赤とんぼリリウム

九重杏也

3 ふたりのじかん(脚本)

赤とんぼリリウム

九重杏也

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〇女の子の一人部屋
いろみ「疲れた。休憩しよ」
莉々子「うん」
  大きく息を吸って吐く。
いろみ「ちょっとトイレ行ってくるね」
莉々子「・・・・・・うん」

〇一階の廊下
  勉強開始から大分時間が経った。
  途中やっぱり耐えられずにシャワーを浴びたり、お昼ご飯を食べたりした。
  それが丁度良い息抜きになっていたようで順調だ。

〇おしゃれなリビングダイニング
  なお当然グラスは共有していない。
  気付けばオレンジの斜陽が窓から差し込んでいる。
いろみ「お菓子でも持ってこうかな」

〇女の子の一人部屋
  リビングで雑に見繕ってから部屋に戻ってきた。
いろみ「お待たせー」
いろみ「――て、莉々子?」
莉々子「んふぅー」
莉々子「なに、いろみちゃん」
いろみ「ベッドでなにをしている」
莉々子「ナニって、んー、匂いかいでる」
  言うなりうつ伏せで顔面を枕にうずめる莉々子。
莉々子「んおぉー、こえがいおみちゃんの、んっんっ、寝てるベッドぉ」
  言葉を失う私。
  どことなく恥ずかしいんだけど。
莉々子「だってね、考えても、みてよ!」
  枕を抱きかかえて身体を横向きにして丸まり、視線をこちらに向けられる。
莉々子「部屋全体がいろみちゃんのさわやかでちょと甘い匂いなんだよ」
莉々子「そんな中で何とも思わないわけない」
莉々子「もう、幸せで、幸せで・・・・・・」
莉々子「むひゃー!」
  目をギュッと閉じ足をバタバタさせる莉々子。
いろみ「つまり興奮している?」
莉々子「そう。だって初めて部屋に入れてもらったんだよ」
莉々子「舞い上がっちゃうよ。隅々まで探索したくなるよ!」
莉々子「ベッドの下にアレな本がないかなーなんて覗いたりね」
莉々子「引き出しやクローゼットを全部確認したり!」
いろみ「はっ!?」
  私は部屋全体にキョロキョロと視線をさまよわせる。
  見たところしっかり整っているようだが。
いろみ「物色したの?」
莉々子「ひみつー」
  今更はぐらかされてもさっきのがウソとは到底思えなかった。
  もちろんベッドの下に思春期男子が隠す宝物のようなものはない。
莉々子「それより、いろみちゃん」
莉々子「さっきから私の脚ばっか見てるでしょ」
いろみ「そんなことはないっ!」
  ドアの位置からベッドを眺める際、莉々子は頭が奥で手前に脚がくるように横たわっている。
  ショートパンツからすーっと伸びる白くなめらかな脚に目がいくのは仕方ないことなの!
莉々子「ほらほら~。お、み、あ、しっ」
  折りたたみ抱え込んだ脚を片手でなぞりつつ、ゆっくりと伸ばしていく。
  押し潰され反発した弾力ある足がアピールされるのを、私はジッと見つめる。
莉々子「それとも、いろみちゃんがみたいのはあ、 このウチガワなのかなぁ?」
  今度は片手でゆとりのあるショートパンツのすそをつまみ、ずらしていく。
  ほんのちょっとだけど、上へ、上へ、ゆっくりと。
  おしりの輪郭が露わになって、そして──
莉々子「ほら、いろみちゃんのえっち」
  パッとすそはただされ、元に戻ってしまった。
いろみ「いやっ、違う、これは、その・・・・・・」
  見たい、見たいと早鐘を打つ心臓が時間の経過を忘れさせていたのを、”えっち”と言われたことで我に返り、動揺。
いろみ「もう、からかわないでよ」
  どうしてふたりきりだとこうも大胆なのだろうか、この子は。
莉々子「からかってないよ。本気」
  莉々子の顔がほんのり赤みを帯びている。
  視線は真っ直ぐに私を捕らえて微動だにしない。
莉々子「ねえいろみちゃん。まだ水色のぱんつ履いてる?」
いろみ「・・・・・・なに急に」
  途端、莉々子は破顔する。
莉々子「シャワー浴びる前に履いてた」
莉々子「階段で見た。眼福だった」
いろみ「欲望に従順過ぎなのだわ」
莉々子「スカートが誘惑してた」
莉々子「チャンスをやるよってふわっと揺れてた」
莉々子「下から覗くってすごかった」
いろみ「バカなの?」
莉々子「大事なことなの。教えて」
  次はなぜかすっと無表情になる莉々子。
いろみ「・・・・・・今はもう違うの履いてる」
いろみ「さっきシャワー浴びたから、脱いだ」
