実験体に花束を

スマ甘

【読切】 実験体に花束を(脚本)

実験体に花束を

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〇近未来の手術室
  半世紀前。 アムチトカ島で行われた実験が失敗。
  実験のために改造された動物たちが、施設から脱走してしまう。

〇海岸線の道路
  モンスターは世界各地で繁殖し、力の無い人間を襲った。
  世界各国は、数を増やしていくモンスターに対抗するため、ありとあらゆる技術を投入。
  枯渇と滅びを知らず、ただ繁栄を続けるモンスターとの全面戦争に突入する。

  そんなオレだって・・・・・・
  モンスターとの戦争で人生を狂わされた被害者なのかもしれない

〇川沿いの公園
モンスター「ギシャアァァ!?」
コウロ「雑魚のクセに、無駄に粘りやがって・・・・・・」
  オレは、かつて人間だった
  数が多く、力も強いモンスターに対抗しうる戦力を欲した国連が
  志願者や、怪我で戦線離脱を余儀なくされた軍人を対象に、強化手術を行い
  守るための力が欲しくて志願したオレも
  力を獲た結果、ヒトの姿を失ったのだ

  麻酔から醒め、変わり果てた自分の姿に驚いた
  モンスターのDNAを肉体に組み込んで強化するという、事前の説明とは異なる内容に怒った
  けれど、人間離れした力に陶酔した
  でも、再会を約束した者に、この姿は見せられない、と
  涙を流した・・・・・・
  同じ手術を受けた仲間たちは、「現実を受け入れろ」と言う
  でも、惨たらしい現実から逃避したくて
  オレは逃げ出した

〇川沿いの公園
コウロ「そういえばここは・・・・・・」
  傷が自己再生によって癒えるのを待っていたとき、あることに気づいた。
コウロ「アイツと最後に話した場所だったな・・・・・・」
  アイツはいま、どんな生活を送っているんだろう
  オレは、かつて愛した者のことを思い出す

〇草原
  昔、自然豊かな田舎町で出会った子供
  名前は、日立・エウグランディナ・ロセア
  甥っ子と紹介されたその子は、感受性豊かで悪いこともしない
  真っ直ぐで、純粋で、人を思いやれる子だった
  そして、共に生活しているうちに
  オレは・・・・・・
  オレは・・・・・・
  10歳も年下のロセアに
  ――心惹かれてしまったんだ

