10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在ミグ

第9話 混乱(脚本)

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〇タクシーの後部座席
ドライバー「ぶーぶ! ぶーぶぅ!」
客「えええっ! 急に何? どうしたの?」

〇法廷
裁判官「主文、被告人を・・・・・・」
裁判官「しけいにしょします!」
被告人「はあ!? ベランダの違法改造しただけだぞ!」
被告人「何で死刑になんだよ?」
裁判官「しっけーいっ! しっけーいっ! しっけーいっ! しっけーいぃ!」

〇手術室
医者「は〜い! おちゅうしゃしまちょうね〜」
助手「あの、先生、麻酔がまだ・・・・・・」
患者「いででででーーーーーっ!!」
医者「いたくないでしゅよ〜」

〇ラブホテルの部屋
客「ばぶばぶ・・・・・・ ぶぅ・・・・・・」
嬢「え? ちょっ待・・・・・・ 赤ちゃんプレイとか・・・・・・」
客「ばぶぅ・・・・・・」
嬢「別料金ですけど!?」
客「うぅえぇー・・・・・・ ん・・・・・・」
嬢「うわっ! おいマジかよ!」
客「ぎゃあああうぅ! んやあああっ!!」
嬢「クソ変態野郎が! 冗談じゃねぇぞ!!」

〇近未来の会議室
ケレス「重軽傷者含め、現段階で約100万人程度に同じような症状が確認されている」
ケレス「今後も増加するという見込みだ」
  僕の上司、FAOの代表監察官ケレス・デメテルは深刻な声でそう言った。
  被害。
  代表は被害という言葉を使った。今回の事態が災害か何かだと捉えている様だ。
  確かに世界規模で、それもほぼ同時に発生したのだから少なくとも流行り病の類ではないだろう。
  或いは人災というのは突飛な発想だろうか。
ケレス「尤も、先進国での話であって、調査の行き届いていない地域での被害は想像もつかん」
  映画館から無理矢理連れ出して、何とかウカの自宅まで帰ってきたものの、
  幼児化は止まらず、とうとうまともに喋る事さえ出来なくなってしまった。
  泣きつかれたのか今は眠っているが、傍らにいた娘のウリコの方が大人びて見えた。
アメタ「先進国で多い、という事はマスター・マザーの映像にサブリミナル効果でもあったのでしょうか?」
ケレス「それなら映像を見ていない者に効果が現れるのはおかしいし、サブリミナル効果にそんな強い暗示があるとは思えない」
ケレス「そもそも幼児退行させる理由がわからない」
アメタ「何者かによるテロ行為、とか?」
  発生が確認されてから、様々な憶測が叫ばれていた。
  やれ天罰だの、やれシフトアップだの、かくもオカルティックな妄想に辟易させられる。
  幼児退行なんて心理学、精神分析の領域だろう。外部からのストレスによる精神障害。PTSDや鬱病みたいなものだろうか。
  みんな空腹に耐えかねたに違いない。世界規模のネグレクトに。
  育児を放棄された子供がおかしくなってしまう様に、みんな壊れてしまったのだ。
ケレス「一応FAO本部でもテロリズムの可能性が高いと推測している」
ケレス「一時間後には国連やWHOと共に全政府に向けて発表する予定だ」
アメタ「何故FAOが?」
ケレス「幼児退行は飢渇主義者に多く見られる」
ケレス「我々FAOとしては、今後の混乱に備えて食糧管理に問題がなかったか証明しなくてはならない」
アメタ「今回の事件と、食糧の摂取には関係がない、と?」
ケレス「外部からの影響となると、最も疑わしいからな」
アメタ「自分はどうすれば?」
ケレス「休暇中と報告を受けているが?」
アメタ「目の前で友人が被害に遭いました。公私混同と言われても調査させてもらいます」
ケレス「異論はない。活動可能になり次第、任務に戻ってくれ。詳しい事は追って報告する」
アメタ「了解」

〇アパートのダイニング
  とは言ったものの、途方に暮れてしまう。
  任務の前にやらなくてはいけない事が多すぎる。
  いや、決して多くはないのだが、どれも精神的なコストが大きい。
  まず母さんの処遇。これが一番億劫だ。既に結論は出ているが、如何とも決断し難い。
  次に革命組織への通達。律儀に断りを入れる必要もないと思うが、しかしこちらの動きを察知されているというのは面白くない。
  更にウカの入院手続き。早く決めないと病院が患者で埋まりかねない。
  今は大人しく寝ているが、今度どうなるのか、全くわからない。
  とどめに・・・・・・
ウリコ「ママ、どうなっちゃうの?」
  この小さなお姫様をどうするか、だ。
  まさか僕に父親をやれとでも?
ウリコ「あのね、これ、ママが時どき食べてたの」
ウリコ「おじさんのお仕事のやくに立つ?」
  食べていた? 飢渇至上主義者の食糧? そんな物があるのか。
  教義に反している気もするが、まさか本当に何も食べていないとは確かに考え難い。
  実はこっそり食べていた、というのが真実なのだろう。
アメタ「これは・・・・・・ どうなってんだ・・・・・・」
  間違いない。人工肉だ。
  アラムスタンでの一件といい、どうしてこんなに人工肉が溢れているんだ。
  ハングリストが口にするには余りに不可解。もしかして僕が知らないだけで結構流通していたりするのか?
ウリコ「役に立つ? ママ元気になる?」
アメタ「ああ、大丈夫だ」
  とは言ったものの、何の根拠もない。しかし不安にさせる事もないだろう。
  何より僕自身がそう思いたかった。

