エピソード26(脚本)
〇怪しげな酒場
レストルア「話がそれましたね」
申し訳なさそうにするレストルア。たぶんすごく真面目なんだろうな、と思う。いつも真剣なんだ。
その真剣さを自覚していて、それが怖いのかもと、レストルアは、いつも悩んでいるのかもしれない。
僕がそんな事を思っていると、レストルアが巻物を取り出して、中をこちらにかざす。
ロク「それは?」
巻物には、魔法陣が描かれている。僕の疑問に、レストルアは口を開いた。
レストルア「これが、給金と寄宿舎の使用権利を付与する魔法陣です・・・・・・手を当ててください、それですべて完了します」
なるほど、それは便利だ。いろいろな物にサインして、ハンコを押す、というのが無いらしい。
僕は魔法陣に手をかざした。すると、魔法陣が少し光って、すぐに収まる。
とりあえず、部屋が二番という情報が、頭の中に流れ込んできただけだ。
ロク「・・・・・・これだけ?」
簡単すぎて、拍子抜け。まぁ、面倒はないけど、面倒が無さすぎて、逆に大丈夫か不安になる。
僕の様子を見て、レストルアが「これだけです」と少し笑う。
ロク「簡単すぎて、逆に不安になるね」
レストルア「そうかもしれませんね」
書類をしまいながら、レストルアが、心当たりがある様に微笑む。
レストルア「私も同じことを、初めての時は思いました」
ロク「・・・・・・そうなんだ」
なんだかおかしくなって、僕が笑うと、レストルアも同じように笑った。同じような性格なのかもしれない。
ジョマ「ロクにぃ、色目ぇ、使わないでぇ、くださいぃ」
突然、声がして、僕とレストルアはそちらに顔を向ける。突っ伏していたはずのジョマが、顔をあげてこちらを睨んでいた。
レストルア「い、色目なんてっ」
レストルアが顔を赤くして立ち上がり、僕から少し距離をとる。地味に傷つく行動。
ロク「そうだよ、ジョマ、レストルアは仕事できただけで」
ジョマ「はっ、どうだかっ」
僕の援護射撃も効果が無さそうに、そう言ったジョマがやさぐれた様子で、お酒をあおる。
レストルア「仕事です、もう必要な手続きは終わったので」
レストルアは、まだ少し顔を赤くしたまま、真面目な顔をして、続ける。
レストルア「鍵は、魔力紋を識別して開きます、ドアノブ付近に魔力を込めた手を近づければ、開きます」
生体認証の様な物らしい。便利なうえに、セキュリティも高い。
レストルア「それでは」
いう事はすべて言い終わったという感じで、レストルアが体を反転させて、歩き出す。僕は「ありがとう」と早口で伝えた。
それに対してレストルアは振り向きもせず「仕事ですので」と言い残して、早足で行ってしまった。
ジョマ「はんっ、発情期の犬が」
そう乱暴に言葉を零すと、ジョマがお酒をあおりながら、レストルアの背中を見送る。
ロク「そういうのじゃないでしょ、ちょっと雑談しただけで」
その言葉に反応したジョマが、僕を睨みつける。
何か言おうとしたのか、口を少し開けて、すぐ閉じると、鼻を鳴らして、机にお金を乱暴に置くと立ち上がった。
ジョマ「もう帰ります」
ジョマはフラフラとした足取りで、店を出て行ってしまった。怒っているのだろうか。よくわからない。