第二話 『空と海が交わるところ』(脚本)
〇雲の上
私は、女の子が好きだ
〇マンション前の大通り
「本当に行っちゃうんですね 先輩」
レイン「ニューヨークの大学なんて 遠いなあ」
同じマンションに住む幼なじみ
私の家庭教師でもあった、お姉さん
私はいつしか内なる感情を秘めながら
彼女を「先輩」と呼び慕っていた
先輩「やれやれ── これでやっと 問題児の子守りから解放されると思うと せいせいするよ」
レイン「ひっどい こんな可愛い女の子に もう会えなくなっちゃうんですよ?」
レイン「最後に、もっと言っておくべき事が あるんじゃないですか?」
〇雲の上
そう もっと言っておくべき事があったのだ
──私には
〇マンション前の大通り
レイン「先輩 大好きでした」
先輩「ありがとう 私も大好きだったよ、レイン」
〇雲の上
私の『大好き』と 先輩の『大好き』は
決して交じり合うことはない
そう 思っていたのに
〇マンション前の大通り
「この子がね ホームステイ中に向こうで出来た」
先輩「私のガールフレンド」
レイン「え・・・ガールフレンド?」
先輩「恋人 って意味だよ・・・?」
レイン「女の子・・・なんだ」
先輩「うん そう 女の子 名前はミアっていうの」
先輩「好奇心旺盛で とっても強いのに どうしてかな 守ってあげたくなる人」
先輩「変だって思う・・・?」
レイン「え ううんっ そんな全然」
レイン「とっても素敵なひとなんだろうなって 写真からも伝わってきます」
先輩「フフ 本当かー? けどありがとう」
先輩「黙っててごめん レインに偏見があるなんて 疑ってたわけじゃないから」
先輩「私に意気地が無かっただけ こっちでは誰にも言えなかったんだ」
レイン「・・・」
先輩「この子といれば 向こうの世界なら」
先輩「『本当の私』でいられる── これからは、もう何も隠さない」
レイン「──」
〇雲の上
ズルいよ先輩 自分だけ
私なら 先輩を受け入れてあげたのに
〇マンション前の大通り
ねえ、先輩
私のこと、好き──?
私のその言葉は
きっと先輩には正しく伝わらない
私は間違えた
『その時』を逃したんだ
〇大樹の下
月居ゆず葉「待ちなさいっ!!」
〇教室
もう何も間違えない
本当の自分を隠さない
そう生きようと決めて
孤立してしまった私の前に──
〇大樹の下
月居ゆず葉「と、通りすがりの、”普通”の女よ」
現れたんだ
先輩によく似た 素敵な女性が──
レイン「お、お姉さんっ」
レイン「私と──お付き合いしてくださいっ!!」
〇空
〇並木道
月居ゆず葉「はーあ。厄介な子助けちゃったな」
新山ルミ「君さ、いいのー? 高校は行かなくて」
レイン「今日、初めてサボっちゃいました 私、学業は優秀なんです」
レイン「あ でも孤立した空気に負けて 来れなくなったと思われたらやだな」
新山ルミ「なに君 学校じゃ孤立してる訳?」
レイン「そうなんですよー 聞いてくださいよ」
レイン「入学初日に、”私は女の子が好きです”って 公表したら、友達ゼロです」
レイン「今時の学校がそこまで遅れてるって 思わないじゃないですかー」
月居ゆず葉「あっけらかんと言うのね・・・ 怖くないの?」
レイン「お姉さんは 怖いんですか?」
月居ゆず葉「へ? なにが」
レイン「『本当の自分』を 主張することがです」
月居ゆず葉「そ、そりゃ」
月居ゆず葉「自分がひとと違ったら 世間体とかね もっとうまくやらないと」
月居ゆず葉「主張もいいけど 慎重にやらなきゃ まず周囲に同調してくれる人を増やして」
レイン「うんうん 臆病なんですね」
月居ゆず葉「む・・・」
月居ゆず葉「生意気ー」
レイン「そんな悠長なことしていたら 出会いは逃げていっちゃうんですよ」
月居ゆず葉「自分の気持ちだけ伝えたら 相手にもわかってもらえるだなんて」
月居ゆず葉「──それこそ甘いわ まだまだ子どもなんだな」
レイン「む・・・」
新山ルミ「まあまあ 君はまだ高校入学したてでしょ」
新山ルミ「きっと理由はなんでもいいのよ 周囲から浮いてしまった子を狙って」
新山ルミ「みんなでその子を遠巻きに見ることで 連帯感を抱くのに利用されてるのかもね」
レイン「そうなんですよ もう手遅れなんですよー でもカミングアウトしちゃいましたから」
レイン「こうなったら高校は雌伏の時として 次は充実した大学生活を目指します」
レイン「だからー ね、お姉さん 今日は大学案内、してください」
月居ゆず葉「えええ そういう流れ?」
新山ルミ「いいじゃない 面白い未来の後輩 私は嫌いじゃないわ、こういう子」
レイン「やったー ルミさん大好き でも好みじゃないんですごめんなさい」
新山ルミ「えっ!? 唐突にフラれた」
月居ゆず葉「他人ごとだと思って・・・」
新山ルミ「言ったじゃん? 周囲の同調者が必要だって」
新山ルミ「ゆずちゃんがその第一号になってあげなよ」
