ラディカル・トラベラー

R・S・ムスカリ

ワンモアタイム・ワンモアチャンス(脚本)

ラディカル・トラベラー

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〇SHIBUYA109
  202X年8月 渋谷
????「そろそろ息の根を止めてやろう」
女性ヒーロー「くっ。 なんて強さなの・・・!」
男性ヒーロー「諦めるな! 奴の弱点を突けば必ず勝てる!!」
????「愚かな。 そんなものが私にあると?」
男性ヒーロー「時空怪人クロック・パワー! 確かにお前の能力は脅威だ」
男性ヒーロー「だが、仲間たちの犠牲でその最強の能力にも弱点があるとわかった!」
クロック・パワー「ほう。それは興味深いな。 この私でも知らない弱点があると?」
男性ヒーロー「そうだ。この日のために俺たちは準備を整えてきたんだ!」
女性ヒーロー「今日こそあなたを倒し、死んでいったみんなの仇を討ってみせる!!」
クロック・パワー「ならば見せてもらおうか。 私の能力の弱点とやらを──」
クロック・パワー「ちっ! 高層ビルからの狙撃か・・・」
クロック・パワー「だが、こんな傷など──」
クロック・パワー「──この通り、時間を巻き戻せば無かったことになる。さらに!」
女性ヒーロー「は、弾いた!? まるで撃たれることがわかっていたかのように・・・」
男性ヒーロー「また時間を巻き戻したな!」
クロック・パワー「数秒だけだが時間を巻き戻す能力。 戦闘においてこれほど有用な力はない」
クロック・パワー「私に弱点があるなどと、しょせんは苦し紛れのハッタリだったな」
クロック・パワー「トドメを刺してやるぞ!!」
男性ヒーロー「そう。時を戻せるのは数秒。 それがお前の弱点だ!!」
女性ヒーロー「あなたは渋谷におびき出された時点で、すでに敗北しているのよ!」
クロック・パワー「なんだと?」
男性ヒーロー「この通りを中心に、街全体に大量の爆薬がセットしてあるんだ!」
女性ヒーロー「爆破前に戻っても無駄よ。あなたが逃げる素振りを見せれば、即座に爆破スイッチが押される手はずだもの!」
クロック・パワー「き、貴様ら正気か!? そんなことをすれば・・・」
男性ヒーロー「死はもとより覚悟の上。 犠牲になった仲間たちのためにも!」
女性ヒーロー「あなたも一緒に連れていく!!」
クロック・パワー「う──」
クロック・パワー「──うおおおおおっ!!!!」

〇SHIBUYA109
  まさか自爆とは・・・
  連続して時は巻き戻せん・・・
  街へ踏み込む前まで戻るのは無理か・・・
  だが、ここで死ぬわけには・・・
  もう・・・一度・・・

〇土手
  う・・・
クロック・パワー「ここはどこだ?」
クロック・パワー「・・・」
クロック・パワー「妙な気分だ。 この光景、どこかで見たことがあるような」
????「本当にヒーローを見たの?」
????「本当だよ! 怪人を追いかけてるのを見たんだ」
クロック・パワー「・・・状況がわからん。 ひとまず身を隠すか」
????「どこのチームのヒーロー?」
????「それはわからないけど・・・。 怪人は今話題のクライム・ヒーターだったよ!」
????「それって超最悪の放火怪人じゃん!」
????「だからヒーローの活躍を見物するにしても十分注意しないと」
????「あんな悪い奴、ボコボコにされちゃえばいいのよ。許せないもの!」
????「僕もそう思う。 きっとヒーローがやっつけてくれるよ」
????「だよね! 冥魔帝王の手下は酷い奴ばっかりだから、早く全滅させちゃってほしいな!」
????「怪人が近くに現れるたびに休校だもんね。 困っちゃうよ」
????「あたしは遊ぶ時間が増えるから嬉しいけどねっ」
クロック・パワー「・・・」
クロック・パワー「どういうことだ?」
クロック・パワー「冥魔帝王は組織ごとヒーローに叩き潰されて、今は存在しないはず」
クロック・パワー「クライム・ヒーターもずっと昔に倒された怪人なのに、なぜあんな子供が知っている?」
クロック・パワー「待てよ。 あの子たちは・・・」
クロック・パワー「私はあの少年を知っている。 時東渉(ときとうわたる)・・・」
クロック・パワー「私、だ」
クロック・パワー「ということは、隣の少女は・・・」
クロック・パワー「倉井未来(くらいみく)、なのか?」
クロック・パワー「馬鹿な! 彼女は20年前に・・・」
クロック・パワー「ま、まさか!?」
  ここは・・・過去の世界。
  20年前の世界なのか!?
  200X年7月

