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きせき

エピソード20-緋色の刻-(脚本)

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〇殺風景な部屋
明石東刻「・・・・・・」

〇薄暗い廊下
明石東刻「・・・・・・」
  コツっ、コツっ・・・・・・
南田「(あれは・・・・・・東刻様?)」

〇車内

〇黒
南田「(東刻様、このような時間へどこへ?)」

〇大きな日本家屋
明石東刻「・・・・・・」

〇風流な庭園
明石東刻「・・・・・・」
南田「(東刻様・・・・・・やはり、昼間のことが・・・・・・)」

〇城の会議室
弁護士A「それでは、只今より故・明石刻世様の遺書をお伝えいたします」
弁護士A「私、明石刻世が亡き後の新当主は明石春刻とし、明石家の秘術の継承も明石春刻とする」
弁護士A「なお、明石春刻が当主として立場、能力にそぐわない場合は以下の者を・・・・・・」
  弁護士の言葉はまだまだ続いていたが、その時の
  東刻様は本当に世界が終わったような顔をしていた。

〇諜報機関
南田「東刻様・・・・・・今日はもうお休みになられてはいかがですか?」
明石東刻「あぁ、そうだな・・・・・・休もうか・・・・・・」
  休もうか、という割には東刻の手は止まらない。
  この際、怒るでも、泣き喚くでも構わない。
  表情が抜け落ちた彼を見ているのは痛々しかった。

〇薄暗い廊下
明石東刻「南田、今日は心配・・・・・・かけてるな」
南田「あ、いえ・・・・・・」
  南田はそういうのがやっとで、東刻も力なく笑う。
明石東刻「大丈夫だ。元々、あんな非科学的な明石家の当主なんて興味なかったんだ」
明石東刻「確かに、小学生の頃は母上に認められたかったけど、今はそんな子供ではない」
明石東刻「私にはもう既に威厳も力もあって、南田もいる。私は大丈夫だ」
  早く休もう、と去っていく東刻の背を南田は見送る。
南田「(どうして、彼が明石家の当主ではダメだったのだろう・・・・・・)」

〇黒
南田「(彼の兄弟を悪く言いたくないが、彼よりも優れた人物はいなかった)」
南田「(彼よりも努力した人物も、彼よりも純粋な人物も・・・・・・)」

〇薄暗い廊下
南田「(いっそのこと・・・・・・)」

〇黒
明石東刻「明石春刻を亡き者にしろ」

〇薄暗い廊下
南田「(と命じていただけたら、私は喜んで彼を手にかけるのに・・・・・・)」

〇銀閣寺
南田「(あ、月見櫓の中へ入っていかれる・・・・・・)」
南田「(昔はこちらがお好きだったな、南田さんも来てくださいって言ってくれていた)」

〇銀閣寺
明石東刻(小学生)「行きましょう、南田さん」

〇日本家屋の階段

〇銀閣寺
南田「(今はお傍にいるよりも、お1人で過ごされた方が良いかも知れない・・・・・・)」

〇薄暗い廊下
  辛い時に人前で怒りもせず、泣き喚くもせず、
  何とか笑おうとする人だから。

〇黒
  だが、それが最悪の事態を招くことになるなんて
  思いもしなかった。

〇銀閣寺
  窓枠がはずれる。それこそ、古い建物であるし、
  特段、おかしなことでもない。
  もし、明石春刻が月見櫓から落ちたら、
  不幸な事故だと処理される可能性が高かった。

〇銀閣寺
南田「(でも、もし・・・・・・人為的なものだと知られたら?)」

〇風流な庭園
  ただでさえ、秋川氏の死を警察が調べている。
  捜査の手が及ぶ可能性も皆無ではなかった。

〇大きな日本家屋
南田「(ならば、私も彼を殺そう・・・・・・)」

〇黒
南田「あの方を守る為に・・・・・・」

〇大きな日本家屋

〇宮殿の門
  あの方がこれ以上、何も失うことないように

〇風流な庭園
明石東刻「・・・・・・み、なみだ。ごめ、ん・・・・・・」
明石東刻「ぼくは・・・・・・とう、しゅ、になれなか・・・・・・った」
明石東刻「・・・・・・みだによろこ、んで・・・・・・もらい、たかった」
明石東刻「しゅ、じんがぼくでよかった、とおもって、もらいたかっ・・・・・・た」
南田「東刻様・・・・・・」
  おそらく、南田さんは経験上、
  彼がもう息を吹き返すことはないと悟ったのだろう。
  動かなくなった東刻さんの身体を持ち上げ、
  月見櫓の方へ向かう。
黒野すみれ「待ってください!! 彼を、彼をどうするんですか? 貴方はどうするつもりなんですか?」
  私は彼を行かせないように、彼らの前に立ちはだかると、
  南田さんは答えた。
南田「黒野様・・・・・・お退きくださいませんか?」
南田「お連れしなければならないのでございます。彼が求めていた場所へ・・・・・・」
  止めないでください、と言わんばかりに、
  私を避け、歩き出す南田さん。
  私は彼を阻止したいのに、思うように足が動かない。
南田「黒野様、貴方様もお優しい方だ」
  旅立つ前に、と南田さんは足を止める。
南田「確かに、私はこの屋敷の玄関にナイフを仕掛けたり、茶器に毒を仕込んだりいたしました」
南田「本当は春刻様を拉致して、部屋に監禁」
南田「その部屋に火でつけるのが1番確実なのでしょうが・・・・・・」
南田「今でも、火が死ぬほどこわいものですから・・・・・・」
黒野すみれ「・・・・・・」
南田「ただ、この庭の・・・・・・秋川氏が亡くなった毒を仕掛けたのは私ではございません」
黒野すみれ「え・・・・・・」
南田「まぁ、信じる・信じないは黒野様のご自由でございますが、私も秋川氏には近いものを」
南田「感じていたのでございます」

