いい女襲来!(脚本)
〇アパレルショップ
とある昼下がり。
美桜「おっかいーもの!おっかいーもの!」
水蛇「ご機嫌だな」
美桜「うん!今日は私の服を買いに来たの!」
水蛇「ふむ?美桜はどんなものが好きなんだ?」
美桜「うんとね、これかこれで迷ってるの」
そう言って美桜が突き出した右手にはピンクを基調とした可愛らしい半袖のパーカー。
左手には、黄色にオレンジのワンポイントが入った、長めの丈のTシャツ。
美桜「ししょー!」
高見「・・・。 どっちもいいんじゃ──」
美桜「こらー!ししょー!」
高見「あー、黄色の方か?」
美桜「その心は?!」
高見「洗いやすそう」
美桜「ししょー!!!!」
美桜はぷんすかご立腹の様子だった。
水蛇「・・・うむ。 高見、流石にそれは美桜も怒るだろう」
高見「大体こういう系統の服は美桜に似合うんだから、どっちも良いと思うが」
水蛇「・・・なるほど。 高見、お前はもう少し自分の考えを述べていくべきだな」
高見「気が向いたらな」
美桜はやや機嫌の直った顔で、両手の服を見比べている。
しかし、やはり最後の最後の一押しが足らずどちらか決めることができない。
困った美桜が高見を見上げた、その時──
理香「呼んだわね?! この私を呼んだわね?!」
高見「呼んでないから帰れ」
美桜「あ、理香ちゃんだ!」
突然上から理香が降ってきた。
美桜「理香ちゃん、今日のお洋服ひらひらで可愛いね!」
理香「ありがとう、美桜。 これは幻想惑星ルーイエ姫のコスプレよ」
美桜「んむ?」
理香「んふふ、大人の女の子の嗜みよ。 それより美桜はお困りのようね!」
美桜「うん。どっちのお洋服がいいかなーって。 理香ちゃんはどっちが良いと思う?」
美桜は両手に持った服を理香に見せた。
理香「そうねぇ・・・。 美桜はピンクと黄色、どっちが好きかしら?」
美桜「んとねー、どっちもすきだけど、ピンクのが好きかも!」
理香「そう、ならピンクになさいな。 他人なんて気にしないで、自分の好きな色を好きなように着れば良いのよ」
美桜「わかった。ありがとー!」
話がまとまったところで、高見は美桜の持っていた服を両方とも受け取ってレジに持っていく。
美桜「む? ピンクだけじゃないの?」
理香「いいのよ美桜。 良い女は男に貢がせてナンボだわ」
高見「・・・最近同じような服ばかりだったしな」
美桜「んむ?よく分かんないけどありがと ししょー!」
理香「美桜、良い女は察するものよ。 高見は美桜にどっちも欲しいっておねだりされたかったのよ」
美桜「そなの?」
高見「・・・」
高見「買ったんだからさっさと行くぞ」
〇繁華街の大通り
高見「・・・で。 お前はいつまでついてくる気だ?」
理香「そうねぇ、ただ見かけたからだけなんどけどね? というか高見、一ついいかしら?」
高見「なんだ?」
理香は美桜の後ろを見やる。
そうっとそちらを手で指し示した。
理香「この、・・・この方、ここにいて良い方なのかしら?」
理香「だ、だってあれでしょう? この方って水り──」
水蛇「ヘビさんだ」
高見「だそうだ」
理香「ええ・・・?」
理香は分かりやすく困惑している。
助けを求めるように美桜を見た。
美桜「む?」
理香「み、美桜? この方は水龍様よね?」
美桜「んむ? よく分かんないけど、ヘビさんだよ?」
水蛇「ヘビさんだが?」
理香「そうね!ヘビさんだわ!!」
理香は圧力に屈した。
水蛇「ふむ、高見。知り合いか?」
高見「ああ。一応同じ祓い人仲間で顔見知りだ」
水蛇「なるほど」
理香「お初にお目にかかりますわ、す・・・、 ヘビさん様。私は理香と申します」
水蛇「うむ。こちらこそ」
