不可侵領域 ~消えないメモリー~

北條桜子

#6 愛の証明(脚本)

不可侵領域 ~消えないメモリー~

北條桜子

今すぐ読む

不可侵領域 ~消えないメモリー~
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇基地の廊下
研究員A「ちょ、ちょっとまずいですよ! 蒼井さん!」
蒼井「いいからどいてくれ!」
研究員A「例のヒューマノイドのデータ消去を止めにきたんでしょ?」
研究員B「所長から言われてるんですよ! 万が一蒼井さんが来てもメンテナンスルームには絶対に入れるなって」
蒼井「頼む」
蒼井「どうしても・・・どうしても、彼女を廃棄させるわけにはいかないんだ」
研究員A「蒼井さん、どうしたんですか。今までヒューマノイドの廃棄に反対したことなんてないのに」
蒼井「それは・・・」
研究員B「あの個体に何かあるんですか?」
蒼井「彼女は・・・」
蒼井「彼女は僕にとって・・・」
  続く言葉が何なのか、僕にもまだわからない。
  けれど、自分を抑えることはできそうになかった。
蒼井「とにかくこの通りだ。 メンテナンスルームに通してくれ」
研究員A「あ、頭あげてくださいよ!」
研究員B「そうですよ。困りますって」
蒼井「頼む。もう時間がないんだ。 彼女のデータを、消させないでくれ!」
研究員A「無理です。本当に無理なんですよ、もう」
蒼井「もう? それは、どういう意味だ?」
研究員B「データの回収が終了したのと同時に、確実にデータ消去が開始されるようプログラムが組まれてるんです」
蒼井「っ・・・それじゃあ・・・」
研究員A「あと数分もしないうちに、消去プログラムが起動します」
蒼井「そんな!」
蒼井(いや、この程度のことは想定できたはずだ)
蒼井(考えろ・・・考えろ! どうすれば止められる!?)
  直談判したところで、所長の決定を覆すのが不可能なことは目に見えている。
蒼井(それどころか、話をしているうちにデータの消去が始まってしまう)
蒼井(一時的でいい。 何か強制的に止める方法は・・・)
蒼井「電力か」
研究員A「え?」
研究員B「蒼井さん、今なんて──!?」

〇諜報機関
蒼井(思った通り、消去プログラムどころかメンテナンスルームのシステムにも入れない)
蒼井(でも、サーバールームの電力を止めてしまえば・・・!)
  自席のPCに文字の羅列を打ち込んでいく。
蒼井(予備電源がつくまで、せいぜい10秒。 だけど、消去プログラムの再起動までには5分以上の時間がかかるはず)
  それでも時間はまだ足りない。
  だから僕は、あたかも電力システムにエラーが発生したかのように見える細工を施すことにした。
蒼井(サーバーのエラーとなれば、所長も動かざるを得ない。これで──!)

〇黒
  館内の電気が一斉に切れた直後、廊下の奥から慌てたような足音が響き渡った。

〇実験ルーム
蒼井「君! 無事か!?」
アイコ「蒼井・・・先生・・・」
  メンテナンスルームに飛び込んですぐアイコと目があった。
  ガラス張りの減圧室の中、山ほどのコードを繋がれている。
蒼井「っ・・・すぐにそこから出してやるからな」
アイコ「どうして先生がここにいるの?」
蒼井「どうしてもこうしてもない。 君が廃棄されなければならない理由なんてひとつもないんだ」
アイコ「でもこんなことしたら先生が・・・」
蒼井「君は、助かりたくないのか!?」
アイコ「・・・助かり、たい・・・よ」
アイコ「わたし・・・まだ消えたくない! もっと先生と一緒にいたい!」
アイコ「先生に、わたしのスキな気持ちが本当だって、信じさせたい!!」
蒼井「だったら黙って待っていろ」
アイコ「うん・・・!」
  ガラスの向こうで、アイコの瞳が濡れた気がした。
  僕は、どうかしているのかもしれない。
  ただ今は、一刻も早く彼女を解放してやりたくて。
  けれど、事はそう簡単には運ばなかった。
蒼井「嘘だろう? 減圧室のロックまでパスワードが変更されているのか!」
蒼井(もう時間がないのに!)
  見ると、アイコに繋がるコンピュータの再起動が始まっていた。
アイコ「蒼井先生! 足音が! もうすぐ人が戻って来る!」
蒼井「くそっ! こうなったら!」
  常設されている工具箱をひっくり返し、ドライバーを掴みあげる。
蒼井(扉のロックを強制解除するためには、物理的に破壊するほかない)
蒼井(しかしこれを壊せば・・・)
アイコ「先生! 所長も主任も、もう入ってきちゃう!」
蒼井(迷ってる場合じゃない!)
  僕は握りしめたドライバーを、減圧室の電子キーめがけて力任せに振り下ろした。
アイコ「先生! 無茶だよ!」
蒼井「うるさい! 今は他に方法がないんだ!」
  1回、2回、3回。
  電子キーの液晶にひびが入ったところで、ロックが外れる音がした。
所長「おいっ! 何をしているんだ!」
主任「蒼井君!?」
蒼井「くっ!」
  減圧室に飛び込んだとのと、所長たちが戻ってきたのはほぼ同時。
  ガラス扉を閉めて、イチかバチか内側からロックをかける。
  その途端、室内に警報音が鳴り響き始めた。
蒼井(この警報音・・・減圧機の制御がいかれたか)
蒼井(電子キーを叩き壊せば何かしらエラーが起きると覚悟していたが、最悪だ)
アイコ「先生! なんかこれ、まずいことになってない!?」
蒼井(放っておけば、この部屋の空気はゼロになる。だが──)
蒼井「問題ない!」
アイコ「本当に大丈夫なの? なんだか普通じゃないよ!?」
蒼井「いいから後にしてくれ!」
  今はとにかく、消去プログラムの停止が先だ。
蒼井(解除コードはわからないが、システムを直接停止させることはできるはず!)
所長「ここを開けろ! 開けなさい!」
主任「蒼井君、まずは冷静に話し合おう!」
  分厚いガラスをどんどんと叩く音がする。
  2人はなおも何かしゃべり続けていたが、僕はそれを無視してキーを叩き続けた。
蒼井(話し合いをしている時間なんてあるものか!)
蒼井「もうすぐ。あとこのコードさえ書き込めば・・・!」
アイコ「先生、なんかおかしい」
  消去プログラムの起動を知らせるポップアップが画面に表示される。
蒼井(もう始まったのか!?)
蒼井「いやまだ間に合う!」
  ──タンッ!
  叩きつけるようにエンターキーを押した。
蒼井「どうだ?」
アイコ「先生・・・?」
蒼井「消えた」
アイコ「え?」
蒼井「消去プログラムの強制停止に成功したんだ!」
アイコ「本当!?」
蒼井「ああ、もう大丈夫だ! あとはすぐにコードを外して──!」
  と、アイコに駆け寄ろうとした直後。
  頭がぐらりと揺れて、僕はその場に膝をついた。
蒼井「くそ・・・もう、こんな・・・」
アイコ「先生?」
蒼井(呼吸が苦しい。足に力が、入らない)
蒼井「あ・・・くっ・・・」
アイコ「先生!!」
蒼井(時間をかけすぎた・・・のか)

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:#7 蒼井の真実

成分キーワード

ページTOPへ