〇風流な庭園
明石春刻(小学生)「おーい、秋川さーん!!」
秋川「あ、少々失礼いたしますね。何ですか? 春刻様」
南田「・・・・・・(それこそ私が理想とするような・・・・・・)」

〇風流な庭園
南田「彼は素晴らしい専属使用人だった。でなければ、この庭は既に荒れていたかと」
南田「まぁ、1人の造園技能士保有者の戯言でございますが・・・・・・」
  彼らが見えなくなると、私は本邸に戻る。

〇宇宙空間
南田「東刻様、今日は凄く良い天気で月だけでなく、星もたくさん見えてございますね」
明石東刻「・・・・・・」
南田「何年も何年もよく頑張られましたね、私はずっと拝見しておりました・・・・・・」
明石東刻「・・・・・・」
南田「このような結末を迎えざるえなかったこと、申し訳ございません。しかしながら、」
南田「最後のお供は私にお任せください。さぁ、参りましょう」
南田「夜が明けて、月が見えなくなる前に」

〇日本家屋の階段

〇日本家屋の階段

〇日本家屋の階段

〇日本家屋の階段

〇宮殿の門
物部トキ「すみれちゃん!!」
  無事だったんだね、とトキが私に駆け寄ってくる。
黒野すみれ「無事って?」
物部トキ「春刻君の家の方が燃えてて、すみれちゃんも連絡しても出ないし、部屋にもいないし、」
物部トキ「もしかして、巻き込まれたんじゃあって・・・・・・」
黒野すみれ「・・・・・・」
物部トキ「す、すみれちゃん?」
  連れていくと言っていたから、
  本当に彼は連れていったのだろう。
  自分の主人を、自分が今でも恐れる火で・・・・・・。
  自分の主人の罪を消して・・・・・・
黒野すみれ「何でもないよ。それで、火は? まだ消えてなかったりする?」
物部トキ「あ、うん。まだ月見櫓は燃えてるらしいけど、蔵の火は消えてて、」
物部トキ「春刻君の家の方までは燃えてないみたい」
黒野すみれ「・・・・・・」
物部トキ「・・・・・・」
  終始無言でいつまでも本邸の門前に立ちぱなし
  という訳にもいかず、部屋に戻ることにした。

〇貴族の部屋
物部トキ「今日はすみれちゃんの誕生日なのに、何だか、大変なことになっちゃったね」
黒野すみれ「・・・・・・うん。まぁ、仕方ないよ」
黒野すみれ「誕生日だからって良いことばかり起こる訳じゃないんだしさ」
物部トキ「・・・・・・そうかも知れないけどさ。じゃあ、また明日」
物部トキ「明日は沢山、お話しようね!! 誕生日おめでとう」
黒野すみれ「うん、誕生日のこと、ありがとう。じゃあ、また明日」
  明日・・・・・・いや、もう今日になるが、
  父が亡くなる予定だった日になる。
  私はトキが帰ると、スマートフォンを見る。
  スマートフォンには
  トキからのメッセージや着信履歴が山程あり、
  その中にトキではない人物から送られた
  留守番電話のメッセージを見つけた。
黒野草輔「黒野すみれ殿。21歳、おめでとう!! 今年の誕生日は一緒に過ごせないけど、」
黒野草輔「帰ったら、焼肉でも食べに行こうぞ!! 君の21歳の時が良いものであるように願う」
黒野草輔「君の父・黒野草輔より」
黒野すみれ「(実の娘に、フルネームに殿って・・・・・・まぁ、照れ臭いんだろうな)」
黒野すみれ「(本当は電話の方が良いんだろうけど、もう寝てるかも知れないし、メッセージで)」
  私は着信履歴からメッセージのアプリをタップすると、
  アイコンが焼肉の「黒野草輔」の欄をタップした。
黒野すみれ「(ありがとう・・・・・・あと2日程は帰れないと思うから旅先でのんびりしてね)」
  と、送り、ゆっくりコアラシリーズのスタンプも押した。
黒野すみれ「旅先でユーカリ(ゆっくり)が吉◎ か〜変なスタンプ」
  私はスマートフォンをベッドサイドの充電器に繋ぐと
  窓の外を見た。
黒野すみれ「父、か・・・・・・」
  私は春刻達の父親についての情報が気になり、探す。
  ただ、今日は色々あって、私はいつの間にか、
  ベッドに封筒をばら撒いて、それを抱きしめるように
  眠っていた。

次のエピソード:エピソード21-菫色の刻・2-

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