赤とんぼリリウム

九重杏也

4 夏の暑さは退かない(脚本)

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〇通学路
莉々子「本日はありがとうございました」
いろみ母「またいらっしゃいね」
莉々子「はい! いろみちゃん、また明日」
いろみ「うん。また明日」
  最後に軽く笑いかけて、莉々子は帰っていった。
  私は莉々子の背中が夜闇に消えて見えなくなるまで見送ってから、家の中へと戻った。

〇おしゃれなリビングダイニング
いろみ母「いやーいい子だったねえ。料理おいしい言ってくれて」
いろみ母「高級ふりかけを振る舞った甲斐があったわあ」
  ママはキッチンで食器を洗っていた。
いろみ「それだとふりかけがおいしかっただけに聞こえる」
いろみ母「それでもいいの♪」
いろみ「いいんだ・・・・・・」
  主婦としての沽券にかかわりはしないのだろうか。
いろみ母「それよりもね、ママはいろみが友だち連れてきてホッとしたの」
いろみ母「今の学校に通うようになって初めてだもの」
いろみ「・・・・・・そうだったっけ」
いろみ母「そうよ。夏休みになってからよく話してくれるようになったけど、莉々子ちゃん、実在していたのね」
いろみ母「架空の人物じゃなかったのね」
いろみ「私が妄想癖あるように聞こえて不安になる」
いろみ母「だってめっきり友だちをつれてこなくなったじゃない、いろみ」
いろみ母「心配にもなるわ」
いろみ「それは、私だってもう遊んでばかりの年じゃないから」
いろみ母「バカおっしゃいな」
いろみ母「まだまだ子どもの強がりよ」
いろみ「ふんっ」
いろみ母「いろみ、遊び心は忘れちゃいけないの」
いろみ母「これからもお勉強は一生続くし、出来ること、出来ないことの両方に苦しむわ」
いろみ母「そんなとき、楽しかった気持ちを大事にしていれば、きっとうまくいくから」
いろみ母「それが人生――ってね」
  なんか説法でも説かれてるような。
いろみ「ママは楽しかったの?」
いろみ母「もちろん」
いろみ母「いろみの友だちに料理を振る舞えて、お話し出来て、楽しかったわ」
いろみ母「莉々子ちゃん、ほんといい子ねえ」
いろみ「そっか」
  どうやらママは非常に莉々子を気に入ったと思っていいのかな。
  だとしたら、それは、良かった。
いろみ「私は気が気ではなかったのだけど」
いろみ母「いろみ、お父さんが帰ってくる前にお風呂入ってきなさいな」
いろみ「そうする」

〇白いバスルーム
  私と莉々子は今年の春から同じクラスになった。
  1学期。最初のうちは接点がなかった。
  莉々子は大人しくて、休憩の時間なんかでは本をよく読んでいる印象だった。
  それでいて、友だちによく頼られているのを目にしている。
  決して孤立しているわけでなく、あくまで静かで、穏やか。
  対して私は雑に友だちとダベることが多い。
  机には座るし声がデカいとクラスメイトに言われるわで、しとやかさの欠片もない。
  陽キャと陰キャの住み分けってほど大げさではないと思うけど、
  属しているコミュニティが違えば大概は話す機会もない。
  仲良くなるなんてもってのほかというやつ。
  ――だったのだけど。

〇学校の下駄箱
  ある日靴箱に手紙が入っていた。
  私は最初、またかとため息を吐いた。
  顔がいいのかキャラウケがいいのか知らないけど、去年も、もっと言うと中学でも、そういうのはいくつかあったのだ。
  でもそのたびに断わり続けてきた。
  女の子に大評判のサッカー部男子もフッたから、ちょっとしたウワサになっていてもおかしくはない。
  聞こえてきた試しはないけど。
  あーあーまたごめんなさいしなきゃいけないのね、はいはい今回は校舎裏ねーって出向いてみれば──