大人の会話を美桜が見上げていると、ふと視界に賑やかな楽しそうな光景が飛び込んできた。
美桜「あ、ヘビさんあれ見て! ちっちゃいサーカスみたいなのやってるよ!」
水蛇「ほう、興味深いな」
美桜「ねね、ししょー? 見に行ってきても良い?」
高見「ああ。あまり遠くに行くなよ。 あと知らない人に着いてくんじゃないぞ」
美桜「うん!ヘビさんいるから大丈夫! 行ってきます!」
水蛇「うむ、任せておけ」
高見「ああ」
美桜は水蛇の依代の小箱が入ったリュックを背負い直し、大道芸人の方へ歩いて行った。
高見達からもなんとか見える位置で、くるくる変わるパフォーマンスに目を輝かせている。
理香「・・・どちらかといえば水神に近いのかしら。 本当に良く美桜はあの依代の箱を持てるわね」
高見「ああ。あいつだからな」
高見と理香は道の端で声を潜めて会話をする。
理香「あの方をどこから連れてきたの? 答えによっては色々面倒になるけど?」
高見「俺が連れてきたんじゃない。依頼で送られてきた荷物に依代の箱が入ってた」
理香「依頼?誰から?」
高見「名前は聞いたが偽名だった。 連絡先ももう繋がらない」
高見「元々はあれの依代の箱の中で死んだ仔猫の呪いを解く依頼だった。そっちはもう終わってる」
理香「そう・・・」
理香は目を伏せた。
理香「・・・最近、祓い人協会内が不穏なの。 派閥争いやら裏切りやらでね。近いうちに会合が開かれる予定になっているわ」
理香「会合の参加者には、高見の名前も入ってる。・・・それから、美桜の名前も」
高見「美桜が?」
理香「どうも協会はあんたを連れ戻したいみたい。 で、身辺を探ってるうちに美桜に行き着いたらしいわ」
高見「ふざけるな。 誰が・・・」
理香「落ち着いて。 美桜にはもう目をつけられてるのよ?」
高見「・・・クソ、」
理香「近いうちに招待が来るでしょう。 美桜も、・・・おそらく水神様も一緒にね」
理香「これ以上面倒にならないように、特に水神様と一緒にいるそれなりの言い訳考えておきなさいよ」
高見「・・・わかった」
それきり高見は黙った。
理香は何か声をかけようとするも、これまでの色々を知っているために何もいえず、ただ時間だけが過ぎていく。
気まずい沈黙が落ちる中、気づけば大道芸のパフォーマンスは終了していた。
美桜が元気に走って帰ってくる。
美桜「ししょー!ただいま!すごく面白かったよ! あのね、火がびゅーんってなってね!」
水蛇「ああ。 人間の限界に挑戦していて面白かった」
高見「・・・そうか」
美桜は高見に違和感を感じて、動きを止める。
じっと高見を見上げた。
美桜「ししょー?」
高見「どうした?」
美桜「・・・んーん」
どこも変なところは無い。でも何か変。
結局言葉に出来ず、美桜は首を横に振った。
高見「何か夕飯買って帰るか」
美桜「うん」
理香「あらぁ? じゃあ私も──」
高見「帰れ」
美桜「ししょー?! 理香ちゃんかわいそうだよ?!」
高見「放っとけ」
理香「高見ったらひどいわぁ・・・ ねぇ美桜?私だってごはんいっしょに、」
警備員「はーい、そこの方。 イベント終了なんで早急に帰ってくださいねー!」
理香「はうあ?! マズいわ!イベント違反は重罪よ!! くうっ、悔しいけど今日はここまでね!」
理香「じゃあ。 みんな、またね!」
理香はさささと帰っていった。
警備員も見回りながら高見たちから離れていく。
美桜「理香ちゃんいつも元気だねー」
水蛇「うむ。嵐のような女性だな」
高見「・・・」
美桜「ししょー?」
高見「・・・いや。 行くか」
美桜「うん」
少し険しさを残した顔のまま、高見は歩き出す。
美桜はじっと高見の顔を見つめた後、小走りでその横に並ぶのだった。