第一話「恋文先生」(脚本)
〇教室
教師「いいですか? この一文には作者の気持ちが現れていて──」
七草詩織「・・・・・・」
普通なら、先生の言葉や板書された内容は、ノートにしっかりと書き記していかないといけないんだろう。
でも、私の視線は今、クラスのとある男子──高田雄馬君の背中に注がれていた。
七草詩織「やっぱり、雄馬君はカッコいいな・・・」
見ているだけで、胸が高鳴ってくる。
溢れ出してしまいそうな彼への想いを、私はノートへと書き連ねていく。
七草詩織(月が綺麗ですね。背中を見ているだけなのに、私はあなたにそう伝えたくなります)
七草詩織(それだけ私はあなたに対して──)
教師「七草さん、何をしているんですか?」
七草詩織「せ、先生?」
教師「何を書いていたのかは知りませんが・・・授業を聞かずに書いていた物です」
教師「せっかくですから、クラスの皆の前で朗読でもしてもらいましょうか」
七草詩織「ご、ごめんなさい! それだけは・・・」
こんな文章を朗読させられたら、恥ずかしくて死んでしまう。
教師「今回は、勘弁しておいてあげます。 次は朗読してもらいますからね」
教師「ですが授業後、職員室まで来るように」
七草詩織「は、はい・・・」
〇教室
授業後。職員室から教室に戻ると・・・。
男子「うおっ!? 蜂!?」
女子「え、嘘、どこ!?」
教室内に忍び込んだらしい蜂に、クラスの皆が大騒ぎをしていた。だが・・・。
高田雄馬「危ない!」
丸めた教科書を手に持った雄馬君が、素早く蜂を退治してしまう。
女子「あ、ありがとう雄馬」
女子「雄馬君、よく咄嗟に動けるね……」
高田雄馬「いや、刺されそうになってる人見たら放っておけないだろ?」
七草詩織(雄馬君はすごいな。 私だったら怯えるだけで絶対動けないのに)
三井楓「お帰り、詩織。災難だったね」
女子に囲まれている雄馬君を見ながら、自分の席に座ると、友達の三井楓が話しかけてくる。
七草詩織「怒られたのは自業自得だからいいんだけど・・・」
三井楓「? 他にも何か言われたとか?」
七草詩織「うん。その・・・以前、授業で作文を書いたでしょう?」
七草詩織「その時の作文がコンクールで最優秀賞を受賞したって言われて・・・」
三井楓「え? すごいね、詩織!」
三井楓「でも、ならどうして落ち込んでたの?」
七草詩織「受賞しただけなら嬉しいよ」
七草詩織「でも明日、その発表会をするから、全校生徒の前で朗読してほしいって・・・」
七草詩織「発表なんて私には無理だよ・・・」
三井楓「詩織、目立つようなこと苦手だもんね」
七草詩織「・・・私みたいな引っ込み思案じゃなくて、楓が受賞してればよかったのに」
お嬢様で、容姿端麗な楓なら、きっと失敗なく発表を終わらせられる。
三井楓「変われるのなら変わってあげたいけど、最優秀賞を取ったのは詩織なんだから!」
三井楓「だから頑張って、詩織!」
高田雄馬「最優秀賞って、七草、何かの賞を取ったのか?」
七草詩織「ゆ、雄馬君!?」
高田雄馬「ああ、いきなり話に入って悪い。 ちょっと話が聞こえたから気になって」
高田雄馬「それで、何の賞を取ったんだ?」
三井楓「この前書いた作文あるでしょ? あれで詩織が最優秀賞を取ったんだって」
高田雄馬「へえ! すごいじゃん、七草!」
七草詩織「あ、ありがとう、雄馬君・・・」
雄馬君が褒めてくれるのは嬉しい。
嬉しいんだけど・・・。
七草詩織(全校生徒の前で発表ってことは、雄馬君も聞くってことだよね・・・)
七草詩織(ぜ、絶対に失敗できない・・・! 明日の発表、頑張らないと・・・!)