〇綺麗な病室
  可能な限りの職権、人脈、カネ、場合によっては多少強引な手を使って、僕はウカの入院手続きを取った。
  幼児退行が進んだ結果、どうなるのかは誰にも予想がつかない。
  記憶喪失。人格崩壊。その他の後遺症。最悪、死に至る可能性だって否定出来ない。回復する見込みだってない。
  だったら可能な限りの治療を受けさせるべきだ。
ウカ「むにゃ・・・・・・!!」
  寝ている顔は安らぎに満ちている。それこそ子供の様な天使の寝顔。
  身体データを記録され、食事はおろか排泄さえ他人に依存している生活は幸福なのか、それとも哀れなのか。
  目を覚ました時に彼女は何を思うのか。僕を覚えていてくれているのだろうか。
  母さんとは真逆だな。
  何もせずに、ただ死を待つ母さん。僕が決断するのを待っている母さん。
  一方であらゆる治療を施されるウカ。僕の助けを待って生に縋るウカ。
  同じなんかじゃない。同じ様な人生を歩んでいるとしても、ウカと母さんは違う。
  ウカは死なせない。

〇昔ながらの一軒家
ウリコ「おじさんのおうち?」
  そんな訳で、僕はウリコを連れて久方ぶりに実家に戻っていた。
  ウカの両親に預けるつもりだったが連絡がつかない。
  病院も託児所ではない。
  そして僕の周りには、子供のお守りなんて特殊技能を修得している人間はいない。
  必然的に僕が面倒を見るしかなかった。まあ戦場を連れ回す訳ではないので問題はないだろう。

〇狭い畳部屋
  懐かしいな。高校を卒業すると同時に出ているから、もう十年以上になる。
  僕の部屋もそのままだった。母さんを思い出したくなくて、独り暮らしをする時に総て置いてきたのだ。
ウリコ「ここでくらすの?」
アメタ「いやいや。そうじゃない」
  感傷に浸っている場合ではない。目的の物を探さないと・・・・・・
  余り探りたくはない。幼い頃から敬遠していた母さんの根城。
  香の臭いが鼻を突く。
  焚いていなくても染み付いているのだろう、パチュリー、ジュニパー。土を思わせるエキゾチックなスパイシーな香り。
  心を穏やかにして、食欲を抑える働きがあるアロマ。母さんの匂いだ。
アメタ「やっぱりあった・・・・・・」
  人工肉だ。間違いない。飢渇至上主義者は人工肉を食べている。
ウリコ「・・・・・・?」
  ここでQ
  幼児退行現象は飢渇至上主義者、ハングリストに多く発現している。
  ならば幼児退行と人工肉には何かしらの因果関係があるのだろうか?
  仮にあるとしたら、少なからず人工肉を摂取している僕(というか食糧監察官)にも、その兆候が現れなければ辻褄が合わない。
  だが総てのハングリストに幼児化が起きている訳ではない。
  まだ何か要因が必要なのだろうか?
ウリコ「・・・・・・おじさん?」
  それにしても人工肉の入手経路が気になる。
  母さんかウカの端末を見れば解るかも知れないが、生体認証もパスワードもない。
  それに今のご時世、個人情報保護法は親子の間にさえ、がっつり幅を利かせている。
  自由に閲覧出来るのは本人死亡から三年経過しなくてはならない。勿論そんなに待っていられない。
アメタ「ああ、ごめん。何でもないよ」
  やれやれ。不本意極まりないが、奴のチカラを借りる事にしよう。

次のエピソード:第10話 永遠の別れ

コメント

  • 凄く上質なSF小説という感じで、とても面白いですし、続きが気になります!!SFは普段読まないジャンルなのですが、この作品はスッと内容が入ってきました!!やはり内容と技術力でしょうか・・・!!

    このまま最新話まで一気読みしたいくらいなのですが、そろそろタイムリミットなので、また時間見つけて読ませていただきます!!(o^^o)

  • 赤ちゃんプ……
    あまりピンときてなかった恐ろしさに戦慄しました。が、ゾッとしたところに変態プレイを差し込んで笑わせるセンスが好きです😂
    人工肉の謎、気になりますね!

  • 赤ちゃんプ…深刻な状況なのに何処かコミカルでシュールで面白いです。
    これからどのようなじけんにまきこまれるんでちゅかねー。
    ばぶぅ

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