#9 眷属(脚本)
〇兵舎
格闘家 バロン「・・・」
商人 ルドルフ「ちょっと格闘家はん、食事が一人分多いんとちゃいまっか?」
商人 ルドルフ「今朝アリスはんが襲撃されて、生き残りはワイと神父はんとフォクシーはんとあんたの計四人」
商人 ルドルフ「五人分用意しとるけど、あとの一つは一体誰のぶんや?」
格闘家 バロン「・・・冒険者さんのぶんですよ」
格闘家 バロン「帰ってくるかもしれないので」
商人 ルドルフ「あんた昨日、冒険者はんは自分がボコボコにしたって言うとりましたやん」
商人 ルドルフ「仮に帰ってきたとしても、一緒に食卓を囲めるようには思えへんけど」
格闘家 バロン「・・・」
商人 ルドルフ「それ、アリスはんのぶんやろ」
商人 ルドルフ「・・・あんた、アリスはんが生きとること知っとるなあ」
格闘家 バロン「・・・人狼に襲撃されたのではないのですか」
商人 ルドルフ「あれは嘘や。アリスはんなら今頃自室で寝とるで」
商人 ルドルフ「お寝坊さんやからな〜。誰かが起こしにいかんと昼まで寝とるんちゃうか」
格闘家 バロン「・・・そうですか」
商人 ルドルフ「あんた、人狼やろ」
商人 ルドルフ「人狼はアリスはんが生きとることを知っとる」
格闘家 バロン「・・・私は人狼“では”ありませんよ」
商人 ルドルフ「じゃあ何や? 龍神の言っとった「うんこ」っちゅうやつか?」
格闘家 バロン「うんこでもありません」
格闘家 バロン「・・・そうですね。私は──」
フォクシー「誰か・・・誰か来て!」
フォクシー「早く!」
格闘家 バロン「・・・フォクシーさんが呼んでますね」
商人 ルドルフ「・・・」
格闘家 バロン「行きますか」
〇古い洋館
神父 ランド「うぅ・・・」
踊り子 フォクシー「もう! 早く誰か来てよ!」
踊り子 フォクシー「血が止まらない、どうしよう」
踊り子 フォクシー「死んじゃうの? 神父さん」
神父 ランド「・・・はは、そうかもね」
神父 ランド「でも、君の盾になれて、僕は本望だよ」
神父 ランド「だって僕は──」
神父 ランド「背徳──」
踊り子 フォクシー「神父さん・・・」
踊り子 フォクシー「最後までよく分からない人だったけど、良い人なのは確かだったよ・・・」
冒険者 マーベリック「次はお前だ」
踊り子 フォクシー「・・・君って人狼よりタチが悪いね」
踊り子 フォクシー「話が通じない。無差別に人を襲う。処刑されるべきは人狼もよりも君だよ」
冒険者 マーベリック「はははっ、「人狼よりタチが悪い」か」
冒険者 マーベリック「その言葉、そっくりそのままお前に返すよ」
踊り子 フォクシー「・・・はぁ?」
冒険者 マーベリック「じゃあな。人狼より邪悪な何か」
踊り子 フォクシー「ッ・・・」
格闘家 バロン「人狼より邪悪な何か・・・ですか。興味深いですね」
踊り子 フォクシー「格闘家さん!」
格闘家 バロン「バロンさんと呼んでください」
冒険者 マーベリック「またお前か。死んでも死なねえ化け物野郎」
冒険者 マーベリック「お前か? お前が人狼なのか?」
格闘家 バロン「人狼“では”ありません」
格闘家 バロン「そうですね。私は──」
冒険者 マーベリック「ぐっ・・・」
格闘家 バロン「吸血鬼です」
踊り子 フォクシー「吸血鬼・・・!?」
格闘家 バロン「と言っても、眷属の方ですが」
冒険者 マーベリック「・・・やっぱりな。おかしいと思ったんだ」
冒険者 マーベリック「俺たちは誰も殺してないのに・・・」
冒険者 マーベリック「お前か・・・。お前が“人狼”だったのか」
格闘家 バロン「その“人狼”は何か別の意味を孕んでいそうですね」
冒険者 マーベリック「あぁ。俺たちにとっての人狼、それがお前だ」
踊り子 フォクシー「???」
冒険者 マーベリック「待て!」
踊り子 フォクシー「・・・一体何が起こってるの?」
神父 ランド「・・・そういうことだったのか」
踊り子 フォクシー「神父さん! 生きてたの!?」