莉々子「そうなんだ。じゃあ今はどんなおぱんつなの?」
いろみ「それは言わない!」
莉々子「えーいいじゃーん。おーしーえーてー」
  ダダをこねられる。
  というか、なぜ私は素直に答えているのか。
  別に同性の下着姿なんて着替えの際に見てるよね。
  動じない、動じない。
莉々子「ねえ、こっち来てよいろみちゃん」
いろみ「・・・・・・うん」
  ゆっくりと、じわりじわりと莉々子に近付く。
  いっぽ、にほ、さんぽ。
  縮まる距離は、莉々子がすばやく身体を起こして前のめりになって、消える。
莉々子「それっ」
いろみ「えっ、わっ!?」
  不意に腕を掴まれて引き寄せられ、私はベッドに脚を引っかけて倒れ込んだ。
莉々子「いろみちゃん、好き」
  視界いっぱいの莉々子の横顔は緩んでいて。
  覆いかぶさる私を、莉々子は両腕で力いっぱいに抱きしめる。
  手のひらは背中をさすり、髪を撫でてくる。
いろみ「ちょっと莉々子・・・・・・」
莉々子「いろみちゃんもぎゅーってしてぇ」
  私の全体重が乗っかっているけど、莉々子は苦しがる様子もない。
  むしろとても嬉しそうな声音だった。
いろみ「ぎゅーって、腕を回せないのだけど」
莉々子「じゃあ撫でて、脚を」
いろみ「どうして脚なのよ」
莉々子「いろみちゃん脚フェチなんだと思って」
莉々子「私のことも、すらっとした脚で誘惑してくるもん」
いろみ「そんなつもりでスカートじゃないの。楽だからってだけ」
莉々子「そうなんだ。でもほら、触りたいでしょ? 脚フェチのいろみちゃん?」
いろみ「分かってないじゃん。違うよ、違うけど・・・・・・」
  ふたつ返事にハイと言うよりも照れがまさる。
  密着していると自分の鼓動もバレてるんじゃないかとよぎる。
  それが更に私の思考を加速させる。
  莉々子の体温を感じる。温かい。いや、熱い。
  暑い、暑い、アツい。
  自分の額をこすってみたら、もっと熱い。
  汗でべったりだ。
莉々子「ふふっ、じゃあ、頭でも、いいよ?」
  莉々子は片腕を背中から離し、掴んだ私の腕を自身の頭に導く。
いろみ「髪、サラサラしてる」
莉々子「いろみちゃんもだよ」
  しばらくの間、互いが互いの髪を優しく撫でた。
  空いていた手同士は、今は指が絡め合うように組み合わせて繋がっている。
  オレンジの斜陽が私たちを包んでいた。
いろみ「・・・・・・そろそろ、満足したでしょ」
  時間の感覚はおぼろげだったけど、ずっとのしかかっていたら重いだろうと思い至る。
  私は手を解いて身体を浮かせて起こした。
莉々子「えーもう終わり―?」
  次いで莉々子も座り込む。
  まっすぐ、見つめ合う。
莉々子「ねえ、キス、しよ」
いろみ「それは・・・・・・」
  ドキッとして顔を逸らす。
  キスなんて、誰ともしたことはない。
  ――どんな感じだろう。気になる。
  莉々子と、キス。
  いいのだろうか。
  私はどうしたいのだろうか。
  答えを出すのは容易じゃない。
  いや、本当にそうだろうか・・・・・・?
  私の気持ち。
  私の願い。
  勇気。
  決めていたはずなのに。
  一瞬の逡巡にすら納まっていない。
  ・・・・・・でも、してみたい。
  してみたいと思う。
いろみ「じゃ、じゃあ・・・・・・」
  ようやく莉々子に向き合う。
  でも莉々子の焦点は私には合ってはいなかった。
いろみ「莉々子?」
莉々子「あっ・・・・・・えへへ、やっぱりいろみちゃんはかわいいなぁ」
莉々子「ふふっ。さて、さてー」
  唐突に莉々子はベッドから降りて立ち上がる。
いろみ「莉々子?」
莉々子「ちょっとお風呂場に。いろみちゃんのおぱんつ取りに。ぐふふっ」
  いきなり悪ガキのようになる莉々子。
  私のつかのまの葛藤は何だったのだろうか。
いろみ「させないのだわバカー!」
  先ほどまでの雰囲気はどこへやら、私は大慌てで莉々子の腕を掴む。
いろみ「黙って大人しくしていれば、あーんーたーはぁー」
莉々子「ふひっ、うひひ、ひゃっ、あはははははっ」
莉々子「や、やめて、くひゅぐったっ、ははははははっ」
  とりあえずこちょこちょ攻撃でじゃれついて、莉々子の暴走を止めるのだった。

次のエピソード:4 夏の暑さは退かない

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