安全な狩りのはずが…!?(脚本)
〇森の中
あたりが薄闇に包まれる。さっきまで快晴だったのに。
タケル「な──!?」
そこに現れていたのは、異形だった。
「ヘイズルーン!? こんなことって・・・!」
しばしの間、固まって愕然とするユーヤ。
タケル「ユーヤしっかりしろっ、とにかくこいつも倒せばいいんだな?」
ユーヤ「うん、でも気を付けて! このモンスター、どんな攻撃するか知らないの!」
タケル「分かった! 慎重にいく!」
俺は刀を構える。じっとりと掌に汗がにじむのが分かった。
牽制をするかのようにお互いにらみ合う。
タケル「はぁあああああ!!」
先に攻撃を仕掛けたのは俺だった。
タケル(まずは、腹を狙うっ!)
胴体に狙いを定めて、一気に距離を詰める。
ヘイズルーン「グゴオオオオオオ・・・」
低く唸るモンスター。
その手に、光が集まり武器になった。
タケル「何だこれ・・・斧か!?」
ユーヤ「ダメっ、下がって!」
悲壮なユーヤの声に反応して、俺は反射的に右に避ける。
ヘイズルーン「グゴオオオオオオ!!」
雄叫びを上げながら、斧を振り下ろした。
タケル「うわっ!」
地面が激しく揺れ、体が跳ねる。
タケル「嘘だろ、地面が抉れて・・・」
俺がさっきまでいた地面は抉れ、子どもがすっぽり収まりそうな穴になっていた。
タケル「これじゃ、近づけない・・・」
ユーヤ「くっ、じゃあ魔法で!」
彼女は杖を掲げる。
ユーヤ「燃やし尽くせ、ニーナ!」
彼女は、魔法を唱えモンスターに放つ。
ヘイズルーン「ガアアアアアッ!!」
再び咆哮し、全身に電撃をまとわせて魔法を跳ね返す。
ユーヤ「跳ね返された!?」
ヘイズルーン「ゴオオオオオオオォォ!!」
そして、ユーヤに向かって地を蹴り飛んできた。
ユーヤ「キャっ!」
タケル「危ないッ!」
タケル「はぁあああああ!!」
俺はユーヤの前に出て庇う。
タケル「受けとめきれるか・・・?」
だが、受けとめなければユーヤが危ない。
衝撃を覚悟して、上段の構えをすると。
ヘイズルーン「ゴォォオオオオ・・・?」
ヘイズルーンは驚いた声を上げる。
タケル(あれは・・・)
右脚には、淡く光る枷が嵌められ、鎖で繋がれている。
タケル(あのときの罠か!)
タケル「ふっ!」
時間にして数秒。その場から離れるのには十分だった。
ユーヤ「タケルッ、大丈夫?」
タケル「ああ! 問題ないっ」
ユーヤ「間に合って良かった~!」
ほっとするユーヤ。優しい彼女の表情に、俺も心が和らいだ。
タケル「ああ、ユーヤのおかげだ!」
ユーヤ「さっき設置した罠が役に立ったね!」
タケル「あれはさっきの罠だったのか」
ユーヤが仕掛けてくれていた罠。
そのおかげで俺は命拾いをすることになった。
タケル「今の鎖、まだ残ってるのか?」
ユーヤ「う、うん! 6つ残ってる!」
タケル「今みたいに使えるのか?」
ユーヤ「もちろん!」
タケル「じゃあ、俺はアイツを引きつける。ユーヤは罠で足止めをしてくれ!」
ユーヤ「任せてっ!」
タケル「いくぞ――かかってこい!」
俺は改めて、ヘイズルーンに向き直ったのだった。
〇森の中
ヘイズルーン「ゴォオオオ!!」
怒りで突進してくるヘイズルーン。
タケル(避けるだけ・・・今はそれだけでいい)
目に動きを焼き付けて相手の動きを見切る。
流れる水のように、地面を駆け抜けた。
