エピソード27-青色の刻-(脚本)
〇配信部屋
黒野すみれ「この時間ではない・・・・・・?」
今はもう話すことはない、と言わんばかりに
彼は20分だけ席をはずすと言うと、
私を部屋に残して去っていった。
黒野すみれ「(これを読めってこと?)」
私は彼に手渡された、封筒を見つめる。
マリさんの、真理の情報が眠る封筒。
私は覚悟を決めると、封筒を開けた。
〇昔ながらの一軒家
北石刻英「良かったですね、譲治さん。無事にこの国の国籍もとれることになって」
喜多井譲治「えぇ、北石(きたいし)譲治。今日からこれが私の名前ですね」
北石刻英「ふふ、それなら、私も今日から北石刻英(ときえ)ですね」
喜多井譲治「この国のことは自身のルーツとは言え、よく分からないし、よろしくお願いしますよ」
北石刻英「えぇ、と言っても、私もあの家を出てからは海外を転々としていて、」
北石刻英「よく分からないんですけどね」
喜多井譲治「まぁ、それならそれで一緒に勉強しましょうか。行きつけにできる店とか、病院とか」
北石刻英「色んな施設とか、お休みの日に行ける楽しい場所とか・・・・・・」
「これからよろしくお願いしますね」
それから、月日は流れ、
北石夫妻の間に第一子が誕生する。
まるで、絵に描いたような幸せな家族。
そんな日々があと何年も続くと誰もが疑わなかった。
あの日が来るまでは・・・・・・
〇綺麗なキッチン
〇昔ながらの一軒家
〇昔ながらの一軒家
〇豪華な社長室
明石刻世「え・・・・・・そんな、ことって・・・・・・」
エマ「・・・・・・。どうやら、本当のことのようでございました」
エマ「刻英様とお子様は既に息をお引き取りになり、」
エマ「譲治様も危篤状態とのことでございました」
明石刻世「・・・・・・」
エマ「刻世様」
明石刻世「話は理解しました・・・・・・悪いんだけど、手配を任せても大丈夫かしら」
明石刻世「譲治さんがどうなるかは分からないけれど、」
明石刻世「おそらく、私が喪主を務めることになるでしょうから」
エマ「・・・・・・かしこまりました。早急に手配をいたします」
エマ「それと、こちら、刻英様のものだそうで、刻世様に・・・・・・ということでしたので」
エマ「失礼いたします」
明石刻世「・・・・・・」
明石刻世「あの子が・・・・・・亡くなった・・・・・・なんて・・・・・・」
〇宮殿の門
〇宮殿の門
〇黒
そして、またあっという間に月日は流れていった。
〇地下室
エマ「刻世様、本当によろしいのでございますか?」
エマ「こちらが今、お手元にある最後の1本になりますが・・・・・・」
明石刻世「・・・・・・確かに、これ1本あれば、何年かは働かなくても良いでしょうね」
明石刻世「でも、あの世にこの蝋燭は持っていけないの・・・・・・いえ、何も持っていけないの」
エマ「・・・・・・それは私達の日々も、でございましょうか」
明石刻世「えぇ、多分。だから、貴方に覚えて欲しいわ」
エマ「・・・・・・酷い方だと言われたことはございませんか? ご家族かご友人などに」
明石刻世「そうね、生憎、貴方にしか言われたことないけど。否定はしないわ」
明石刻世「それに本当に酷いのはあの子の方じゃないかしら?」
明石刻世「折角、この呪われた明石家の当主を引き継いだのに、」
明石刻世「その私よりも早く逝ってしまうなんて」
エマ「後悔されてますか・・・・・・当主になられたこと・・・・・・」
明石刻世「そう・・・・・・答えるならYesになるかも知れない。でも、Noでもあるかも知れない」
明石刻世「本当はあの子の亡くなった日、すぐに戻りたかった。でも、14年もの間、できずにいた」
エマ「い・・・・・・何かが「終わる」というのは」
エマ「それだけ力があることなのでございましょうね」
エマ「それこそ、倫理や理性の先の、希望や願いを突き通してしまえるような・・・・・・」
明石刻世「そうね、命が終わりそうな時に誰かの作った倫理や理性なんてゴミも同然だわ」
明石刻世「って、私は比較的、好きに生きてきたかも知れないけど・・・・・・」
エマ「果たして、そうでしょうか。貴方は刻英様を守る為に当主になられた」
エマ「当主候補者を残す為とは言え、蛭田(ひるた)様だけでなく、錦戸(にしきど)様、」
エマ「夏坂(なつさか)様とも婚姻され、子を成した」
エマ「逃れられない死の運命、謂れのない非難・・・・・・」
エマ「貴方が他では奔放であったとしても、辛い目にも遭われたのでございましょう」
明石刻世「・・・・・・それさえも、私が選択したことです。でも、ありがとう」
明石刻世「いつも貴方が支えてくれたから私は今日まで生きられた。そう、心から思っているの」