〇川沿いの公園
コウロ「こんな姿のオレを見たら、ロセアは悲しむだろうな」
コウロ「だから、オレはロセアの前から姿を消したんだ・・・・・・」
モンスター「ギャァァァ!?」
コウロ「!?」
  近くで戦闘!?
  急いで立ち上がろうとする。
  だが、足に力が入らない。
コウロ「毒か・・・・・・」
  一時的に動きをマヒさせる毒を注入されていたらしい
  分解は可能でも、動けるようになるまで少し時間がかかってしまう
  その間に国連の人間に見つかれば
  オレは捕獲され
  次は実験用のサンプルとして拘束されてしまうだろう
コウロ「オレもここまでか・・・・・・」
  近くで人の気配がする
  動けないオレは、全てを諦めようとした
日立・エウグランディナ・ロセア「ったく、雑魚がボクの邪魔しないでよね!」
コウロ「!?」
  ――自分の目を疑った。
  どうして・・・・・・
  どうしてお前が、ここにいる?
  なんでお前が、武器を持ってモンスターと戦っているんだ?
  オレが心の中で独白している間に、アイツはオレのそばにやってきた
日立・エウグランディナ・ロセア「あなた、強化手術を受けた怪人だよね?」
日立・エウグランディナ・ロセア「どこの所属?」
日立・エウグランディナ・ロセア「所属が言えないなら、脱走したヒトかな?」
  物怖じすることなく、アイツはオレに声をかけてきた
コウロ「――オレは、脱走した実験体だ」
日立・エウグランディナ・ロセア「そう・・・・・・」
コウロ「お前は国連の兵士か? まだ子供に見えるが・・・・・・」
日立・エウグランディナ・ロセア「いまは大人の数が減っちゃったし、強化されたヒトはほとんど脱走しちゃったりで」
日立・エウグランディナ・ロセア「まともに戦える人の数が減っちゃったんだ」
日立・エウグランディナ・ロセア「だから、小学5年生くらいの子供は、訓練を受けながら危険度の低い作戦に駆り出されるようになったの」
コウロ「子供を戦闘に・・・・・・だと?」
日立・エウグランディナ・ロセア「重い銃火器とか戦術とか覚えて、モンスターが現れたら出撃」
日立・エウグランディナ・ロセア「小物を蹴散らしつつ民間人を避難させたり、前線の兵士へ補給物資を運んだりしてる」
日立・エウグランディナ・ロセア「自慢じゃないけど、ボクは結構戦えるほうなんだよ?」
  子供が、少年兵として戦闘に駆り出される現実
  そういうことは、誇らしく語れることでは無いと思う
コウロ「ずっと、モンスターと戦っているのか?」
日立・エウグランディナ・ロセア「流石に前線には出ないよ」
日立・エウグランディナ・ロセア「ボクは人を捜すために国連に参加しただけだし」
コウロ「人捜し・・・・・・?」
日立・エウグランディナ・ロセア「いろいろワケありの人で、手がかりもほとんどなし」
日立・エウグランディナ・ロセア「国連に入っても、その人を見つけることはできないと思ってたよ」
  ロセアが捜している人は、オレのことなんだろうか?
日立・エウグランディナ・ロセア「でもね、捜してるヒトは・・・・・・いま見つかったよ」
コウロ「え・・・・・・?」
日立・エウグランディナ・ロセア「――また会えてよかった、コウロ兄」

〇川沿いの公園
  ――いつの間にか、雨が降り出した
コウロ「キミは何か勘違いしているようだが」
コウロ「オレは、キミが捜しているヒトではない」
コウロ「施設から脱走した怪人のひとりだ」
  ロセアに正体を暴露されそうになったオレは、虚勢を張ってごまかそうとした
日立・エウグランディナ・ロセア「いや、たしかにコウロ兄だよ」
日立・エウグランディナ・ロセア「証拠だってあるからね」
コウロ「証、拠・・・・・・?」
  ロセアは、自分の首元をトントンと叩く
コウロ「このドッグタグがどうした?」
  オレの首には、昔ロセアからもらったドッグタグが下がっていた
  でもこれはただの既製品で、なにか特別な仕込みは無いはず・・・・・・
日立・エウグランディナ・ロセア「実は、百合の花が描かれてるところに仕込みがしてあるんだ」
コウロ「仕込み・・・・・・?」
日立・エウグランディナ・ロセア「半径は狭いけど、現在地を発信するの」
日立・エウグランディナ・ロセア「しかも、体内に埋め込んだマイクロチップが近くに無いと作動しないギミック付き」
日立・エウグランディナ・ロセア「そして、ドッグタグは今も機能してる」
日立・エウグランディナ・ロセア「だから、ボクの目の前に居るヒトは、コウロ兄なんだよ」
  あのドッグタグに、そんな仕込みがあったなんて・・・・・・
  体内のマイクロチップは、姉が念の為に入れてくれたものだ
日立・エウグランディナ・ロセア「お父さんとお母さんには感謝しないとね」
  バケモノになったオレが目の前に居ても、ロセアは昔と変わらない振る舞いをする
コウロ「ロセアは、何とも思わないのか?」
コウロ「お前が懐いた叔父が、バケモノの姿になっているんだぞ!」
日立・エウグランディナ・ロセア「正直驚いた」
日立・エウグランディナ・ロセア「でも、強化手術の内容を知ってから、コウロ兄が怪人になってるって想像できたし」
日立・エウグランディナ・ロセア「コウロ兄と同じ施設に居たヒトから、コウロ兄のことも聞けたから」
日立・エウグランディナ・ロセア「もう驚いたりなんてしない」
日立・エウグランディナ・ロセア「元の姿に戻ってほしいなんて、願ったりしない」
日立・エウグランディナ・ロセア「ボクは、ありのままのコウロ兄を受け入れる」
コウロ「なんで・・・・・・」
コウロ「なんで、受け入れられるんだよ」
コウロ「バケモノになったオレを・・・・・・」
日立・エウグランディナ・ロセア「別に理由はないよ」
日立・エウグランディナ・ロセア「強いて言うなら」
日立・エウグランディナ・ロセア「コウロ兄が好きだから、かな?」
コウロ「な・・・・・・」
日立・エウグランディナ・ロセア「ボクはね」
日立・エウグランディナ・ロセア「強くてカッコイイ、男らしさ全開なコウロ兄のことが」
日立・エウグランディナ・ロセア「好きだったんだ」