ヘイズルーン「グガァァァ!!」
ヘイズルーンは斧を横に薙ぎ払う。
タケル「ふっ!」
俺はそれを飛び上がって避ける。
タケル「ユーヤ! 頼むっ!」
ユーヤ「まかせて!」
ユーヤ「愚か者を縛りなさい、チャクナイ!」
俺の背後からジャランと鎖が飛び出す音が聞こえた。
ヘイズルーン「グォォオオ・・・」
1つの枷が右手に嵌まる。
――だが、敵は逆手で斧を振り下ろし、鎖を断ち切った。
ユーヤ「くっ、これじゃ繋ぎ止めれないよ!」
タケル「大丈夫だ! このまま続けてくれっ!」
ユーヤ「わ、分かった! タケルを信じるから!」
ヘイズルーン「グガァアアアアア!!」
斧を構え直し、ヘイズルーンはユーヤに向かって駆けだしていく。
タケル「させるかっ!」
俺に背を向けた一瞬の隙を狙って飛び出す。
そして一気に、奴の懐に距離を詰め、下から上に切りつけた。
ヘイズルーン「グガッッ」
肉を断つ刃の音。刀伝いに手応えを確かに感じていた。
ヘイズルーン「ギィアッ!」
短く叫び、ヘイズルーンは斧を振り下ろす。
タケル「遅いッ」
それを体を捻って間髪入れて避け、刃を振りかざす。
その背に、一直線の傷を付けた。
ヘイズルーン「グアアアアアアァァァ!!」
化け物の絶叫がこだまする。
タケル(こいつ、フェンリルより見切りやすい・・・)
居合いの詰め方、肉体の動きが分かりやすい。
ヘイズルーン「グゥゥオオオオ!!」
そんな風に油断していると──雷撃を含んだ波動が飛んでくる。
タケル「わッ!」
それを飛び上がって避ける。当たるすれすれだった。
タケル「うぉっ、あっぶねー!」
タケル「後ろ丸焦げじゃん!?」
間一髪で避けれたものの、後ろの木は丸焦げになっていた。
ユーヤ「気を付けて! 雷属性の魔法は当たったら即死よッ」
タケル「ま、まじか!!」
ヘイズルーン「グォオオオオオオオ!!!!」
ユーヤ「危ないッ、チャクナイ!」
ユーヤは杖を掲げ、その場で1周する。
ふわりと、長い髪を揺らし、再び拘束の呪文を唱えた。
大きな魔方陣が、地上に広がり無数の鎖が手、足、首と全身を拘束する。
タケル「す、すげえ!」
ユーヤ「鎖これで全部なのッ! 早くトドメを刺して!」
焦燥した表情で悲痛な声を上げるユーヤ。
タケル(ここで逃したらやられる――絶対にトドメを刺してやる!!)
そう心に決めて刀を握りなおす。振り払おうとしたそのとき。
ヘイズルーン「グガァァァアアアアア!!」
右手の鎖を強引に引きちぎるヘイズルーン。斧には電撃がまとわりついていて──。
タケル「まさか──投げるつもりか!?」
ユーヤ「タケル!! 私に構わず倒して!!」
俺の不安を感じ取ったのか、ユーヤは集中しろと言ってくる。
タケル「分かった!」
これ以上のチャンスはもう無い。だったら、コイツを叩き斬るだけだ。
タケル「はあぁぁぁ!!」
ヘイズルーンが振りかぶり、斧を投げる寸前──俺は腕を切り落とす。
ヘイズルーン「グアッアアアアアア!!」
タケル「トドメだ、覚悟しろっ!」
タケル「はあぁぁぁあああ!!」
そのまま連続で斬りつける。反撃を許さぬ連続攻撃が決まった。
ヘイズルーン「ガッ・・・」
そして化け物はその場に崩れ落ちた。
見応えのあるバトルシーンですね。手に汗握る見事な攻防で。それと、夏は夏で様々な季節性の感染症もありますので、どうぞご自愛ください。