鎖女の話をするな

鳥谷綾斗🎩🦉(たまに風花ユク❄️)

第3話/騎士さまみたいだった(脚本)

鎖女の話をするな

鳥谷綾斗🎩🦉(たまに風花ユク❄️)

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〇空き地
  鎖女の動きが止まった。
  苦しげにうめいて、膝を折る。
  あたしたちが黒板を引っかく音を厭うように、鎖女はその不思議な音色でのたうちまわる。

〇空き地
  グイッ
莉々子「あっ!!」
  呆然としていると、肩をつかまれて引っ張られた。
柏木「無事か!?」
莉々子「柏木先輩!?」
  柏木先輩のたくましい腕に抱えられて、一気に現実感が戻ってきた。
柏木「俺から離れるなよ」
莉々子「・・・っ!?」
莉々子((えぇ・・・?))
柏木「──鎖女」
柏木「今度こそ祓ってやる!!」
  柏木先輩は、空いている左手でポケットからガラスの小瓶を取り出した。
  小瓶を開けると、ふわっと、さわやかなお花の香りがあたしの鼻をくすぐる。
柏木「祓いたまえ、清めたまえ!」
  バシャッ
×××「アァアアアアァアアア!!」
  ガチャガチャッ、ジャラッ!!
  鎖女が地面に倒れた。激しく全身を痙攣させて、激しく金属音を立てる。
  それでも、
×××「やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!」
  そう言い続けた。

〇空き地
×××「やめ・・・ろ・・・」

〇空き地

〇空き地
  鎖女が、消えた。
  真夏の車のボンネットに水をかけて発生する水蒸気みたいに、跡形もなく。
柏木「大丈夫か?」
莉々子「あ・・・」
柏木「怪我はないようだが、どこか痛むか?」
莉々子「あ、あぅ・・・」
柏木「だから鎖女の話をするなと言っただろう」
  そうだ、あれは鎖女。
  怪談の世界にだけいるはずの、異形のモノ。
莉々子((あの噂は本当だったんだ・・・))
莉々子((・・・いや、))
莉々子((それもだけど今は何より・・・))
莉々子「あ、あの・・・柏木先輩、その・・・」
柏木「ん?」
莉々子「近い・・・です」
柏木「!?」
  あーーーーあたしの耳、熱い!
  たぶんほっぺたも真っ赤っ赤になっちゃってる!
  だって肩がっつりつかまれちゃってさ、抱き寄せられてさ、
  キスしそーな距離なんだもん今!!
  こんなド近くでイケメンの顔を拝んだことない!
  さっきまで怖くて縮こまっていた心臓が、めっちゃ暴れてる!!
柏木「すまんっ!」
  柏木先輩がパッと手を離した。
  その熱い手のひらが、なんとなく惜しく感じた。
柏木「助けなくてはと焦るあまりに、女性に失礼なことをした」
柏木「・・・悪かった」
  大きな手で額を抑えて、気まずそうに謝る先輩。
  気のせいかな・・・先輩のほっぺたがちょっぴり赤くなってる気がする。
莉々子((いやいやいや・・・))
莉々子((さっきまで死にそーに怖かったのに、何考えてんのあたし))
莉々子「(感情がバグってる・・・)」
莉々子((・・・ていうか今『女性』って言った・・・))
莉々子((見かけによらず、意外と紳士的な言葉遣いだな・・・?))
莉々子「大丈夫です。あの、助けてくれてありがとうございました」
  頭を下げてお礼を述べると、柏木先輩はたたずまいを直した。
柏木「あー・・・つまり」
柏木「こういうことだ」
莉々子「こういうこと・・・なんですね」
  鎖女は実在する。
  