〇魔法陣2
〇魔法陣2
明石刻世「私が左手を上げるか、貴方の名前を呼んだら、蝋燭を吹き消してください」
〇魔法陣2
エマ「かしこまりました、刻世様」
〇魔法陣2
〇配信部屋
黒野すみれ「(それから、刻世さんは妹の刻英さんと)」
黒野すみれ「(彼女の子どもの青慧(きよと)さんを救うものの、)」
黒野すみれ「(刻英さんは意識不明で現在も入院中。青慧さんは明石青刻として生きることになった)」
〇綺麗なキッチン
北石刻英「と、刻世ちゃんなの?」
明石刻世「えぇ、遅くなったけど、貴方を助けに来たの」
北石刻英「助け・・・・・・に? でも、私はもう助からないと思う・・・・・・」
明石刻世「大丈夫、今ならまだ外に出られるし、青慧君も外で貴方を待ってる!!」
北石刻英「青・・・・・・慧が・・・・・・」
明石刻世「貴方はここで死ぬべきじゃないのよ、立って、貴方は生きるの」
北石刻英「うん、うん・・・・・・ありがとう。刻世ちゃん。助けて、くれて・・・・・・」
〇昔ながらの一軒家
〇救急車の中
〇近未来の病室
〇近未来の病室
〇近未来の病室
〇宮殿の門
〇城の廊下
明石刻世「もう良いわ、エマ。火を消して」
〇魔法陣2
〇魔法陣2
〇地下室
エマ「お帰りなさいませ、刻世様」
明石刻世「ありがとう。最後の・・・・・・ううん、いつも私のわがままにつきあってくれて」
エマ「いいえ、貴方のわがままを叶えることは私の責務であり、重畳でございます」
エマ「これからもずっと・・・・・・私の存在が無と還るその日まで」
刻世様は満足そうに微笑むと、火の消えた蝋燭を壊した。
刻英様と青慧様が生きている未来が確定され、
昨日までは存在しなかった青刻様が生まれた。
そして、その数ヶ月後、刻世様は静かに旅立っていた。
刻英様と再び、言葉を交わされることなく、
あのネックレスを抱きしめて
元々、お2人が10代の頃に見つけられたもので、
大事に持っていたものらしく
何年か振りに2つのネックレスは同じ場に存在していた。
〇近未来の病室
〇近未来の病室
〇近未来の病室
〇配信部屋
黒野すみれ「(親殺しのパラドックスの話をした時に春刻が言ってたっけ)」
〇黒
明石春刻「その事実が確定して、未来ができていくことになる」
明石春刻「無理のない修正を経て、ね」
〇配信部屋
黒野すみれ「(だから、刻英さんと青慧さんが生き残った事実が確定して未来ができた)」
黒野すみれ「(無理のない修正を経て・・・・・・)」
黒野すみれ「(じゃあ、彼とトキの時間も本当はなかったのかな? あるようには思っているけど、)」
黒野すみれ「(それはあると思っているだけで、そんな事実はなくて・・・・・・)」
そう思うと、私は何とも言えない気持ちになった。
黒野すみれ「(確かに、彼の死ぬ運命は変わった)」
黒野すみれ「(でも、死ぬ時から時間が経ってから運命を変えたら、その間は無理のない修正が入る)」
黒野すみれ「(人の記憶が酷く曖昧だったとしても、大事にしている記憶が実は偽物の記憶なんて)」
あまりに酷いのではないかと思う。
黒野すみれ「(あとは南田さんも2人が生きていることを知らないまま・・・・・・)」
黒野すみれ「・・・・・・」
私は沈んでいく気分を変えたくて、別のことを考え出す。
それは私の左足の裏に刻まれた数字のことだ。
黒野すみれ「(体感としては20回くらい、か?)」
私はサンダルを脱ぐと、足の裏を見ようとする。
身体はエマさんに言った通り、硬い方ではないし、
見ようとすれば、すぐに見れる筈だった。
黒野すみれ「・・・・・・」
その瞬間、何故か、見るなと
誰かが警告しているかのような感覚に陥る。
黒野すみれ「・・・・・・」
私は足の裏を見ることなく、サンダルを履き直すと、
青刻さん、いや、青慧さんが部屋に戻ってきた。
黒野すみれ「青と・・・・・・さん」
私は悩みながらも、彼を元の名前で呼ぶ。
一瞬だけ驚いたような顔をした彼は
また何を考えているか分からない顔になる。
明石青刻「その名前で呼ばれたのは本当に久し振りですよ」
黒野すみれ「・・・・・・」
明石青刻「あ、でも、僕は気にする程、繊細な人間ではないですよ」
明石青刻「生きているか死んでいるか・・・・・・」
明石青刻「確かに彼女達を騙しているような気持ちにならないこともない訳じゃないですけど、」
明石青刻「刻世さんが命をかけて、変えてくれたんです。残酷だった結末を・・・・・・」
明石青刻「まぁ、それでも、生きていて嫌な日くらいはありますけどね」
明石青刻「でも、感謝はしてるんですよ。この上なく・・・・・・ね」