第一六話『ヤ・キュウの穴』(脚本)
〇中世の野球場
実況コカンダ「エンシェントドラゴンのユズハ選手の尻尾の一振りであっさりと先制点をもぎ取った帝国ドラゴンズ」
実況コカンダ「続くのは、帝国の絶対勇者。ピッチャーを務めます五番のレオンハルト選手」
解説ヒルダ「両手に持つのは愛用の剣ではなく、神の御使いマコ様が伝来したバットのようです」
ドロシー「・・・・・・」
実況コカンダ「先ほどホームランを打たれてしまったドロシー選手。気合の表情で第一球を、投げた」
ずどーん!
実況コカンダ「剛速球、ど真ん中! 今日一番の球だ!」
マコ「いいぞ、ドロシー!」
レオンハルト「いやはや、やっぱり早いな。 こんなのは当てるだけで精一杯だ」
ドロシー「掠らせもしないわよ。 打てるもんなら打ってみなさいよ」
レオンハルト「では遠慮なく」
実況コカンダ「バッターを睨みつけるドロシー選手、第二球を投げた!」
ドロシー「!」
実況コカンダ「な、なんだ、あの構えは!? レオンハルト選手、ドロシー選手が投げるのと同時に、手に持ったバットを両手で前に構えた」
こつん
実況コカンダ「そしてバットに当たったボールは、メインベースの前をコロコロと転がる!」
内野陣「!」
実況コカンダ「あまりのことに硬直する内野陣! その間にレオンハルト選手は一塁に向けて疾走!」
ドロシー「くっ!」
実況コカンダ「急いで駆け出したドロシー選手ですが、ボールを拾った頃には余裕のセーフ」
レオンハルト「ふぅ、なんとかなった」
ドロシー「ちょっとふざけているの、レオンハルト! 何よ、さっきの!」
レオンハルト「いやだって、あの守備配置なら転がせばヒットになると思ってね」
ドロシー「だからって・・・・・・」
レオンハルト「なんでもアリなんだろ、ヤ・キュウは? そうですよね、レヴィリック宰相?」
レヴィリック「・・・・・・ああ、別にルール違反している訳ではないな」
レオンハルト「つまり今回は僕の勝ちってことだね」
ドロシー「別に負けてないし! ちょっと奇をてらっただけでしょ! 次は今みたいなアレはやらせないわよ!」
レオンハルト「うーん、アレじゃ分かり辛いね。 よし、ならさっきの打法は【バント】と名付けようか」
ドロシー「呼び方なんてなんでもいいわよ!」
実況コカンダ「バント、ですか。帝国ドラゴンズから新打法技が登場しましたね、解説のヒルダさん」
解説ヒルダ「帝国側もヤ・キュウについて色々と研究をしてきているようですね」
マコ「・・・・・・あれ? なんか今のって見たことあるような?」
実況コカンダ「続く帝国ドラゴンズの六番は、キャッチャーという特殊なポジションを務める、帝国の賢者クルトガ選手」
実況コカンダ「魔法の杖を手にバッターボックスに入ります」
実況コカンダ「そのクルトガ選手に向かって、ピッチャー第一球を投げた! これは見事なストライク!」
ドロシー「よし!」
実況コカンダ「クルトガ選手、まったく動けな・・・あれ?」
レオンハルト「セーフ」
ハッピーズ一同「!」
実況コカンダ「えっと・・・・・・一塁にいたはずのレオンハルト選手が、いつの間にか二塁に移動していますが・・・・・・」
実況コカンダ「これはどういうことでしょうか? 解説のヒルダさん?」
解説ヒルダ「・・・マズイですね」
ドロシー「ちょ、何やってんのよ、レオンハルト!」
レオンハルト「何って、行けると思ったから走っただけだだよ。別に問題ないだろ?」
ドロシー「ルール違反よ!」
レオンハルト「ルール違反じゃないさ。ランナーはベース上が安全であり、それ以外、特定の危険行為以外、行動を制限するルールはない」
ドロシー「レヴィリック!」
レヴィリック「・・・いや、確かにその通りだ。 この行動は特にルールに抵触するような行為ではない」
レオンハルト「そういうことだよ、ドロシー。 さあ、試合の続きをしようじゃないか」
実況コカンダ「さあ、まさかのレオンハルト選手の奇策に、浮足立つハッピーズ。どこか落ち着かないドロシー選手が第二球を投げた!」
解説ヒルダ「そして当然のように、レオンハルト選手は三塁に走りましたね」
レオンハルト「はい、セーフ」
実況コカンダ「これはたまらずハッピーズがタイムを掛け、主要メンバーがピッチャーマウンドに集まります」
ドロシー「ちょっと、レヴィリック! これどうすればいいのよ! キャッチャー壁に投げたボールを拾うまで、やられっぱなしじゃない!」
レヴィリック「完全に予想外だ・・・何にしても手の打ちようがない。今はこのまま行くしかない」
マコ「・・・うーん。なんかこういうヤツあったような、なかったような」
実況コカンダ「試合再開。ドロシー選手は制球が乱れ、カウント1ストライク・1ボール。三塁を気にしつつ、ドロシー選手、第三球を投げた」
バスーン!
実況コカンダ「キャッチャー壁の中央に突き刺さるような見事にストライク! ・・・だが、それだけじゃない!?」
レオンハルト「はい、これで一点」
実況コカンダ「な、なんと、三塁のレオンハルト選手がそのまま走って、メインベースを踏んだ!」
ドロシー「ふ、ふざけないでよ!」
レオンハルト「だからふざけてないさ。それにやられるのがイヤだったら、ベースから離れている間にタッチすればよかっただろ?」
ドロシー「そういう問題じゃなくて、こんなの・・・」
レオンハルト「まさか反則なんて言いませんよね、レヴィリック宰相?」
レヴィリック「・・・ああ、ルール上は問題ない」
レオンハルト「ではそういうことで」
ドロシー「ふんがー!」
実況コカンダ「さあ、大変なことになってきました。 まさかこんな手段があったとは。ここからどうなってしまうのか?」
解説ヒルダ「・・・今は見守るしかありませんね」
実況コカンダ「ここから投球が乱れたドロシー選手。 続けざまにヒットを打たれ、さらに一点を献上し三対〇でドラゴンズの攻撃が終了」
解説ヒルダ「ベンチに戻っても荒れているようですね」
〇球場のベンチ
ドロシー「なによアレ!」
レヴィリック「完全に見落としていたな」
レヴィリック「なら、こちらも同じことをしてやればいいだけの話だ」
ドロシー「あっ、いつもの悪い顔が出た」
レヴィリック「という訳で、パキマビ頼んだぞ!」
パキマビ「了解です!」
〇中世の野球場
実況コカンダ「二回の裏は、五番のパキマビ選手」
実況コカンダ「レオンハルト選手、第一球を投げた!」
実況コカンダ「おっと、パキマビ選手、レオンハルト選手の真似をした見事なバント!」
解説ヒルダ「ですが、相手の対応も早いですね」
実況コカンダ「予期していたのか、レオンハルト選手。 即座に走り出し、これを綺麗に拾い、一塁に投げる」
パキマビ「とう!」
レオンハルト「!」
実況コカンダ「なんと! 余裕でアウトのタイミングと思いきや、パキマビ選手が四足での俊足を生かし一塁を駆け抜けてセーフ!」
レヴィリック「よしっ!」
ドロシー「いいぞ、パキマビ!」
実況コカンダ「さあ、ランナーが出て盛り上がるハッピーズベンチ」
解説ヒルダ「そして一塁に出たパキマビ選手は走る気満々ですね」
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