10話 見習い悪魔、刺される(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
長谷川母「トウマ。話があるの」
トウマ(話・・・?母さんが怒るようなことをした記憶はないのに)
長谷川母「塾のね、トウマと同じクラスの岡田くんいるでしょう?」
長谷川母「その子のお母さんと今日ランチしに行ったの」
長谷川母「・・・遊園地、楽しかった?」
トウマ「・・・!」
長谷川母「お母さん、嬉しかったのになぁ 図書館で勉強するなんて」
長谷川母「なのにトウマは嘘をつく悪い子だったのね。遊園地で遊ぶだなんて」
長谷川母「あんなところ、あなたの為にならないわ」
長谷川母「高校は失敗したけれど・・・大学はちゃんとするって約束したわよね?」
長谷川母「女の子といたそうじゃない。カナちゃん?それともこないだの子かしら?」
長谷川母「あんな低レベルな子たちと関わると、あなたも同じレベルになっちゃうわ」
トウマ(母さんが本格的に『こうなる』のは久しぶりだな・・・)
そうだね。僕が間違ってた
ありがとう、母さん
トウマ(いつも通りにそう言えばいい。そうすれば収まるのに・・・)
長谷川母「聞いてるの?!あなたの為に言っているのよ」
長谷川母「その傷だって・・・喧嘩なんてしてないわよね?最近関わっている子に悪い影響を受けてるんじゃないの?」
トウマ(またその顔、ずっと・・・もうずっと)
長谷川父「なんだサクラ・・・うるさいぞ」
長谷川母「あなた!あなたからも言ってくださいな」
長谷川母「この子ったらもう2年生なのに遊園地なんて行って・・・!」
長谷川父「うるさい」
長谷川父「俺は疲れてる、わからないのか?」
長谷川父「トウマ。面倒だから揉め事を起こすなよ」
長谷川母「・・・もう!」
長谷川母「あの人ったら役に立たないんだから・・・」
長谷川母「いい、トウマ?もうあの高校の子達と遊んじゃだめ」
長谷川母「送ってあげるから塾の自習室に行く時間を増やしましょう?」
長谷川母「大丈夫、高校のレベルが低くても、あなたならきっといい大学に行けるわ・・・」
トウマ(母さんは、どこを見てるんだろう・・・)
トウマ(誰に怒ってるんだろう。誰の話をしてるんだろう)
トウマ(父さんは・・・何を考えてるんだろう?俺が起こした揉め事って、なに?)
トウマ(みんなと過ごすことはそんなに悪いことなのか・・・?)
〇黒背景
〇学校の部室
〇保健室
〇おしゃれなリビングダイニング
あの散乱した部屋が
木の刃が、氷の破片が
──輝いてみえる
トウマ(全部壊せば楽になれる?)
長谷川母「ちょっと、トウマ?!」
〇綺麗なキッチン
トウマ「・・・」
〇おしゃれなリビングダイニング
長谷川母「トウマ?急にどうしたの・・・?」
長谷川母「え・・・!」
長谷川母「いや・・・!」
リリカ「いっ・・・たい・・・」
長谷川母「な、なんなの?!あなたは・・・!」
リリカ(あ、やっば)
リリカ「全てを忘れ、眠りなさい!」
リリカ「はぁ。これで、あとは・・・」
トウマ「・・・っ」
リリカ(瘴気みたいなのがビリビリ来て、飛んできたはいいけど。どういうこと、これ?)
トウマ「リリカ、お前血が・・・」
リリカ「今そんなことはどうでもいいのよ!あたしは悪魔よ」
リリカ「トウマ、あんた本気でお母さんを刺そうとしたわね」
リリカ「どうして・・・優しい人って言ってたじゃない。好きなんじゃないの・・・?」
トウマ「・・・多分もうずっと、嫌いだったんだ」
トウマ「目を逸らしてただけ。母さん達を怒らせない振る舞いをしたら楽だったから・・・」
トウマ「いつか分かってくれるなんて、そんなわけない」
トウマ「俺は機嫌のいいときのあの人達の幻影を見てただけ。あの人達だって都合のいい俺を見てただけ」
トウマ「もう全部終わらせる」
リリカ(お母さんのとこに行こうとしてる・・・?!)
リリカ「だめ!」
トウマ「最近それっぽい倫理観アピールしてくるよね。何がダメなの?」
リリカ「だって・・・殺したら会えなくなっちゃう!せっかく一緒にいるのに」
トウマ「俺は殺したいほどもう会いたくない」
トウマ「親に会いたいのはお前だろ。人の親と重ねんなよ」
リリカ「そんなこと・・・!」
トウマ(言ったら傷つくだろうとか、やろうとしてることは悪いことだとか)
トウマ(そういう『正しい考え』は分かるけど、だからと言って止められない)
トウマ「だからそこ、退いてくれない?」
リリカ「でも、だめ、いや!」
リリカ(なんで私、トウマを止めてるんだっけ 分からなくなってきた・・・)
トウマ「俺が両親を殺そうとお前に関係ないだろ」
トウマ「あぁ、そっかお前悪魔だもんな。依頼人に直接殺されたら都合悪いの?」
トウマ「本当はずっとさ、俺の願いはわかってた。めんどくさい、全部消えろって」
トウマ「でも、両親の望む俺は、そんな願いを悪魔に言わない。だから言わなかっただけ」
トウマ「なぁ、契約する?」
トウマ「契約成立すれば、お前も魔界に帰れるし。運が良ければ自分の親と会えるんじゃない?」
リリカ「魔界とか今関係な・・・!」
リリカ(いや、ある)
リリカ(悪意度、なんて単純なものじゃない瘴気。期待、失望、悲しみ、呆れ、敵意)
リリカ(殺したいほど悪い両親との関係。これが、トウマが隠してきた契約内容)
リリカ(悪魔としての私は・・・こうやって立ちはだかって、止めたりなんてしちゃいけない)
そんなに両親を殺したいなら手伝ってあげる
リリカ(悪魔が囁くべき言葉はこれだ。願いを察して、上手く契約させる)
リリカ(手を汚さなくてもいいとか、同じ苦しみを味合わせようとか言って契約させて)
リリカ「嫌、なの・・・」
リリカ「契約したくない!」
リリカ「人を殺す願いなんて、対価が重すぎてトウマ死んじゃうよ?!」
トウマ「もう、それでもいいって・・・言ってんだよ!」
リリカ「やだって・・・!」
トウマ「ならもう自分でやるから、そこ退け」
リリカ「それも嫌・・・!」
リリカ(う、駄目だ、叫んでたら傷が広がって・・・)
リリカ(というか、私は何言ってたんだっけ・・・意識が・・・)
トウマ「は、ちょ、おい」
トウマ「リリカ?!」
あ・・・なんか足音・・・?トウマ?
あたし、なんか倒れてばっかだな・・・
ごめん
そういえばトウマのお母さん・・・
駄目、止めないと・・・なのに・・・
トウマ「・・・ごめん、俺は・・・」