  つまりそういうことなのだ。
柏木「実はこれまで、鎖女を5回ほど祓ったことがある」
莉々子「えっ?」
  予想外の言葉に、目を見張った。

〇通学路
  場所を変えながら、その話の続きを聞く。
莉々子「祓ったっていうのは、あの小瓶のお水をかけたやつ、ですか?」
柏木「そう。あれは、俺の退魔師としての師匠が作ったもので、強い浄化の作用がある」
柏木「さっき動きを止めるために吹いた、魔除けの笛もそうだ」
柏木「先ほどのように雲散霧消したら浄化された証なんだが・・・」
柏木「どういうわけか鎖女はすぐに復活する」
柏木「何度でも噂話をした人間の前に現れるんだ」
莉々子「(何度でも・・・)」
  その言葉を噛み締めて、改めてゾッとした。
莉々子((あたしはどっちかって言うと、ホラー系に強い))
莉々子((お化け屋敷だって平気だし、心霊写真や動画なんて鼻で笑っちゃう))
莉々子((それなのに・・・))

〇空き地
  鎖女の前では、声もロクに出せなかった。
  初めて出会った、自分と『違いすぎる』モノ。
  存在する世界線が徹底的に異なるモノ。

〇通学路
莉々子((・・・本当の恐怖って))
莉々子((思考を真っ白にさせるんだな・・・))
柏木「──どこだ?」
莉々子「へ?」
  とっ散らかった考えを整理していると、先輩の渋い声音が落ちてきた。
柏木「家、どこだ。送る」
  先輩が指をさした先には、大型のバイクがあった。
  よく磨かれた黒いボディ。バイクに詳しくないあたしでも、カッコイイと思っちゃうレベルだ。
莉々子「いっ、いいですいいです!」
莉々子「うち、すぐ近くですし!」
  慌てて高速で首を振るあたしに、柏木先輩は目を細めた。
柏木「また鎖女が現れる可能性がある」
柏木「頼むから送らせてくれ」
  真剣な表情で、顔を覗き込まれた。
  じっと見つめられる。
  綺麗な目だった。
莉々子「・・・はい」
  こくり、と頷くと、
柏木「・・・よかった」
  先輩は口元に微かに笑みをにじませた。
  バイクのブレーキランプの上につけたケースから、ヘルメットを取り出して、
  それをあたしに被せてくれた。
  先輩にあごヒモを結んでもらう間、あたしの胸は、ずっとドキドキしていた。

〇一戸建て
  先輩のバイクに乗せてもらって、家に着いた。
莉々子「ありがとうございました、色々と・・・」
柏木「ああ」
  別れを告げても、先輩はバイクにまたがったまま去ろうとはしなかった。
莉々子「(あたしが家に入るまで)」
莉々子「(見守ってくれてるんだ・・・)」

〇シンプルな玄関
  玄関のドアを閉めると、遠ざかるバイクのエンジン音が聞こえた。
莉々子「・・・」
  名残惜しさに、しばらく動けなかった。

〇女の子の部屋
  部屋に入って、ベッドに倒れ込んだ。
莉々子「・・・まだ、心臓がドキドキしてる」
莉々子「はーー・・・」
莉々子「今日はものすごいヤバい目に遭ったな・・・」
莉々子「まさかお化けに襲われるなんて・・・今夜眠れるかなぁ」
莉々子「・・・でも」
  そっと、自分の肩に触れてみる。
莉々子「(柏木先輩の手、熱かったな・・・)」
  肩に残った先輩の手の熱が、いつまでも引かない。
莉々子((柏木先輩・・・))
莉々子((まるで王子さま・・・ううん))
莉々子「騎士(ナイト)さまみたいだった・・・」
  生まれて初めてホンモノの幽霊を見た。
  でもあたしの頭は、柏木先輩のことでいっぱいだった。

次のエピソード:第4話/先輩の彼氏力が高すぎる

コメント

  • ついに鎖女の正体が明らかになりましたね。それにしても莉々子ちゃん、安堵感の次が恋愛感情って、根っからの恋愛体質さんですね!

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