コドモタチノテキ

はじめアキラ

第十二話「ケセナイカコ」(脚本)

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〇黒背景
  自分の見た目とか、性格とか。
  そういうものを馬鹿にされることになら慣れていた。
  何故なら緒方五月に関して、それらは取るに足らないものでしかなかったからだ。
  自分が美人でないことも、空気を読めないことも。社交的な性格でないことも、自分自身がよくわかっている。
  かつては人に迎合しようとして、無理して明るいキャラを作っていた事もあったが続かなかった。
  積極的に話しかけようとすれば“そんな話はしてない”と言われる。“疲れているからほっといて”とすげなくされたこともある。
  それで結局孤立して、上辺だけの友達も作れないなら――最初から、一人で自分だけの時間を大切にした方がずっと気楽だ。
  そう、席替えとか、グループ決めの時にいたたまれないのを少しだけ我慢すればいい。それはとても、本当はとても辛いけれど。
  四六時中貼りつけたように笑っているよりかはずっとマシだ、と。
逸見真友「『友達を作らないで、いつも一人でいる人は余っても平気でしょ?」
逸見真友「それなのに、たくさんの友達と一緒にいたい人が我慢しなくちゃいけない理由がわからないわ」
逸見真友「余ってつらい思いをするとしたら、友達を作らない人の自己責任だと思います』」
  そんな自分の気持ちなんて、あの逸見真友にはまったくわからないのだろう。
  苦労せずに友達が作れて、美人で、成績も良くて、器用で。
  そんな人間はきっと、友達をどう作ればいいかなんて考えたこともないだろうから。
  だから、望んで一人でいるような協調性のない人間は自己責任、というような冷たい事が平気で言えるのだ。
  相性最悪。同じクラスになったのが不幸だと諦めてくれ。精々、思っていたのはそれだけだった。
  席替えの時の彼女の発言はどこまでも不愉快だったが、それ以上に諦めが勝っていたのだ。
緒方五月(好きにすればいいよ、あなたは。わたしは、わたしの楽なようにやらせてもらうだけだから)
  クラスの誰もと、仲良くすることなんかできるはずがない。
  三十四人も人間がいるのだから、嫌いな生徒やどうしても合わない生徒がいるのは当然のことなのだ。
緒方五月(だから、お互い距離取ってればいいでしょ。あなたもきっと、わたしのことが嫌いなんだろうから)
  そう思っていた。――想定外だったのは、その真友が。自分が思っていたよりもずっと過激で攻撃的な本性を秘めていたこと。
  そして、自分が思っていたよりもずっと五月のことを“憎んで”いたということである。

〇学校の廊下
逸見真友の友人A「あんたさ、ヲチ版でちょー叩かれてるよ。知ってるう?」
逸見真友の友人B「そうそう。自分がどんだけ嫌われてるかも知らないで、いい気なもんだよね」
  廊下ですれ違った、真友の友人達にそう囁かれた。
  それで初めて、自分が学校の裏掲示板と呼ばれるところで叩かれている事実を知ったのだ。
  なかなか酷いものだった。五月の引っ込み思案なところ、チビなところ、ちょっと太っているところ、地味な顔。
  それらを挙げ連ねて、匿名の人間が好き勝手に叩いているのだから。
  それも、一見すると複数の人間が(この時五月は、掲示板のIDとやらが自由に切り替えられるということを知らなかったのだ)。
  ちょっと見て、これは自分を苦しめるだけのものだと気付いて忘れようとした。
  確かに嫌なものだったが、自分の容姿や性格は五月自身好きではないし、嫌われても仕方ないとは思っている。
  ただ、学校の、すぐ身近にいる人間にそのようなことを思われているのが少々ショックだっただけのこと。
  嫌な人がいるもんだ、とその時は無理やり流した。まだ、それくらいの余裕はあったのだ。
  この時はまだ、真友が主犯であることも気づいていなかった。
  叩かれている内容からして“ひょっとしたらそうかも”と思ったくらいである。

