〇城の会議室
ゲンティム「起きろコラァアア!!」
ルカード「うわぁっ!?」
キオル「ヒック・・・ もっと飲めよルカードぉ」
ルカード「ビックリした・・・」
ルカード「キオル、飲み過ぎだぞ」
キオル「俺たちが今どこにいるか 分かってんのかぁ!?」
キオル「魔界！　魔王城!!」
キオル「これが飲まずにいられるか!!」
　　キオルのグラスが空になると、ゲンティムがすかさず酒を注ぎ足す。
キオル「──かーっ!!」
ゲンティム「人間にしてはいい飲みっぷりだ！ 気に入った、俺の配下にしてやる！」
キオル「って言ってるけど、どうするルカードぉ？」
ルカード「まったく・・・」
フェゴール「勇者殿」
フェゴール「酔っ払いは放っておいて、 こちらでご一緒しませんか？」
ルカード「フェゴールさん」
フェゴール「焼酎『魔王』です」
フェゴール「魔王城で魔王をいただくとは 何という背信行為なのでしょう・・・」
フェゴール「ふふ、ほほほ・・・ふほほほ・・・」
ルカード（あ、このヒトも酔ってるな）
ルカード「・・・ご相伴にあずかります」
フェゴール「どうぞどうぞ」
ルカード「あの、一つ聞いてもいいですか？」
フェゴール「私に答えられることでしたら」
ルカード「最近、魔王ガルディアスが姿を見せないのは、何か理由があるんですか？」
ルカード「以前の彼は、もっと頻繁に 人間界に出入りしていたのに」
フェゴール「魔王・・・？」
フェゴール「ガルディアス様でしたら現在は──」
フェゴール「あ痛ッ!!」
フェゴール「何をするのですゲンティムさん!!」
ゲンティム「どうよ、俺の魔力は〜」
キオル「悪くないけどまだまだだねぇ〜」
ルカード「うわっ!?」
ルカード「おい、キオル!?」
キオル「俺のがすごいっしょ〜」
ゲンティム「お前、水属性なのか」
キオル「いんや？ 無属性っつーか、何でも使える」
ゲンティム「ますます気に入った!!」
ゲンティム「婿に来い！」
ゲンティム「うちには独身の娘が四人もいるぞ〜」
キオル「やだよ。 あんた似の娘とか絶対ブサイクじゃん」
ゲンティム「何だとコラァアア!!」
キオル「お、やんのか？ かかってこいよ四天王！」
ルカード「ああもぅ・・・」
フェゴール「びしょ濡れですね」
フェゴール「着替えついでに 湯につかってきてはいかがです？」
フェゴール「ガスタイン卿、 ご案内して差し上げてください」
ガスタイン「どうぞ、こちらです」
ルカード「えっ？　あっ・・・」
ルカード（結局、質問には答えてもらえなかったな）
キオル「あれ、ルカードは？」
フェゴール「貴方が水をかぶせたので 湯殿に行かせましたよ」
キオル「風呂!?」
キオル「そんな危険な場所に行かせちゃダメだ!!」
キオル「あいつのスキルが発動したら 大変なことになる──」

〇貴族の応接間
　　その頃──
ヴィエリゼ「ミアさん・・・！」
ミア「深刻な顔して、どうしたの？」
ヴィエリゼ「ミアさんとルカードって、 どういう関係なの？」
ミア「同僚・・・かしら？」
ヴィエリゼ「そうじゃなくて、その・・・」
ローレット「プライベートでは どうなのかって聞いてんの！」
ミア「たまに家に来て 家事を手伝ってもらってるわねぇ」
ヴィエリゼ「家!?」
ローレット「家事!?」
ミア「子供の面倒も見てくれるから助かってるの」
「子供・・・!?」
ヴィエリゼ「もしかしてライバルかもとは思ってたけど、まさか子供までいるなんて・・・」
ローレット「あいつぶっ殺してやる!!」
ダーリナ「二人とも落ち着いてください」
「だって・・・」
ダーリナ「ミアさんのご家庭は 共働きなんだそうですよ」
「・・・ん？」
ミア「旦那は酒場の店主でね、お互い忙しくて なかなか家の中が片付かないのよ〜」
ミア「それで、ギルドの依頼がない時は ルカードが手伝いに来てくれるの」
ミア「子供は普段、近くに住んでるお義母さんに 預かってもらってるんだけど──」
ローレット「ちょちょちょ・・・!!」
ヴィエリゼ「飲食業の旦那さんがいらっしゃる？」
ミア「ええ、そうよ」
ヴィエリゼ「お子さんは旦那さんとの子供？」
ミア「もちろん」
ヴィエリゼ「・・・よかったぁあ〜!!」
ミア「ふふっ」
ミア「ずっとルカードの片思いかと思ってたけど、そうでもないみたい？」
ダーリナ「ええ、残念ながら」
ヴィエリゼ「ミアさん！」
ヴィエリゼ「普段のルカードの話、 聞かせてもらえませんか？」
ミア「いいわよ」
ローレット「待った、それなら飲み物持ってくる！」
ダーリナ「お菓子も用意しましょう」
ローレット「人間と女子会することになるなんてね」
ローレット「魔界の激マズ珍味でも食べさせてみる？」
ダーリナ「それって ローレットの手料理のことですか？」
ローレット「何だとー!?」
ミア「魔族と人間で女子会なんて素敵ね」
ヴィエリゼ「本当にそう思う？」
ミア「あら、どうして？」
ヴィエリゼ「だって冒険者って、ギルドに・・・」
ミア「・・・私とキオルは、冒険者ギルドの命令でルカードと組んでいるわけではないの」
ヴィエリゼ「・・・？」
　　ミア曰く、冒険者は国が設立したギルドに所属しなければならない決まりがあるらしい。
　　ルカードの『勇者』の称号も、冒険者ランクに応じて国から与えられた物だという。
　　本来なら、パーティもギルドが定めた人間同士で組む決まりだが、ルカードはそれを拒否しているそうだ。
ミア「勇者だからか、ある程度のわがままは 許容されているみたい」
ミア「それでも──」
ミア「国から活動費を受け取っている以上、 人間界へ害となる魔族や魔獣がいれば、 私たちはそれを討伐する義務がある」
ヴィエリゼ「・・・理屈としては分かるわ」
ミア「でもね、ルカードは魔界と人間界の双方によりよい選択をしようと、いつも努力してるの」
ミア「たとえば、この前も──」