神父 ランド「多分、僕たちの敵は人狼じゃない・・・」
神父 ランド「人狼はむしろ・・・被害者・・・」
踊り子 フォクシー「神父さ〜〜ん!」
〇けもの道
格闘家 バロン「・・・」
冒険者 マーベリック「はぁはぁ・・・」
冒険者 マーベリック「化け物が・・・」
格闘家 バロン「それはお互い様でしょう」
格闘家 バロン「人狼くん」
冒険者 マーベリック「うるせえ! 誰のせいでこんな・・・」
冒険者 マーベリック「いっ・・・」
格闘家 バロン「正体を現したらどうですか?」
冒険者 マーベリック「どの口が言う・・・」
格闘家 バロン「・・・やはり貴方が人狼でしたか」
格闘家 バロン「貴方を殺せば全てが終わる。私のご主人様もこの茶番には飽きているので──」
格闘家 バロン「・・・」
〇城の客室
村娘 アリス「・・・なんだか騒がしいな」
商人 ルドルフ「アリスはん、起きとったんか」
村娘 アリス「ねぇ、私が寝てる間に何かあった?」
商人 ルドルフ「説明すると長くなるんやけどな。格闘家はんが生きとって、ついさっき冒険者はんがフォクシーはんたちを襲って・・・」
村娘 アリス「格闘家・・・あぁ、バロンか」
商人 ルドルフ「せや。んでな、ワイはバロンはんが人狼やと思うで」
商人 ルドルフ「何故かっちゅうとな、アリスはんが襲撃されたってカマをかけたら・・・」
村娘 アリス「バロンは人狼じゃないよ」
商人 ルドルフ「・・・?」
村娘 アリス「だってあいつ、私の眷属だし」
商人 ルドルフ「眷属?」
村娘 アリス「そう、眷属。私、ヴァンパイアだから」
商人 ルドルフ「え」
〇古い洋館
踊り子 フォクシー「神父さん・・・」
格闘家 バロン「・・・」
踊り子 フォクシー「・・・バロンさん」
踊り子 フォクシー「冒険者さんはどうなったの? あと、吸血鬼って何?」
格闘家 バロン「冒険者さんには逃げられてしまいました」
格闘家 バロン「吸血鬼というのはそのままの意味です」
踊り子 フォクシー「それって・・・私の敵なの?」
格闘家 バロン「どうでしょう。私は特に、貴方に危害を加えるつもりはありませんよ」
踊り子 フォクシー「なら、いいけど・・・」
〇城の客室
商人 ルドルフ「ヴァンパイアっちゅーのはあの、人の血を吸ったり、不老不死だったりするヴァンパイア?」
村娘 アリス「君たちがイメージしてるものとは少し違うかもね。でも、概ねその認識で合ってるよ」
商人 ルドルフ「今回の人狼騒ぎとも、何か関係が?」
村娘 アリス「・・・あー、関係あるかもね」
商人 ルドルフ「何故、ワイに正体を明かしたんや?」
村娘 アリス「特に深い意味はないよ」
村娘 アリス「私が人狼を探すのも、君たちに混ざって会話をするのも特に意味はない。ただの気まぐれ、余興、暇潰しの延長」
村娘 アリス「でももう飽きちゃった」
商人 ルドルフ「・・・」
村娘 アリス「さっさと人狼殺して終わりにしよう」
商人 ルドルフ「・・・うんこは」
村娘 アリス「ん?」
商人 ルドルフ「「うんこ」はどないするつもりなんや?」
村娘 アリス「あぁ、そういえばそんなのもいたね」
〇おしゃれな居間
医師 クランツ「私たちは人狼にばかり気を取られているが、妖狐のこともしっかり警戒しないといけないぞ」
医師 クランツ「何故なら、妖狐は最後まで生き残ると、調子に乗って村の民を全員殺してしまうからな」
村娘 アリス「なにそれこわい」
〇城の客室
村娘 アリス「・・・」
村娘 アリス「そうだね。「うんこ」はちゃんと流さないとね」
商人 ルドルフ「・・・」
村娘 アリス「ねぇ、貴方はうんこ?」
商人 ルドルフ「ワイはちゃうけど」
商人 ルドルフ「え」
商人 ルドルフ「・・・」
村娘 アリス「醜いな・・・。人も、何もかも」
村娘 アリス「私にとっては全てがうんこだよ」
ただの人狼ゲームなはずがなかった…
吸血鬼の概念も入り、いよいよ混迷としてきましたね。退場した人も怪しい