〇神社の石段
  ・・・私はこの神社を知っている
  遠い昔、彼女と一緒に訪れた記憶がある

〇神社の本殿
  そうだ。思い出してきたぞ
  この暑い夏の日、私は未来とヒーローの戦いを見物に行ったのだ

〇けもの道
時東渉「未来ちゃん。 この先で凄い音がしてるよ!」
倉井未来「きっとヒーローが怪人と戦ってるのよ」
倉井未来「急がなきゃ!」
時東渉「あっ! 待ってよ、未来ちゃん!」
クロック・パワー「やれやれ。 我ながら怖いもの知らずだな」
クロック・パワー「この先では、確かジャスティスナインとかいうチームのヒーローが戦っていたな」

〇山の中
倉井未来「凄い煙! 戦ってるのは・・・!?」
時東渉「ジャスティスナインのリーダーだ!」
クライム・ヒーター「ぐわっ!」
アーマーヒーロー「諦めて投降しろ! 私に勝てないことはわかっただろう!?」
クライム・ヒーター「能力持ちのヒーローか! 空気中から水を生成して操るとは厄介な」
アーマーヒーロー「消防車いらずだろう? 炎を操る怪人にとっては天敵だ」
アーマーヒーロー「そろそろ決めさせてもらうぞ! 今日は子供の誕生日なもんでね!!」
クライム・ヒーター「ちぃっ・・・!」
クライム・ヒーター「ん!?」
倉井未来「あっ! 見つかっ──」
時東渉「危ないっ」
クライム・ヒーター「ヒャハハハーーッ!! ラッキィィ~~!」
時東渉「未来ちゃん、下がって!!」
アーマーヒーロー「大丈夫か!?」
時東渉「あ、ありがとうございます」
倉井未来「ありがと」
アーマーヒーロー「くそっ、あの野郎・・・! 子供を囮にして逃げやがったか!!」
  そう。
  この時はヒーローに助けられたのだ
  この時は──

〇山の中
アーマーヒーロー「しかし、無事でよかったよ」
時東渉「ご迷惑おかけしました」
倉井未来「本当にごめんなさい。 邪魔するつもりはなかったの」
アーマーヒーロー「ヒーローの活躍を直に見たい気持ちはわかるけど、ちょっと近すぎたね」
倉井未来「反省します・・・」
アーマーヒーロー「次からは気を付けるんだよ?」
倉井未来「はい」
アーマーヒーロー「それにしても少年。 さっきのは勇気ある行動だったな」
時東渉「え?」
アーマーヒーロー「身を挺して少女を守るなんて、なかなかできることじゃないぞ!」
時東渉「あっ! は、はい・・・」
アーマーヒーロー「頼りになるボーイフレンドを持ったな!」
倉井未来「・・・はい」
アーマーヒーロー「町まで送っていくよ。私も仲間と合流して、怪人の件を報告しなきゃだしね」
  そうだった。
  倉井未来、私は君を・・・
  いや。
  それはもう過ぎ去った過去のことだ
  ならば、私の見ているこの光景は一体?
クロック・パワー「私はどうして過去の世界などに来てしまったのだ・・・」

〇田舎の学校
クロック・パワー「あれからいろいろ調べてみたが、どうやらここは本当に20年前の世界らしい」
クロック・パワー「この時代に私が従うべき主は存在しない。 倒すべき敵もいない」
クロック・パワー「行く当てもなく、過去の自分をストーキングしているとは・・・私は何を考えてる?」
  なかなか良い雰囲気じゃないか。
  傍から見るとこんな様子だったとは
  ・・・くっ。
  見ていられんっ!

