初めての野宿~眠れないんですけどっ!~(脚本)
〇森の中
ヘイズルーン「キィィィィ・・・」
化け物は光に包まれて消え、元のトナカイの姿に戻る。
そして、力尽きたのかその場に倒れた。
曇り空だった周りの景色も元に戻り、夕方になっていた。
タケル「やった! 倒したぞ!」
ユーヤ「すごい! また倒しちゃうなんて~」
タケル「ユーヤのサポートがあってこそだぞ!」
タケル「ところで、こいつのことだけど・・・さっきユーヤは何か言おうとしてたのか?」
ユーヤ「えっとね、ヘイズルーンがこうなったのってやっぱり、スルトのせいかなって」
タケル「スルト・・・ユーヤが倒しに行くっていう化け物か?」
ユーヤ「そう、アイツはもう起きてる。だから被害が出る前に倒しに行かないと・・・」
タケル「起きるって、いつもは冬眠でもしてるのか?」
ユーヤ「ううん。毎回誰かが魔術で封印してるの。でも切れちゃうとこうやって悪さをするから・・・」
ユーヤ「私が倒したいんだ・・・!」
タケル「そうか・・・じゃあ俺もっと強くならなきゃな!」
ユーヤ「えっ──」
タケル「? そんな驚くようなこと言ったか?」
ユーヤ「そ、そうかな? ――うん、タケルも来てくれるんなら百人力だよ♪」
タケル(なんだかよそよそしいな・・・)
歯切れの悪いユーヤに何となく違和感を覚える。
ユーヤ「狩りも終わったし、テント張って休もうよ~」
イェンティ「ぶぉうふっ!」
ユーヤ「あ、イェンティ~! ちゃんと隠れてた?」
イェンティ「ブルッ!」
タケル「ははっ、お前が無事で良かったよ!」
タケル「いざとなったときの、大事な食料だからな!」
イェンティ「ひゅぅ・・・」
ユーヤ「こらー! イェンティ怖がってるでしょ!」
ユーヤは俺の頭を杖で軽く叩く。
タケル「いでっ、冗談だって・・・」
イェンティ「ブルルンッ!」
そんなやり取りを見たイェンティは笑う。
ユーヤ「ふふっ、まあイェンティも楽しそうにしてるしいっか!」
ユーヤ「日も暮れてきたし、この辺りで野宿しようと思うけど、どう?」
タケル「賛成! 準備手伝うよ~」
俺たちはキャンプの準備にとりかかったのだった。
〇森の中
野宿ということで、まずはテントを広げようと思ったが。
タケル「キャンプっつっても、ユーヤテント持ってたっけ?」
泊まりがけで登山をする人はもっと重装備だったのではないかと思い出したのだ。
ユーヤもイェンティも、とても長旅ができるような荷物を持っていないように見える。
ユーヤ「それはね~、魔法で道具を小さくしてるんだ」
ユーヤ「だから、こんなふうに・・・私の声に答えるのなら浮游せよ、ツィツィー!」
杖をイェンティのサイドバックに向け、呪文を唱えるユーヤ。
イェンティ「ブルンッ!」
イェンティは嘶きをあげて、こちらに体を向ける。バックがひとりでに空いてモノが飛び出した。
タケル「うわっ、なんか出てきた!」
それらはまるでおもちゃのような家具やテントだった。
ユーヤ「どいてどいて~そこに置いちゃうから」
ユーヤ「・・・そして小さきものは大きなものに、トゥキー!」
呪文を唱えると、ミニマムサイズだったものがどんどん大きくなる。
そして、人が使うぐらいのサイズになった。
タケル「へー・・・こんなこともできるんだ。これも魔法?」
ユーヤ「ふふっ、すごいでしょ〜! 私、こういう魔法得意なんだ」
イェンティ「ヴォフッ!」
イェンティも賛同している。きっと今までの旅でも役に立ってきた魔法なのだろう。
ユーヤ「えっとぉ、かまどは真ん中において・・・ヘイズルーンを調理しちゃおう♪」
タケル「あ、あれ食うのか・・・?」
今は鹿の姿をしているが、化け物として襲ってきたことを考えると、少し食べづらい。
ユーヤ「? ヘイズルーン結構美味しいよ?」
引き気味の俺のことを知らずにか、ユーヤは笑顔で答える。
タケル(ん~、そういう意味じゃないんだけどな・・・)
タケル「まっ! いっか! よし、解体はまかせろよ~」
ユーヤ「ありがと! じゃあこのナイフで捌いて~」
ユーヤは、小さいナイフを渡してくる。
ユーヤ「魔法で切りやすくしてるから、お肉簡単に切れるの! 気を付けてね~」
タケル「おう、分かった!」
俺は、彼女と夕飯の準備に取りかかったのだった。
〇森の中
食事を食べ終わったころには、もう日が落ちて真っ暗になっていた。
