男の子の一人部屋
  帰って食べた動物さんのケーキは、やはり美味しかった。
  でもそれより―
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「よし、ママに気づかれてない」
  服の中に隠して持ってきた、クッキーの小袋。
  そっとリボンをひもとくと、バターの匂いが漂った。
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「うさぎさんだ・・・サクっ」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「おいしい・・・ 優しい味だあ!」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「くまさんも・・・パクッ・・・ わにさん! これは、くじら!モグモグモグ・・・」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「―あれっ、もうなくなっちゃった」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)(1日1枚で我慢すればよかった。 僕、バカだなあ)
  「自分で決めたいって気持ち、お兄さんも分かるよ。
  クッキー美味しかったら、またおいで」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「うう・・・ううぅ・・・」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「お兄さんが手を握ってくれた時、 心臓がぎゅっってした」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「身体の中がじわって温かくなった」
  パパにもママにも、よしよしや手を握ってもらったりした記憶がない。
  好きな物を選ばせてもらった記憶も。
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「でも、あのお兄さんは―」

〇店の入口
クラスメイトA「みっくん、帰ったら一緒に遊ぼ!」
クラスメイトB「でも、みっくん今日塾じゃない?」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「・・・」
クラスメイトA「ねえ、聞いてる?」
クラスメイトB「お店の中覗いて何してるの?」
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)「ううん、何でもない!」
  またあのクッキーが食べたかった。
  お兄さんに会いたかった。
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)(でも・・・あんな恥ずかしい所見せちゃって)
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)(7歳なのに幼稚だって、思われたよね)
浅井貢(あさいみつぐ:7歳)(だめだ、お店に入る勇気がない)
  僕の気持ち、伝えたかったのに―

〇ケーキ屋
  そう、僕は咲兄に伝えたかった。
浅井 貢(あさい みつぐ)「「ありがとう」って―」
西野 柊也(にしの しゅうや)「おい、終わっただろうな?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「あ、ええと・・・ ショーケースがまだ・・・ グスンッ・・・」
西野 柊也(にしの しゅうや)「ったくおっせえな・・・」
浅井 貢(あさい みつぐ)「ねえ、このクッキー1袋買いたい。 取って置いて!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「はあ?今かよ?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「しかも、んなガキくせえもん・・・ 女にでも渡すのか?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「うん、近所の可愛い子!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「はいはい、 って・・・まさかお前、小学生とかじゃねえよな?」
西野 柊也(にしの しゅうや)「もしや!ロリ趣味もあんのかっ?」
浅井 貢(あさい みつぐ)「うん、その通り! 僕、守備範囲広いからね!」
西野 柊也(にしの しゅうや)「うっわ~変態!」
  Tシャツの袖に目頭を押し当て、
  口角を上げてみる。
  よし、バイト初日、頑張るぞ。

次のエピソード:#4:初日から5本勝負!

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