〇田舎の公園
  ・・・
  なぜか過去の自分に・・・。
  いや、彼女に惹かれている私がいる
  ずっと〝あの日〟の出来事がしこりとなっているからか?
倉井未来「それじゃ渉くん、また明日学校でねっ」
時東渉「うん。また明日!」
  確か来月、私は倉井未来と東京へ行く
  その時〝ヒーロー禍〟に遭い、彼女は──
  ん?
時東渉「か、怪人?」
クロック・パワー(しまった! 姿を見られてしまった)
時東渉「・・・だ、誰か」
クロック・パワー(助けを呼ばれる前に・・・)
クロック・パワー「時よ、巻き戻れ!!」
時東渉「・・・?」
クロック・パワー(能力が発動しない!?)
クロック・パワー(なぜだ!? こんなことは今までなかったぞ!)
時東渉「怪人さん、ですよね?」
クロック・パワー「・・・違う」
時東渉「え? 違うの?」
クロック・パワー(とっさに否定してしまった。 こうなればやむを得ん)
クロック・パワー「私は旅の預言者だ。 きみに将来起こる危機を警告しに来た」
時東渉「警告!? あなたは未来予知ができるのですか?」
クロック・パワー(食いついたか。 ヒーロー怪人問わず、この頃の私は能力に興味しんしんだったからな)
クロック・パワー「この先、きみの人生は苦難に満ちている。 私が少しだけ力を貸そう」
時東渉「苦難?」
時東渉「もしかして僕、未来ちゃんにフラれるんですか!?」
クロック・パワー(そう来たか・・・)
時東渉「そんなの嫌です! どうすればいいか教えてください!!」
クロック・パワー(この頃の私は純粋すぎて眩しいな)
クロック・パワー「今度の夏休み、もしや東京に行こうとしていないか?」
時東渉「は、はい。 未来ちゃんとデートで」
クロック・パワー「この夏、東京に行ってはいかん。 不吉な未来が見えるのだ」
時東渉「どんな未来なんですか?」
クロック・パワー(ヒーローと怪人の戦闘に巻き込まれ、彼女が亡くなる・・・とは言えんな)
クロック・パワー「とにかくデートは諦めるのだ! でないと、フラれる以上の不幸がきみに降りかかるだろう!!」
時東渉「あっ! 待って──」

〇田舎のバス停
クロック・パワー「・・・まったく。 何をやっているのだ私は」
クロック・パワー「しかし、これであの二人が東京へ行くことはない」
クロック・パワー「過去が変わる。 この世界はこれからどうなるのだ?」

〇屋上の隅
  200X年8月 渋谷
クロック・パワー「気になって来てみれば・・・」
クロック・パワー「あいつら、なぜ東京にいるっ!?」
クロック・パワー「しかも、よりによって渋谷に! 今日ここではジャスティスナインと悪の組織の決戦があるというのに!!」
クロック・パワー「やはり過去は変えられないのか。 見守るしか・・・ないのか?」

〇渋谷の雑踏
  ・・・楽しんでいるな。
  未来は今日を楽しみにしていたものな
  せっかくの楽しい時間をふいにするなど、できはしない・・・か
  このまま見守るしか・・・ん!?
  始まったか!!

