コドモタチノテキ

はじめアキラ

第十三話「イカリ」(脚本)

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〇黒背景
  自分の本当の敵が誰なのかわからない。誰が自分を攻撃し、いじめているのかも知ることができない。
  SNSいじめの恐ろしいところは、そこにあるだろう。
  だから、わかりやすくLINEグループでの仲間外れ、をやってきた西田はるなこそが黒幕だと五月は思い込んでしまったのである。
  ――本当の黒幕は、自分が矢面に立つことさえしないタイプであったというのに。

〇階段の踊り場
  辻本先生がその会話を聞いたのは、偶然だったという。
  逸見真友と、その友人達が。ネットの裏掲示板について書きこんでいると話しているのを、偶然廊下で聞いてしまったのだそうだ。
  それから、西田はるなを脅して無理やりLINEいじめに加担させたことも。
逸見真友の友人A「見た見た?緒方のさ、すっごく絶望した顔!」
逸見真友の友人B「まさか西田にあんなことされると思ってなかったんだろーね。マジでいい気味~」
逸見真友の友人A「さっすが真友だよね。よく思いつくわ。西田を使うなんてさ」
逸見真友「お褒めに預かり光栄です、ってね」
逸見真友「西田さんも、これでちょっとは反省して、みんなと仲良くする努力をしてくれると思うの。一石二鳥よね」
  この時まで。辻本先生にとって逸見真友は、クラスの中心人物であり優等生というイメージが強かったという。
  女子達のまとめ役であり、男子達の喧嘩も時折仲裁に入る勇敢な症状。頭も良く、受験勉強も熱心にしている将来有望な生徒だと。
逸見真友「あたしはね、クラスのみんなで“仲良く”してほしいの。だって、みんながみんな友達になれるってすっごく良いことでしょ?」
逸見真友「だから、緒方さんや西田さんみたいに協調性のない人達には、ちゃんとクラスのための行動をしてほしいわけ」
逸見真友「そういう努力をしてほしいわけ」
  しかし、交わされていた会話は酷く偽善的で、身勝手で。
逸見真友「そのためには。あたしを中心にみんなでまとまっているのが一番だと思うのよね」
逸見真友「西田さんはすごく臆病な子だけど、クラスのパワーバランスというか、力関係がちゃんとわかってる子で良かったわ」
逸見真友「あたしのお願いを断ったら自分がどうなるか、よーくわかってたもの」
逸見真友の友人A「うんうん。うちのクラスで真友を敵に回したらマジで終わるもんね」
逸見真友の友人B「そうそう。緒方一人ハブにして、真友と“友達”でいられるならみんなそっち選ぶつーか?」
逸見真友「でしょ?その点、緒方さんはちょっと理解が足らなくて残念だから、しっかりと教育してあげなくちゃって思ってて」
逸見真友「クラスは平和になるし、あたし達も受験の鬱憤を晴らせるし、緒方さんはみんなと仲良くなれる良い子になれていいことづくめでしょ」
逸見真友の友人A「マジその通り!」
逸見真友の友人B「西田の奴が、緒方のスターライツのアカウントを“親切に”教えてくれたおかげで、ヲチに晒す材料できたしね」
逸見真友の友人A「小説サイトのスターライツって、プロ志望の人もたくさん投稿するとこじゃんね」
逸見真友の友人A「緒方のやつ、あの程度の文章力でマジでプロになれるとか思ってんならウケるわ」
逸見真友「そうそう、だからそっちも指導してあげないとね。叶わない夢なら諦めるのが一番って“みんな”で教えてあげなきゃ」
逸見真友の友人B「ほんと、マジで真友ってばやさしー!」
  まるで、悪魔のようだった。無邪気で、笑顔で。
  人がずっと大事にしていたものを兵器で踏みにじるような人間の顔をしていたと、辻本先生は教えてくれたのである。

〇黒背景
  先生のおかげで、五月は本当の“敵”を知ることができたのだった。
  確かに、五月は真友に反発したことはある。席替えの時とか、ちょっとしたディベートの時とか。
  彼女がみんなに“良い”と勧める意見を突っぱねたことが一回二回くらいはあったはずだ。
  だがしかし、それだけのことではないか。あとはただ、普段少し一人でいるのを好んでいただけ。
  真友と直接話すことさえ殆どなかったというのに――何故それだけで、ここまで嫌われて攻撃されなければいけないのだろう。
緒方五月(西田さんのことも許せないけど。・・・・・・でも西田さんをどうにかしたって、このクラスは変わらない)
  優等生の仮面を被って、真友は自分の思い通りのクラスを作ろうとしている。
  自分が女王として君臨できる、自分にとってのみ平和で楽しいクラスを。
  こんなことを許していいはずがない。
  彼女がこのクラスから消えなければ――五月の世界は、けして変わらない。

〇教室
辻本先生「・・・・・・ネット苛めが行われているから、なんとか指導したい」
辻本先生「主犯はわかっているからそちらを隔離できないかと校長先生にもお願いしたのよ」
  辻本先生は悲しそうな顔で、五月に言ったのだった。
辻本先生「だって、いじめって・・・・・・いじめをやる人間が100%悪いじゃない」
辻本先生「なのに、何でいじめられた側が逃げなくちゃいけないの、おかしいでしょ」
辻本先生「変わるべきは、正しい人としての教育を受けて治療されるべきは加害者の方だわ」
辻本先生「・・・でも、校長先生も教頭先生も、受け入れてくれなかったの。義務教育として、逸見さんたちが教育を受ける権利を奪うのかって」
緒方五月「そ、そんな・・・・・・」
辻本先生「おかしいわよね。私もおかしいと思うわ」
辻本先生「じゃあ、いじめられた子が不登校という手段で学校に来れなくなって、教育を受ける権利を行使できなくなるのはいいの?」
辻本先生「何で加害者が守られて、被害者が我慢するのが当たり前なの?」
辻本先生「・・・・・・こんな馬鹿げた考えのままじゃ、日本の教育はいつまで経っても変わらないわ」
  私は、この学校を、教育を変えたい。
  そして貴女を救いたい、と辻本先生は言った。
辻本先生「お膳立ては全部私がするし、最後の矢を放つかどうかは貴女に委ねるわ」
辻本先生「・・・・・・緒方さん。貴女にその覚悟があるなら・・・・・・私は教師生命も、何もかもを擲つつもりよ」

次のエピソード:第十四話「シンジツ」

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