タケル「ごちそうさま。料理美味しかったよ」
ユーヤ「どういたしまして~」
タケル「腹も膨れたところで、話があるんだけど・・・」
ユーヤ「ん、なあに?」
タケル「スルトってやつのこと、もっと教えてくれないか?」
タケル「あいつ大人しい動物も、モンスターに変えちまうんだろ ? どんな奴か知りたい」
ユーヤ「そうだね・・・私も見たことはないんだけど、炎をまとった人型のモンスターらしいの」
ユーヤ「本気を出したら、村1つ燃やされちゃうって話も聞いたことあるんだ」
タケル「ま、まじか・・・!」
ユーヤ「人や家畜も襲ってね。この前起きたとき、この山の村や町は酷い被害にあったらしくて・・・」
ユーヤ「だから、今回は被害が出る前に倒したいんだ!」
タケル「そっか・・・ユーヤは人のためにスルトを倒しに行くんだな」
彼女が過酷な旅をしてまで、倒しに行こうとするのに納得した。
タケル「あれ? そいやお前、他に仲間はいないのか?」
ふと、恐ろしい怪物を倒しにいくのに、他に仲間を連れていないことを疑問に思う。
イェンティ「ブルルルルル・・・」
ユーヤ「イェンティ怒ってるよ? 僕も仲間だって」
タケル「あー、わりい。そうだったな。お前も付いてきてるよな」
イェンティ「ヒヒーンッ!」
満足げに喉をならすイェンティ。仲間に入れてもらえて嬉しいみたいだ。
ユーヤ「話しを戻すけど・・・うん、スルトを倒しに行くのは私だけなの」
タケル「それっておかしくないか? なんでヤバいのを1人で倒しに行くんだよ」
ユーヤ「・・・仲間は連れて行けないの。封印するのは私だけで十分だから──」
タケル「封印・・・?」
ユーヤ「・・・何でもないよ! 夜も遅くなったね、タケルもイェンティも寝ちゃお♪」
イェンティ「ブルルッ!」
タケル「・・・・・・」
明るく話をそらされてしまい、俺はそれ以上言えなくなってしまった。
〇森の中
そして、食事を取った後。俺はテントの前にいた。ユーヤはこの中で準備をしているらしい。
タケル「はー、緊張するな・・・試合前のとき以上だ」
女の子と2人で寝るなんて初めてだ。当然、こんなことに免疫なんて無い。
ユーヤ「タケル~、入っていいよ〜!」
タケル「は、入るぞー」
何でもないように振る舞いつつ、テントの中に入った。
〇テントの中
ユーヤ「どうぞ~! 狭いけどゆっくりしてね♪」
タケル「ごめんな、俺は外でも良かったんだけど・・・」
ユーヤ「ダメだよ! イェンティはともかく、タケルは人間なんだから。屋根の下でしっかり休まないと!」
タケル「気遣ってくれてありがと・・・そういえばここ、いい匂いだな」
鼻から息を吸い込むと、ハーブ系の優しい匂いを感じる。
ユーヤ「あ、気づいてくれた? お気に入りのハーブの匂いなんだ」
ユーヤ「戦い続きで、大変だったからリラックスできたらと思って!」
タケル「ユーヤは気が利くな~」
ユーヤ「どういたしまして! 眠る場所はどうしようか・・・この辺りで横になれる?」
タケル「こ、こうか?」
俺は、その場に寝そべってみる。
ユーヤ「毛布掛けてあげる~、大きめ持ってきてよかったぁ~」
タケル(あったかくて気持ちいい・・・)
ひさびさの休息に睡魔が襲ってくるが・・・
ユーヤ「じゃあ、私も寝ちゃおう! よいしょっと」
そう言ってユーヤは、俺と体が触れそうな距離に横になってしまった。
タケル(わっ、む、胸がッ・・・当たって──)
背中に当たる柔らかい感触と、ユーヤの肌の感触を感じ、俺はパニクってしまう。
タケル「ちょ、ちょっと・・・近くないか?」
さすがに胸が当たってるとは言えず、俺はマイルドに指摘をする。
ユーヤ「? でも離れたら毛布からはみ出ちゃうよ?」
ユーヤは何でも無いように言ってくる。俺とこんなに距離が近いことにも無頓着だった。
タケル(こいつ、無自覚だな!?)
ユーヤ「ふぁーあ、お先に寝ちゃうね~、タケルおやすみ♪」
そう言って、彼女は先に眠りにつく。
タケル「・・・」
タケル「・・・・・・」
タケル(眠れない!)
悶々としながら、俺は毛布を頭まで被ったのだった。
ちょっとイイ感じの様子に、何だかニヤけてしまいますね。そして、少しずつ明かされるスルトの正体と、それを離すユーヤの変な様子。物語がどう進んでいくのか楽しみです。