不可侵領域 ~消えないメモリー~

北條桜子

#5 下された処分(脚本)

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北條桜子

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〇川沿いの公園
涙声の女性「どうして・・・? なんで庇ったりしたの?」
男「泣かないでください。 僕は役目を果たしたにすぎません」
涙声の女性「でもっ、こんな破損までして・・・!」
男「痛みは感じませんから、心配しないでください」
男「それよりも、貴方を守ることができて僕は・・・」

〇白

〇綺麗な病室
蒼井(僕、は・・・?)
蒼井(今、夢を見ていた・・・? でも・・・)
蒼井「何の・・・夢・・・」
主任「よかった。気づいたようだね」
蒼井「えっ?」
  薄ぼんやりとした視界の中いっぱいに、突然主任の顔が現れてぎょっとした。
蒼井「主任!?」
  身を起こそうとして、今度は強烈な吐き気に襲われる。
蒼井「うぐっ・・・」
蒼井(なんだ? 頭が、割れそうに痛い)
主任「ああダメダメ。まだ寝てないと」
主任「君は頭を打って、酷い脳震盪を起こして運ばれてきたんだから」
蒼井「頭・・・を?」
主任「おや、覚えてないのかな? 昨日のこと」
蒼井「昨日・・・」
主任「君は、アイコ君と一緒に海辺の公園に行っていた。そうだね?」
蒼井「あ・・・いや、それについては理由が・・・」
主任「ああ、別にアイコ君との私的交流を咎めようっていうんじゃないよ」
主任「私はただ、君の記憶の整理を手伝いたいだけだから、安心して答えてくれるかな」
蒼井「は、はい」
蒼井「・・・確かに、僕は彼女と2人で会っていました」
主任「そこで口論になったことは?」
蒼井「口論・・・」
  じわじわと、混濁していた記憶が蘇ってくる。
蒼井(そうだ。バイクとぶつかりそうになった彼女の代わりに、僕は道路に投げ出されて・・・)
蒼井「か、彼女は!? 彼女に損傷はなかったんですか!?」
主任「大丈夫。君のおかげで、彼女は無傷だ」
蒼井「そう・・・ですか」
主任「ただ・・・」
蒼井「ただ?」
???「廃棄処分を決めたよ」
蒼井「え・・・?」
  聞き覚えのある声が耳に届く。
  見ると、入り口に研究室の所長とアイコが並んで立っていた。
蒼井「ど、どうして所長が・・・」
所長「責任者として、黙っているわけにもいかなくてね」
所長「この個体は、危うく君を死なせるところだったのだろう?」
アイコ「・・・・・・」
蒼井「意図的にではありません。 あれは、むしろ僕の責任です」
所長「もちろん、我が社のヒューマノイドに限って、故意に人を傷つけるなどあり得ない」
蒼井「でしたら──」
所長「だとしても、不具合を起こした個体は処分しなければ」
所長「今後の研究の妨げになるからね」
蒼井「そんな・・・」
所長「気にすることなどないはずだよ」
所長「君にとってヒューマノイドはただの機械。プログラムでしかない。不具合が発生した際はデリートするのが当然だろう?」
蒼井「そ、それは・・・」
  言い返す言葉が見つからない。
  黙って聞いているアイコの静かな瞳が、胸に痛かった。
アイコ「蒼井先生、わたし・・・」
所長「そういうわけだから、この個体はすぐに研究室へと送り返すことにするよ」
所長「もうあまり時間もないのでね」
蒼井「じ、時間がないって」
主任「アイコ君は、研究室に戻り次第データを回収されることになる」
所長「その後、今夜0時には全てのプログラムのデリートが完了されるんだ」
蒼井「そんな急に!」
所長「研究室としても残念だよ。この個体は実に貴重なデータサンプルを残してくれそうだと聞いていたからね」
所長「まあそれも、別の個体でやり直せばいい話ではあるが」
蒼井「そんな簡単な話なんですか!?」
アイコ「蒼井先生!」
アイコ「いっぱい・・・いっぱい迷惑かけてごめんなさい」
アイコ「わたし、それだけ言いたくて」
蒼井「君は、自分の状況をきちんと理解しているのか? 納得しているのか?」
主任「蒼井君、少し落ち着いて」
蒼井「主任も主任です! どうして反対してくれないんです!?」
所長「ふむ・・・蒼井君は、ずいぶんとこの個体に肩入れをしているようだね」
所長「君はもう少し冷静な判断を下せる研究員だと思っていたが」
蒼井「か、肩入れしているわけでは・・・」
蒼井「ですが所長、これはあまりにも!」
アイコ「蒼井先生・・・わたし、すごくうれしかった」
アイコ「先生と過ごせて・・・デートまでできて」
アイコ「本当に・・・本当にうれしかったよ」
蒼井「今はそんな話をしてる場合じゃないだろう」
アイコ「だって今言わないと」
アイコ「もう、言えなくなっちゃうんだよ」
蒼井「っ・・・」
所長「さて、そろそろ失礼するよ」
蒼井「ま、待ってください!」
所長「ああそれと、君には教師の役割は降りてもらうことにしたよ。退院次第、研究室に戻ってくれたまえよ」
蒼井「所長!」
所長「さあ君、ついて来なさい」
アイコ「はい」
主任「ちょ、ちょ~っとお待ちくださいよ所長~!」
所長「君まで何だね?」
主任「いえね、最後に少しだけ2人で話をさせてやったらどうかと思いましてね」
所長「そんな必要がどこにある」
主任「貴重なデータが取れるかもしれないからですよ。回収データは少しでも多い方がいいでしょう?」
所長「・・・10分だけだ」
主任「だそうだよ、2人とも」
蒼井(ありがとうございます。主任・・・!)

〇綺麗な病室
アイコ「蒼井先生、今までありがとう」
  病室に2人きりになるなり、アイコはそう言った。
蒼井「何を・・・笑っているんだ」
アイコ「だってわたし・・・幸せだもん」
アイコ「わたし、蒼井先生に出会えてよかった。 蒼井先生に、恋してよかった」
蒼井「君は・・・これから全てのデータを消されてしまうんだぞ?」
アイコ「うん・・・」
アイコ「でもね、わたしはきっと蒼井先生のことは忘れないよ」

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