〇渋谷のスクランブル交差点
怪人「ヒーローどもを殲滅せよ!!」
アーマーヒーロー「怪人の数が多い! 民間人の避難誘導に最優先で当たれ!!」
アーマーヒーロー「ジャスティスナイン、ゴー!!」
クライム・ヒーター「待ちな! てめぇの相手はこの俺様だぜ」
アーマーヒーロー「クライム・ヒーター!」
クライム・ヒーター「てめぇは俺様が焼き殺してやる!!」
アーマーヒーロー「無駄だ。 お前では私を倒せない!」
クライム・ヒーター「くそがぁぁっ!!」
アーマーヒーロー「これ以上時間をかけていられない。 決めさせてもらう!」
クライム・ヒーター「ち、ちくしょうめ・・・!!」
クライム・ヒーター「んん!?」
アーマーヒーロー「なっ!? あ、あの子たちは!」
倉井未来「きゃっ!」
時東渉「ク、クライム・ヒーター!?」
クライム・ヒーター「ヒャハハハーーッ!! 俺様はツイてるぜぇ~~!」
クライム・ヒーター「ゲェッ!?」
クロック・パワー「させるかよっ!!」
時東渉「あ、あなたは預言者さん!?」
クロック・パワー「人の忠告を無視しおって! 今のうちに逃げろ!!」
時東渉「はいっ!」
倉井未来「あ、ありがと」
クロック・パワー「・・・行け!」
クライム・ヒーター「なんだてめぇはぁ!?」
アーマーヒーロー「すまない、助かった! しかしその姿・・・きみは!?」
クロック・パワー(まさか、この時に死ぬはずだったあなたを助けることになるとはな・・・)
クロック・パワー「わけあって助太刀する! 子供たちを傷つけさせはしない!!」
クライム・ヒーター「ぐがっ!」
アーマーヒーロー「もう観念しろ!!」
クライム・ヒーター「く、くそったれ! てめぇさえ出てこなければ・・・」
クロック・パワー(本来、奴が倒されるのは一年後。 しかし、すでに過去は変わった)
クロック・パワー「お前はここで終わりだ! クライム・ヒーター!!」
クライム・ヒーター「ああ、終わりだ・・・」
クライム・ヒーター「だがなぁ! てめぇらも道連れにしてやるぜ!!」
アーマーヒーロー「なんだあれは!?」
クライム・ヒーター「てめぇら全員! 渋谷ごと消えてなくなれぇぇ!!」
クロック・パワー(まさか噂に伝え聞く断末魔の爆発か!? 渋谷が・・・消えてなくなる)
クロック・パワー(だが、そんな未来を選ぶわけにはいかない)
クロック・パワー「我が命を懸けた究極奥義──」
クロック・パワー「──私と貴様だけのこの一瞬を、時の狭間へと消し飛ばす!!」
クライム・ヒーター「な、なんだぁっ!?」
クロック・パワー「あとは任せたぞ時東渉。 未来を・・・〝未来〟へ連れていけ!!」

〇SHIBUYA109
  202X年8月 渋谷
老年の男性「渋谷は久しぶりだなぁ。 相変わらず活気のある町だ」
男性「そういえば、父さんが現役時代に参戦した一番大きな戦いは渋谷だったっけ」
女性「その戦いでは、お義父さんが一番活躍されたんですよね」
老年の男性「みんなで死力を尽くした結果だよ」
女性「まぁ謙虚だこと」
老年の男性「おっと、肩が当たってしまった。 申し訳ない」
????「いえ。お気になさらず」
老年の男性「・・・」
????「何か?」
老年の男性「失礼。どこかで会ったことがあるような気がしたもので」
????「・・・」
????「どうしたの渉さん」
時東渉「なんでもない。 それより未来、時間は大丈夫か?」
時東未来「娘の発表会まで、まだ時間があるわ。 久々のデートをもう少し楽しみましょ」
時東渉「渋谷のデート、か」
時東未来「え?」
時東渉「昔、渋谷へデートに行くなと言われたことがあってね」
時東未来「何それ」
時東渉「遠い夏の思い出、かな」
  終 劇

コメント

  • ラストのクロック様がかっこよすぎて胸いっぱいになりました😫ストーリー展開も他の怪人作品とは違う視点で書かれていて面白かったです🌟

  • 最強の怪人も人の子?でしたか。自分の子どものときの姿を見て照れているのも印象的でした。でも最後には、みんなの未来を守るために大仕事をしてくれました。素敵なストーリーでした。

  • 見事なタイムトラベルのお話でしたね!

    ラスト、怪人だけでなく、ヒーロー側も一般人として渋谷の町を闊歩していたのが印象的でした。

    主人公の怪人が実は結構イイ奴で、良識をわきまえていたところを見ますと、冒頭、決死の爆破作戦に巻き込まれた残忍な彼は、現代社会を漂う暗黒なる意思に、ガールフレンドの死を通して、邪心を吹き込まれてしまったのだと思います。

    爽やかなお話をありがとうございました。

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