〇体育館の裏
  そこに居たのはクラスの女の子。
  ブッキングしちゃってるよそんなことあるぅときびすを返すより先に、向こうが私に気づいて近寄ってきた。
莉々子「私と、つ、付き合ってください!」
  予想だにしていなかった事態だった。
  クラスメイトの女の子にコクられるだなんて。
  私は答えに窮した。
  うろたえていたのかもしれない。
  ただ、目の前の女の子の、目をぎゅっと閉じて、両手を合わせて、必死に祈っているかのような仕草を無下には出来ず仕舞い。
  悩んでしまった時点で負けなのだった。
いろみ「あ、うん・・・・・・」
  と、容易に頷いてみせた。
  それが夏休み直前のこと。

〇女の子の一人部屋
  以来、私と莉々子は付き合っている。
  一応恋人というカテゴライズだが、何をすれば恋仲なのか分かっていない。
  ふたりとも女の子だし。好きって難しい。
  夏休みは振り返ればあっという間だったけど、莉々子と遊びに行った時間はたくさんあった。
  でもあんなにべったりしたのは今までになかったと思う。
  自室に戻ってきてテーブルを一瞥した。
  夏休みももう終わり。
  がんばって終わらせた散らばった宿題をまとめて、支度をしなくてはいけない。
いろみ「明日から学校かぁ」
  髪も乾かないままに、私はベッドにダイブする。
いろみ「・・・・・・んー」
  いつもと違う匂いがする。
  莉々子の匂いだ。
  ふと、脚をバタつかせてはしゃぐ莉々子を思い出す。
  それから、触った時の柔らかい感触。
いろみ「キス、しなかったな・・・・・・」
  してもいいと思った。
  でも莉々子は誘ってきたくせに誤魔化した。
  ホント、何だったんだろう。
  というか、私はそれでいいのか。
  女の子とファーストキスでいいのか。
  私は、ノーマルではなかったのか。
  私の好きとは何だ?
  いやでもそのくらい大したことじゃないでしょキスだよキス程度性別なんて関係ない外国では挨拶のようにちゅっちゅしてるだろうし
いろみ「って、もうバカー!」
  とめどない煩悩を振り払うように上体を起こして座り込んだ。
  視線の先、ドアのすぐ横に、衣装棚。
  その上に飾ってある、手を繋いで仲良さそうに笑うふたりの写真。
いろみ「あっ」
  そっか、あの時、莉々子はあの写真を見ていたんだ。
  中学の頃の、私と、玲(れい)の写真を。

〇教室
  翌日、月曜日。
えにし「おっはよーいろみ!」
いろみ「ふあぁ。えにしおはよー」
えにし「おうさ」
  始業を告げるチャイムと同時にやってきた友だちのえにしと軽く挨拶を交わし、私は机から顔を上げる。
  新学期の始まり。
  なお私はどうしてか早く着いてしまっていたのでまどろんでいた。
  盗み見るように目だけで教室を見回し、変わり映えのないクラスメイトたちを確認していく。
  そして最後に、本に視線を落としている莉々子に目が留まり、なんとなくホッとした。
先生「はい注目。皆さん久しぶりです。おはようございます」
  担任の先生がやって来て朗らかにしゃべりだす。
先生「今日から新学期ですが、充実した夏休みでしたか?」
先生「先生は皆さんの宿題にしていた日記を見るのが楽しみでなりません」
  先生は前より黒くなってる気がする。
  日に焼けるような休暇をエンジョイしたんだろうな。
先生「この後は体育館で始業式がありますが、その前に、なんと転入生の紹介です」
先生「はい、どうぞ」
???「はいっ!」
  返事と共にその人は教室に入ってきて先生の横に立った。
辰喜「転校してきました。黒羽辰喜(くろばたつき)と言います」
辰喜「よろしくお願いします」
  驚くべきことに、昨日コンビニ前で会った不審者だった。

次のエピソード:5 生態観察

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