〇体育館の舞台
教師「それでは、最優秀賞を受賞した七草さん、壇上へどうぞ」
七草詩織「は、はい!」
緊張で足がもつれそうになりながらも、何とか壇上へと上がる。
七草詩織(大丈夫・・・周りはみんなジャガイモ、ジャガイモ・・・!)
自分に暗示をかけながら、少しでも落ち着こうと努力する。
七草詩織「あれはジャガイモ、ジャガイモ・・・」
男子「・・・ジャガイモ?」
女子「いきなりどういうこと?」
七草詩織(も、もしかして私、声に出しちゃってた!? ど、どうすれば・・・!?)
混乱して、助けを求めて辺りを見回すと、口パクをしている楓が目に入る。
三井楓「読・ん・で! ゲ・ン・コ・ウ!」
七草詩織「あ・・・」
七草詩織「こ、『言葉と私』。 二年A組、七草詩織。私は──」
楓のおかげで、自分がどうして壇上にいるのかを思い出した私は、慌てて作文を朗読し始めるのだった。
〇学校の廊下
七草詩織「やっちゃった・・・」
七草詩織(雄馬君にもきっと、呆れられたよね・・・)
七草詩織「・・・今日はもう、早く家に帰ろっと」
高田雄馬「あれ、七草。今日はお前一人なのか?」
七草詩織「ゆ、雄馬君!?」
七草詩織「う、うん。楓は部活だから・・・」
高田雄馬「そうなのか。ちょうどよかった」
七草詩織「え?」
高田雄馬「お前に話したいことがあるんだ」
高田雄馬「今日の発表会で七草が読んだ作文、すごくよかった。聞いてて色々と考えさせられたよ」
七草詩織「そ、そうかな・・・」
七草詩織(雄馬君がまさか、私の作文を褒めてくれるなんて・・・)
七草詩織「もしかして、それを言うために声をかけてくれたの?」
高田雄馬「いや・・・」
高田雄馬「あんな作文を書けるお前に、頼みがあるんだ」
七草詩織「頼み・・・?」
高田雄馬「その・・・これ、読んでくれないか?」
七草詩織「こ、これって手紙?」
七草詩織(も、もしかして私へのラブレター!?)
七草詩織(でも、まさか雄馬君が私になんて・・・って、あれ?)
七草詩織「『dear三井楓さん』・・・?」
高田雄馬「実はさ、お前の友達の楓さんに、告白したいんだ」
高田雄馬「でも、手紙なんて書いたの、生まれて初めてだからさ」
高田雄馬「だから、作文の上手い七草の、率直な意見を聞きたいんだ」
七草詩織「え・・・?」
七草詩織(雄馬君、楓のことが好きなんだ・・・やだ、涙出てきちゃった)
七草詩織(・・・こんなところで泣いたら、雄馬君に見られちゃう・・・我慢しなきゃ)
七草詩織(それに、せっかく雄馬君が私を頼ってくれたんだもん。とりあえず手紙を読まないと・・・)
七草詩織「って、これ、なんて書いてあるの?」
雄馬君には悪いが、文字が下手すぎて、何が書いてあるのか全然わからない。
七草詩織(一部は何とか読めるけど・・・)
七草詩織(君と喋ると心がバーニング! 気持ちファイヤー! 心臓はエクスプロージョン!)
七草詩織(・・・これ、どういう意味だろう? わからないけど・・・)
七草詩織「と、とりあえず、もう少し読みやすい字を書いたほうがいいと思うよ・・・」
高田雄馬「そうか! さすが最優秀賞の意見は違うなぁ」
高田雄馬「先生! お願いだ! 俺にラブレターの書き方を教えてくれ!」
七草詩織「え、ええー!?」
〇白
こうして私は、雄馬君に恋文先生として、ラブレターの書き方を教えることになるのだった。
高田雄馬くんのキャラクターが、正統派ヒーローのようでいて、独特なセンスの持ち主だった所がよかったです!
主人公が引っ込み思案なので、最終的に、雄馬くんに告るのか、告らないのか。告るとしたら、彼女らしく文章で告るのか、勇気を出してハッキリ言葉にして告るのか……などなど、色々な想像を働かせてしまいました!
個人的には、お嬢様の面白い一面も覗いてみたいです!