〇川沿いの公園
  降っていた雨は、いつの間にか止んだ
  曇っていたオレの心が晴れるみたいに
  夜空には満点の星が煌めいている。
日立・エウグランディナ・ロセア「コウロ兄のことは、強化手術を受けたあと、作戦行動中に行方不明になった、ってことにしてる」
日立・エウグランディナ・ロセア「それなら、捕獲ではなく保護で済むからね」
日立・エウグランディナ・ロセア「あと、非人道的だった旧式の強化手術は凍結されて、もっと安全な技術も開発されたから」
日立・エウグランディナ・ロセア「コウロ兄みたいな被害者はもう出ないよ」
コウロ「そうか・・・・・・」
  オレが姿を消してから数年で、世界は変わり、大人しかったロセアは少したくましくなった
  あらゆる困難を乗り越えて、弱い者たちのために戦う術を身につけた
  叔父として、ロセアの成長は喜べることだと思う
日立・エウグランディナ・ロセア「雨で濡れちゃったし、乾くまで近くで休む?」
日立・エウグランディナ・ロセア「回収部隊の要請もしたし、このあとのことは基地で考えればいいから」
コウロ「そうだな・・・・・・」
日立・エウグランディナ・ロセア「じゃあ、そこで横になろう。 ボクが膝枕してあげる」
コウロ「なんでだよ」
日立・エウグランディナ・ロセア「コウロ兄、毒を打ち込まれたでしょ?」
日立・エウグランディナ・ロセア「あのモンスター、この辺りじゃ有名だったからね」
コウロ「・・・・・・もっと情報を集めておけばよかった」
日立・エウグランディナ・ロセア「行き当たりばったりでモンスターを喰うだけじゃダメだよ」
日立・エウグランディナ・ロセア「いつか食あたりを起こすからね!」
コウロ「うるさい」
  オレはロセアの頭を小突いた
  ロセアは笑いながらオレの横に座る
  オレは、ロセアの膝にそっと頭を乗せた
日立・エウグランディナ・ロセア「ちょっと想像してたより重たかったかも・・・・・・」
  なんて呟きが聞こえたが、それは無視することにした

コメント

  • 外見が全て変わってしまった時、その人をその人たらしめる核の部分はどこにあるのか、考えさせられました。それは自分自身の中ではなく、かつての自分を覚えてくれている他人の心の中に存在しているのかもしれません。ロセアの記憶の中にコウロがいる限り、コウロはこの先も自分を見失うことはないんだろうなあ。

  • 叔父と甥の固い絆に感動させられます。そしてこんなに純粋な子供たちにも戦いに加担させていく風潮が残酷で腹立たしです。世界のどこかでこの二人に似たようなことが起こっていないことを祈るばかりです。

  • 姿は違っても直ぐに二人の関係が分かったところが感動ものです。近未来では子供まで駆り出される始末で心なしか寂しい世界観が見えて来ました。

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