エピソード9(脚本)
〇洋館の一室
どこかの組織に所属して、生きていく場所を確保する。そのつもりではあったけど、騙そうとしていた所が引っかかる。
ロク「・・・・・・僕、そろそろ、帰りますね!」
僕はジョマとつないだ手を離そうとした。
ジョマ「待ってください! ちょっと待って!」
でもジョマは、必死でそう訴えながら、僕の手を離してくれない。というか力が強くて、振りほどく事もできない。
ロク「いや、そもそも入るって言ってないし! 強引にここまで連れてきたじゃん!」
ジョマ「ここまで来てそれはないですよ! その気だったんでしょ?! 君もその気だったから、ここまで来たんでしょ?!」
ロク「そんなつもりなかった!」
逃げようとする僕の腕を、がっちりつかんで離さないジョマが、少しへりくだるように口を開く。
ジョマ「ちょっとだけ、ちょっとだけですから! ね!」
ロク「そう言って、完全に入れる気でしょ! わかってるんだから!」
ジョマ「へへへ、君もそういうの好きでしょ? だからここまでついてきたんでしょ?」
ジョマ「だったら入っちゃえば良くなって、気にならなくなりますよ、だから、ね? 一回、一回体験してみましょう? ね!」
なんだこの、口の上手いダメなナンパ男と、それに騙されてついてきちゃった女の子が、ラブホテル前で繰り広げる様なやりとりは。
僕はふと、ジョマのペースに乗せられている事に気付いて、正気に戻る。一度落ち着こう。
ロク「ちょっと、一度落ち着いて話し合おう」
僕はゆっくりと力を抜く。それを見てジョマも、引っ張るのをやめた。でも手を離してはくれない。
ロク「手を離してくれない?」
ジョマ「逃げるといけないので、お断りです」
ジョマがそう言うと、掴んでいる手に少し力が入る。本当に逃がしたくないらしい。
仕方がない。僕はとりあえず、ジョマに疑問を投げかける。
ロク「どうして、人員の要請とかしないの?」
騎士団と名がついているのだから、人員の要請でもすれば、誰か来てくれるのではないのだろうか。
こんな、今日会ったばっかりの人間を入れようとするより、よっぽど可能性は高そうだ。
ジョマ「もうしました、ダメだったんです」
そう言って、少し泣きそうな表情になったジョマが、訴える様に続ける。
ジョマ「私には向いてないんです! バカなのでぇ、ここに押し付けられるものは、本当に訳がわからなくて、もう気が狂いそうなんですぅ」
この部署は、島流し部屋とか、追い出し部屋の類なのだろうか。僕はそんな事を思いつつ、口を開く。
ロク「誰も来てくれない上に、一人が嫌なのは分かったけど、でも僕じゃなくても良くない?」
ジョマ「ロクはチョロい・・・・・・じゃなかった、正義感があるからです!」
ロク「今、チョロいって言ったよね?!」
ジョマ「言ってません! 聞き間違いですよ!」
真正面から僕に視線を向けて、ジョマは嘘をつく。
手をつないで、鼻の下を伸ばしてた訳だから、確かにチョロいのかもしれないけど。