〇西洋風の受付

〇西洋風の受付
ルカード「魔獣の討伐？」
冒険者ギルド職員「フラウンの町でシャパリュが暴れているとの報告があり、討伐依頼が出ています」
冒険者ギルド職員「しかし、わざわざ勇者様が相手をするような魔獣ではありませんね」
冒険者ギルド職員「この依頼は他に回し──」
ルカード「いや、俺が受けるよ」
冒険者ギルド職員「ですが・・・」
ルカード「いいからいいから」
ルカード「はいこれ、依頼受注書！」
冒険者ギルド職員「えーっ!?」

〇西洋の街並み

〇おしゃれな居間
町長「ようこそおいでくださいました、勇者様！」
キオル「シャパリュが暴れてるって本当か？」
町長「ええ！ 町中を荒らすので困っているのです」
キオル「この町は魔獣との共存に前向きで、 うまくいってるって聞いてたけど？」
町長「魔獣と共存だなんてとんでもない！」
町長「私が町長になったからには、 町の方針は変更させるつもりです！」
キオル「ふ〜ん・・・」
キオル「じゃあ、あれは何て説明するんだ？」
町長「・・・!!」
子シャパリュ「にゃ〜ん」
ミア「別棟の檻の中に閉じ込められていたわ」
町長「誰だお前は!?」
ミア「そんなこと、どうでもいいでしょう？」
ミア「シャパリュは猫に似た可愛らしい外見をしているけれど、獰猛な性格で愛玩魔獣には向いていないわ」
ミア「そもそも」
ミア「商業ギルドから魔獣飼育許可を得ていないあなたが、どうやってこの子を手に入れたのか、説明できるのかしら？」
町長「くっ・・・」
親シャパリュ「フーッ!!」
子シャパリュ「にゃぁあん！」
町長「シャパリュの成体が、 どうしてここに・・・」
ルカード「俺が連れて来たんだよ」
ルカード「シャパリュが町で暴れていたのは、お前に掠われた自分の子供を探していたからだ！」
町長「クソッ、さっきから一体何なんだ!!」
キオル「あんたもバカだね」
キオル「自分で出した依頼で自滅するなんてさ」
ルカード「このことはギルドに報告させてもらう」
ルカード「処分が下るまでおとなしくしていろ」

〇西洋の街並み
町人「お兄ちゃん！」
町人「シャパリュの子、無事だった!?」
ルカード「きみの情報のおかげで、ほら──」
子シャパリュ「にゃーん！」
町人「わっ、よかった〜！」
町人「町長さんが変わってから、 魔獣さんたちの様子がおかしかったんだ」
町人「でも、もう大丈夫だね！」
ルカード「ああ」
ルカード「シャパリュが暴れていたのは町長のせいだったって、町の大人たちに伝えておいてくれ」
町人「うん、分かった！」
ルカード「きみも、人間に不満はあるだろうけど、 きっともう大丈夫だから・・・」
ルカード「今回だけ、 俺の顔に免じて許してくれないかな？」
親シャパリュ「・・・にゃあ」
ミア「行っちゃったわね」
キオル「通じたのか、あれ？」
ルカード「きっとね」
キオル「つーか、魔獣の討伐依頼だったのに 町長討伐してどーすんだよ」
キオル「ちゃんと報酬もらえるのか？」
ルカード「あっ・・・」
キオル「うーわー、またボランティアかよ・・・」
ミア「大丈夫、ギルド長がきっと ご飯くらいは奢ってくれるわ！」
キオル「割に合わねえー!!」