〇教室
  次に攻撃が来たのは、クラスでもちょっとだけ喋る女子に話しかけられた時だった。
  大人しくて、五月ほどではないが本を読んだり絵を描くのが好きな少女、西田はるな。
  彼女に、LINEでお喋りをしないかと誘われたのである。
西田はるな「あ、あのね。緒方さん、本好きでしょ。私、本が好きな子たちとグループ作ってるの。良かったら、緒方さんも入らない?」
緒方五月「いいの?その、わたしホラーとか、ちょっとハードな現代ファンタジーとか、そういうのばっかり読んでるんだけど・・・話合う?」
西田はるな「いいよいいよ。そういうのが好きな子もいるから!」
  初めて、同じ趣味の友達ができるかもしれない、と思った。
  クラスの中でははるなの事はかなり信用できると思っていた方である。
  班分けなどで五月が余った時、グループに入れて貰ったこともあった。はるななら、友達になれるかもしれないと思ったのだ。

〇黒背景
  そのLINEグループが、はるな以外のメンバーほとんどがハンドルネームで登録されていた。
  その時点で、おかしいと思うべきだったのだ。
緒方五月「初めまして。仲良くしてくれると嬉しいです」
  グループに入って、当たり障りのない挨拶を五月がした直後。
  はるなを含めた全員が――グループから、抜けた。
  ハメられたのだ、とすぐに気付いた。LINE画面には淋しく、緒方五月、の名前だけが浮かび上がっていた。

〇教室
緒方五月「なんで、あんなことしたの?」
  五月が勇気を振り絞って尋ねると、はるなは目を逸らして言ったのだ。
西田はるな「ごめんね。どうしても、あのグループ続けられなくなっちゃったの。また、新しいグループ作ったら誘うから・・・・・・」
  当然、二度目の誘いは来なかった。それどころか、はるなは以降ほとんど五月に話しかけてこなくなったのである。
  何かがゆっくりと、足元から崩れていくような気がしていた。その音を、無理やり五月は聞かないようにしていた。だが。

〇黒背景
  『見て見て!Оさんの登録してる小説サイト見つけちゃったー!』
  昔から、五月が趣味で書いていた小説。その小説を、何年か前から小説投稿SNS“スターライツ”で投稿していた。
  本当に、自分の小説をほんのちょっとだけ人に見せたい、それで楽しんで貰えたら嬉しい、くらいの気持ちだったのである。
  まさかそのアカウントがバレて、学校の裏掲示板で晒されるだなんて。
  スターライツで最近アクセスが急増し、
  しかも荒らしとしか思えないような感想コメントが増えたのでおかしいと思って掲示板を確認したら、案の定だったというわけだ。
  掲示板で、五月が書いている小説が叩かれ始めた。文章が拙いこと、キャラに魅力がないこと、話が面白くないこと。
  それは、五月にとっては自分自身の容姿などを叩かれるよりもよほど許せないことだったのである。
  確かに、自分の作品はプロと比べると全然拙いし、面白くないのだろう。
  でも、自分はプロになりたくて小説を投稿していたわけではない。ほんの少し、趣味を自分なりに楽しみたかっただけだ。
  それがどうして、こんな形で晒し上げられ、侮辱されなければいけないのだろう。
緒方五月「許せない」
  最初は。真友よりも、はるなの方が憎たらしかった。
  スターライツのハンドルネームを、はるなにはちらっと漏らしたことがあったから。彼女が犯人だとしか思えなかったから。
緒方五月「こんなこと、許せない。絶対に、許さない!」
  もし。辻本先生に相談しなかったら。自分ははるなを殺そうとしてしまっていたかもしれなかった。
  彼女から、真実を聞かされなかったら。

〇教室
辻本先生「あのね、緒方さん・・・・・・」
  辻本先生は、悔しそうな顔で言ったのである。
辻本先生「あなた、本気で復讐したい?そのために・・・・・・自分の人生をも、賭ける覚悟はある?」

次のエピソード:第十三話「イカリ」

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