新山ルミ「もしかして同性愛ムリな人? 宗教上の理由で認められないとか?」
月居ゆず葉「へっ!? そんなことないよ」
月居ゆず葉「いいんじゃない? 世界には、色んな人がいて」
月居ゆず葉「私はそういうのよくわからないから 無責任なことは言えないけれどね」
レイン「じゃ してくれるんですね、案内 やったー」
月居ゆず葉「あれ? 私 いつOKしたの?」
レイン「──」
月居ゆず葉(強引に押し切られてしまった・・・ なんなのよ、この子)
〇大学の広場
月居ゆず葉「──」
〇大教室
レイン「──」
〇テーブル席
──
レイン「──」
〇学校の部室
月居ゆず葉「ここが 映画サークルの部室で── ありゃ まだ誰もいないか」
レイン「え オタクたちで雑談でもするんです? わざわざ大学入ってまで、サークルで?」
月居ゆず葉「コラコラ 言い方 主たる目的は自主映画制作のはずよ」
月居ゆず葉「・・・なんだけどね どうにも難航してるみたいなのよねー」
「ま あんまり紹介できることもないか」
「・・・」
???「・・・」
〇おしゃれな大学
月居ゆず葉「どう? 私もまだ新入生で 道案内くらいしか出来ないけど」
レイン「・・・ろい」
月居ゆず葉「へ?」
レイン「広ーいっ!!」
レイン「すごい 広い 世界って大きいんですね これだけ広ければ 私の居場所もあるかも」
月居ゆず葉(ああ 私も 入学したての頃は どこまでも広がってる気がしたな)
月居ゆず葉(私にぴったりの居場所も このどこかにはあるかもって)
月居ゆず葉(──現実は そんなに甘くなかったけどね)
レイン「ありますよ、きっと」
月居ゆず葉「へっ? 聞こえてた?」
レイン「ああ 今すぐ退屈な高校を飛びだして 大学生になりたい」
レイン「そして素敵な女の子の恋人を作って 遅れてきた青春を取り返してやるんだ」
月居ゆず葉「──」
レイン「お姉さん?」
月居ゆず葉「あ ちがうの なんでもない」
月居ゆず葉「ただね あなたがちょっと まぶしくって」
レイン「ふーん・・・?」
月居ゆず葉「ま 恋人はムリでも 相談くらいなら乗ってあげるわよ」
月居ゆず葉「あなたのしあわせな計画が つまづいちゃったその時にはね」
レイン「えー? 意地悪。。。 お姉さんってそういう人だったんですね」
月居ゆず葉「そうよ~」
レイン「・・・フフッ」
〇雲の上
私の心は いつも空に浮かんでいた
この世界の”普通”から離れて──
降り立つ場所もなく
〇並木道
レイン「今日は本当にありがとうございました 幸せな未来が見えてきた気がします」
月居ゆず葉「うらやましい性格しちゃって ──どういたしまして」
月居ゆず葉「これも何かの縁だしね 今日は ま、私も楽しかったわ」
レイン「それで、お姉さん 今度こそ考えてくれましたか?」
月居ゆず葉「うん?」
レイン「だからー」
レイン「私と真剣交際 してみませんか?」
月居ゆず葉「あのねえ・・・」
月居ゆず葉「ううん 真剣に答えるわね」
レイン「あ・・・はいっ」
月居ゆず葉「私は あなたとはお付き合い出来ません」
レイン「私が 女の子、だから?」
月居ゆず葉「────いいえ」
〇雲の上
〇並木道
月居ゆず葉「そうじゃないわ 決して」
レイン「・・・だったら、どうして」
月居ゆず葉「それはね」
月居ゆず葉「どうしたってあなたはまだ子どもで」
月居ゆず葉「私はまだあなたのことを よく知らなくて──それから」
レイン「それから?」
月居ゆず葉「そうね ハッキリ伝えた方がいいわね」
月居ゆず葉「それから── あなた ずけずけと踏み込んでくるじゃない」
月居ゆず葉「そういうところ 人として あまり好きじゃないの」
月居ゆず葉「恋人になるかも知れない相手なら なおさらだよ」
月居ゆず葉「だから ごめんね?」
レイン「あ・・・」
レイン「う・・・」
レイン「ウエッ・・・ヒック・・・」
月居ゆず葉「あ だから、ごめんね? ってば 言い過ぎちゃったかしら」
レイン「いえ、違うんです・・・」
レイン「私、嬉しいんですっ!!!!!!」
月居ゆず葉「はっ はあ~?」
〇雲の上
私の『好き』と この人の『好きじゃない』は
──同じ地平で 交わっている
〇雲の上
同じ意味の──『好き』だ
〇水色(ライト)
〇海辺
世界から浮いていた私の心が
やっと 地に足をつけた気がする
〇並木道
レイン「スン・・・ スン・・・」
月居ゆず葉「もー 感情豊かな子なんだから ホラ これで拭いて」
レイン「えへへ ありがとうございます」
レイン「私のこと 恋人候補として 一人の女として見てくれて」
月居ゆず葉「もう 気は済んだかな?」
月居ゆず葉(これでやっと 解放されるかしら)
レイン「じゃあ、一度だけ」
月居ゆず葉「・・・はい?」
レイン「最後に一度だけ── 本当のデートに付き合って下さい!!」
月居ゆず葉「ど・・・!」
月居ゆず葉「どうしてそうなるの!?」
〇空
先輩──
私、もう間違えないよ